「煮物は冷ますと味がしみる」はただの勘違い? 分子調理学者が考える“最もおいしいおでんの作り方”
わざわざ冷まさないほうがよかった可能性。
料理好きなら誰もが一度は耳にする「煮物は冷ますと味がしみる」という話。おいしく作るために、実践している人も多いのでは?
しかし、実験により「むしろ煮込み続けた方が煮汁がしみる」ことが分かった、と研究者の石川伸一さんがツイートしています。な、なんだってー!
石川さんは、「煮物への煮汁の“拡散”」について研究している分子調理学者(料理について科学的に解明する分野)。日本調理科学会で、煮汁がどれくらい具材に浸透しているかを着色料で可視化した実験について発表しています。それによれば、大根、こんにゃくなどでは、冷蔵保存よりも常温保存のほうが煮汁がしみるとのこと。
このような現象が起こるのは、調味料が食材内に拡散する速度が、温度が高いほど早いため。つまり、煮物をわざわざ冷ましてしまうと味がしみ込みにくくなる、ということになります。むしろ、逆効果だったのか……。
では、なぜ「煮物は冷ますと味がしみる」といわれるようになったのでしょうか。石川さんは、うま味、甘味の感じやすさが温度によって異なる一方、塩味はこのような変化が小さいことから、「(冷めた煮物は)より塩味をきつく感じるため」ではないか、と推測しています。実は、冷めたまま味見したときの勘違いから生まれた料理の格言だったのかもしれません。
なお、この研究はあくまでも「どうすれば、より煮汁がしみ込みかどうか」に焦点を当てたもので、「どうすれば、よりおいしくなるか」ではありません。
おいしさを追求するためには、煮崩れたり、味が濃くなり過ぎたりといった問題にも考慮する必要がある、と石川さん。例えば、“最もおいしいおでん”を作るには、圧力鍋、保温鍋などの調理器具を具材によって使い分け、各具材に最適な加熱温度、時間、圧力で調理したほうがよいと考えているようです。
ちなみに、この“最もおいしいおでん”の作り方を突き止めるのに必要な研究期間を伺ったところ、さらに「数年間実験する必要がある」とのこと。科学が煮物の世界に革命を起こす日は、そう遠くないのかも……?
(マッハ・キショ松)
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