中国人が実際には話さない「〜アルヨ」 イメージはなぜ広まった?
実は日本史に関係している?【追記】
出典
金水敏『コレモ日本語アルカ? 異人のことばが生まれるとき』(岩波書店、2014)
2017年10月20日18時55分 追記:本記事について、読者から「大阪大学教授の金水敏氏による著作と内容が重複しているのではないか」というご指摘を受けております。編集部では現在、ご指摘内容について調査しており、判明次第本記事内に追記いたします。
同20時5分 追記:記事初出時、記事執筆時に参考にした上記出典について、記事本文中に記載されておりませんでした。お詫びして訂正いたします。
東京に引っ越してから、筆者は街中で外国人を見かける機会が増えました。特に中国人の方たちには毎日といってもいいほど出会います。
彼らが日本語で店員と話しているのを見るたびに思うことは、
マンガやアニメでよく見かける、「〜アルヨ」という表現、あれ何なの……? ということです。
「アルヨ」は「ワタシ中国人アルヨ」のように、中国人特有の語尾とされていますが、実際にそんな話し方をしている人など見たことがありません。どうして、このようなステレオタイプが生まれたのでしょうか?
まずは「アルヨ」の歴史をたどる前に、「役割語」という概念をおさえておきましょう。
「役割語」とは?
例えば、小説に「ワシが佐藤じゃ。お主のことは山本から聞いておる」と話すキャラクターがいたとします。すると読者のほとんどは何の説明がなくても、「佐藤」がおじいさんであることを理解します。
この「ワシ」「じゃ」「おる」のように、フィクションの世界で人物のキャラクター付けのために使われる言葉を「役割語」と言います。「アルヨ」は、中国人を表現するための役割語。本物のおじいさんの一人称が「ワシ」とは限らないように、中国人も実際に「アルヨ」と話すわけではありません。
では、どうしてこのような役割語が生まれたでしょうか。かつての中国人が使っていたから? この仮定は半分正解で、半分間違いです。
欧米人も「アルヨ」と言っていた?
「アルヨ」の起源は幕末にまでさかのぼります。
1858年の日米修好通商条約を皮切りに各地に設けられた外国人居留地では、欧米人や中国人によって生み出された独特な日本語が話されていました。助詞が省略されていたり、語順がバラバラだったりといびつで、「アルヨ」もここから生まれた表現だとされています。
つまり、この時点では「アルヨ」は外国人に特徴的な表現で、中国人限定のものではなかったのです。
その後、大正から昭和初期にかけて、日本人は台湾や満州に入植。中国人と日本人の接触が増え、このときもやはり上記のようないびつな日本語が使われました。特に満州国で用いられたこうした日本語は「協和語」と呼ばれ、中国人独特の表現となっていきました。
そうして、「アルヨ」のイメージが「外国人の使う日本語」から「中国人の使う日本語」に塗り替えられたというわけです。
2017年10月20日12時30分追記:「協和語」に関する記述を一部追記しました。
現在では、「〜なのじゃ」と話す年配の人にはほとんど出会わなかったり、「〜だわ」「〜なのよ」といったいわゆる“女性ことば”はフィクションの中でしか使われない表現になりつつあるなど、役割語の持つ意味も変わってきています。「〜アルヨ」のような画一的な表現は、今後見かけなくなっていくのかもしれません。
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