漫画海賊サイトの「海外サーバだから合法」はどこまで通る? 政府の対策について文化庁著作権課に聞いた(2/2 ページ)
海外で運営していたら「違法じゃない」は無根拠 過去の判例は
漫画の海賊版サイトにはなすすべがないのか。
一般論として、著作物を著作権利者に無断で公衆送信する行為は違法だ。しかし海賊サイトといえば海外にサーバを置くなどして運営実態の特定や違法行為の証明を難しくし、権利者側も警察側も手を焼いているのが現状となっている。
まず確認しておきたいのは、「海賊版サイトが日本国外で運営されている場合、違法性がないのか」という点だ。
2017年秋から月間利用者数が急上昇している海賊サイトMは、公式のサイトで「国交のない・著作権が保護されない国で運営している場合は、違法性がない」と安全性を主張している。それを鵜呑みにして利用する人も後を絶たないが、本当にそうなのか。
海外にサーバがあっても、日本の著作権法の適用を認めた判例は、過去にある。2月9日の衆議院国会で、このMの主張について丸山穂高衆議院議員(日本維新の会)が質問したところ、文化庁次長・中岡司氏は次のように回答した。
「我が国の判例で、国外に設置されたサーバを用いたサービスを通じて、権利侵害となるファイルの送信が行われていた事業において、当該サービスによるファイルの送受信の大部分が日本国内で行われていること等の事情を勘案して、当該サービスの提供について、我が国の著作権法の適用を認めたものがあると、承知しております」
この判例は俗に言う「ファイルローグ裁判」で、2005年3月31日に東京高裁が下した判決だ。ファイル交換サービス「ファイルローグ」で無断複製された楽曲データが送受信されている件について、運営の日本エム・エム・オーに対しレコード会社などが損害賠償を求めたもの(関連記事)。佐藤久夫裁判長は、運営側に約7100万円の賠償金支払いとサービス差し止めを命じた一審判決を支持し、運営側の控訴を棄却した。
運営側は主張の1つとして、「サーバはカナダにあり、自動公衆送信権ないし送信可能化権が法定されていない国であるため、ファイルの送受信は適法」と訴えたが、裁判長は「控訴人会社は日本法人であり、控訴人会社サイトは日本語で記述され、本件クライアントソフトも日本語で記述されていることからは、本件サービスによるファイルの送受信のほとんど大部分は日本国内で行われていると認められる。控訴人会社サーバがカナダに存在するとしても、本件サービスに関するその稼動・停止等は控訴人会社が決定できるものである」「控訴人会社サーバが日本国内にはないとしても、本件サービスにおける著作権侵害行為は、実質的に日本国内で行われたものということができる。そして、被侵害権利も日本の著作権法に基づくものである」と取り下げた(日本ユニ著作権センター、公式サイトの判例全文より)。
※2020年1月5日追記:当初、裁判長の発言としていたものは被控訴人の発言でした。お詫びして訂正いたします。
判例を踏まえると、海賊版サイトMの「違法性はない」という主張は無根拠な暴論だ。そうだというのなら運営の実態や運営元を明らかにすべきだろう。
政府が検討している対策 「ブロッキング」「広告の停止」
次に、海外で運営しているような漫画の海賊サイトに対し、国はどのような対策を検討しているのか。内閣府の知的財産戦略本部の検証・評価・企画委員会では次の2点を検討しているという。
1つは“サイトブロッキングの導入”。サイトブロッキングとは特定のサイトへの通信をプロバイダー側が強制的に遮断する手法。例えば国の決定により先ほどのMに国内プロバイダーが一斉にブロッキングをかけると、ほとんどの利用者はアクセスできなくなる。しかし日本国憲法における「通信の秘密」を侵害することが懸念され、導入は検討されてはいるもののなかなか進んでいない。
2017年4月の同委員会の会合で、ドワンゴ取締役CTOの川上量生氏はサイトブロッキングについて「違法ダウンロードの防止策として究極的な方法なのです。これ以外に根本的な解決方法がない」とし、次のように説明していた。
「現在世界中の国でサイトブロッキングの導入が進んでいます。通信の秘密においても、例えば昨年ドイツの最高裁ではそれに当たらないという判決が出たりもしていますので、世界的な流れはGoogleさんのロビイング(編注:特定の主張を有する個人または団体が政府の政策に影響を与えようとする政治活動)の力の強いアメリカ以外ではどんどん進んでいるのが現状ですので、既に議論をしていい段階になっていると思います」
もう1つは、“海賊版サイトへの広告出稿の停止”。漫画の海賊版サイトの運営者は、著作物を違法に無料で公開する一方で、サイトに掲出された広告収入で巨額の利益を得ているとされている。その収入源となる広告出稿を抑止しようという意見だ。
「使いやすい正規品」の必要性 消費者たちのモラル
法整備や国の制度だけでなく、出版社のような著作権利者側にも求められることがある。海賊版サイトに“使いやすさ”で負けない正規版の漫画の利用サービスを作ることだ。海賊版サイトを利用する側の意見として、無料だからというだけでなく「作品が網羅されている」「配信が早い」「読みやすい」など、使い勝手の良さを指摘する声があるのも事実だからだ。
『SKET DANCE』『彼方のアストラ』などで知られる漫画家・篠原健太氏は2月5日にTwitterで、「もっと電子書籍を売れるように工夫すれば少なくとも作家の存続にはつながる」「とはいえまだ漫画の電子市場は小さい」とした上で、「買う」と「読む」だけに特化したコミック専用端末をイラストで提案。計2万回以上リツイートされ多くの同意を集めた(関連記事)。その一連のツイートの中で、海賊版サイトについて次のように触れた。
「違法サイトに関しては僕はもちろん反対ですし撲滅したいと思っています。ただ違法サイトを根絶やしにできたら漫画の売上が上がるとはとても思えません。やり方は最悪ですが安くて(無料で)扱いやすいを先にやられちゃってるだけの話なので、こちら側がそれを追い越す以外に手はないと思います」
また忘れられてならないのは、消費者たちのモラルの問題だ。違法ではないからとはいえ海賊サイトを閲覧、ダウンロードすることは、漫画文化の衰退に手助けしているに等しいという意識を社会で持たなくてはならない。
1月の全国出版協会の発表によると、2017年の紙のコミックス(単行本)の売り上げは前年比約13%減となる約1694億円で、初めて2桁台の減少に。電子コミックスは前年比17.2%増となる1711億円で一応増加したものの伸び率は下がっており、協会は理由の1つに海賊版サイト問題をあげていた(関連記事)。
2017年10月に逮捕された海賊版誘導サイト「はるか夢の址」の被害額は、2017年6月までの1年間でサイトを通じダウンロードされたと推定されるデータをもとに算定すると、約731億円。電子コミックス市場の約4割に相当する。「はるか夢の址」がなかったらこの額全てが売り上げに上乗せされていたとは思わないが、まったく影響がなかったわけではないだろう。
海賊版サイトの利用は、運営者の広告収入を増やして違法行為を助長させる一方で、作り手側にお金が入らないばかりか正規版からの収益も減らしかねない。受け取るべきだった利益が当の漫画家に入らず、新しい漫画が生まれる可能性、作品を通して新しい感動や価値観に出会う未来を自分たちでつぶしているかもしれない。そんな事態を招く前に、利用をやめるモラルを持つことが求められている。法整備や新サービスを待つのと違い、「利用しない」と選択することは今すぐに誰だってできる対抗策なのだから。
(黒木貴啓)
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