アニメ「ハイスコアガール」1話スタート! あの日、ぼくらは薄汚いゲーセンで夢を見ていた(1/2 ページ)
【ネタバレあり】薄暗くて汚かったゲーセンに通っていた日々
ゲーセンで燃やした青春があった。ゲーセンで育った恋があった。格ゲーが盛り上がっていた90年代を舞台に、少年少女の成長を描くジュブナイル「ハイスコアガール」は、当時を経験していた人も、そうではないゲーム好きも、そしてかつて子どもだった全ての大人が、共感できる悩みをたくさん練り込んだ作品です。
ゲーム大好き少年のハルオと、ゲーセンに似つかわしくないお嬢様・大野。最悪な出会いで始まった2人の関係は、ゲームを通じてどんどん変わっていく。学生時代に体験する困惑が、実在したゲームになぞらえながら表現されます。全力でゲームに打ち込む少年少女が、全力で自分の気持ちに立ち向かう物語。
ゲーセンというオアシス
今でこそ店内は明るく、基本禁煙で、プリクラやUFOキャッチャーなどが並んで入りやすくなったゲーセン。しかし90年代初頭は「ゲーセンは不良のたまり場」とよく言われていたものです。今思うと、不良ってよりはみ出し者って表現の方が正しいような気がする。
タバコの吸殻があちこちに転がり(※基本喫煙OKで灰皿が筐体に置かれていたものの、大体ヒートアップしてひっくり返すから)、小汚い店も多く(※おばちゃん1人で経営している、とかがざらだったから)、お世辞にも「安らげる場所」ではありませんでした。
1991年。格ゲーマーにとっての創世の年。「ストリートファイターII」稼働の年です。ゲーセンに通う人の数を爆発的に増やしました。台の前には行列ができ、駄菓子屋やスーパーに筐体が置かれ、連コインをしてひんしゅくを買う奴が現れ……と大賑わい。もちろんその前からたくさんのゲームは稼働していたものの、やっぱり対戦が主軸に作られていたのは大きい。
小学生の矢口春雄(ハルオ)も、ストIIに魅入られた人間の1人。勉強はてんでダメ、運動も全くできない。けれどもゲームは心の底から好き。彼にとって、ヤニ臭くイライラした空気の立ち込めるゲームセンターは、大切な自分の居場所でした。
「学校じゃ肩身のせまい思いをしている俺が ここでは他人から称賛される…!!」
もちろん、ゲームセンターに行くのは学校側からしたらアウト。いわゆる「盛り場」ってやつ。正直子どもには行かせたくないと思うのも仕方ない場所です。まあお金も使うしね。カツアゲとか不安になるしね。
実際、ハルオも年上の理不尽には巻き込まれていました。格ゲーは特に「台向こうの相手に負ける」というのが明確なので、いらだちで台パン(筐体をガンガン殴ること)や台キック(筐体を蹴飛ばして相手をビビらせること)は日常茶飯事。格ゲーからリアルファイトになるのを見たことある人、多いのでは。対戦中、灰皿が上から飛んできた経験はあります。
出会い
学校でははみ出し者だったハルオ、ゲーセンに居場所を見つけたとはいえ、別にグレたわけじゃない。珠玉のゲームに出会い、魅了され、夢中になれた。だからゲームのある場所ならどこにだって行きます。隣町だって楽しそうに出掛ける彼の姿は、キラキラしている。
しかし、自分のオアシスにやってきた優等生に、彼は最初激しい劣等感を覚えます。
同じクラスの小学生女子、大野晶。頭がよく、親は大金持ち、しかも美少女。男子からも女子からも慕われる存在。
そもそもゲーセンに小学生のお嬢様がいるってことが、当時ならまず想像も及ばない。プリクラとかないんだぜ。99%男のむさ苦しい世界だったぜ。
その上死ぬほどゲームがうまい。大の大人相手に何十連勝もする。学校では比較されて、頭がいい方、悪い方、みたいにバカにされているハルオが、唯一伸び伸びできたのがゲーセンだったのに。ゲーセンでまで負けるとなると、もうパラダイスを踏み荒らす敵にしか見えない。
最初の出会いでは、ハルオにしてみたらただの邪魔者でしかなかったので、なぜ彼女がここにいるのかまで頭が回りませんでした。次第に彼女と会う機会が増えていきますが、どっちかというと、まだまだ珍獣を見ているような感じ。
今の20代以下だと実物を見たことない人も多いであろう、脱衣麻雀。華麗にプレイする大野に、さすがにハルオもドン引き。しかも恐ろしいことに、彼女は麻雀でもうまくて、脱がせている。
かつてのゲーセンでも、隅っこに追いやられていた脱衣麻雀台。ダンボールで周囲から見られないように仕切りを作っていたところもありました。そのくらい年齢制限的なものがガバガバ。
でも正直、エロが見たいってより、いけない遊びをしたい、という気持ちをそそるのが脱衣麻雀だったんじゃないか。だってドット絵の女性劇画っぽくて怖いんだもん。大野があえて脱衣麻雀しているのも、そういうアウトロー感、踏み出しちゃった感を味わっているからなんでしょうけれども、この頃のハルオにゃわかるまい。
全くしゃべらない、変なやつ。ただ、ゲームがめちゃめちゃうまい。彼のかつてのコンプレックスや憤りは、リスペクトへと変わっていきます。
転機になるのが、駄菓子屋での「ファイナルファイト」乱入プレイ。大野がやっていたハイスコア狙いのプレイに気付かず、ハルオが助け舟出すつもりで勝手に50円(100円でプレイする所にはそもそも行かない)入れて乱入したもんだから、大野はブチギレ。
普段言葉を発しない大野。ハルオと頻繁にゲーセンで出会うことで接触は増えたものの、横に並んで一緒にゲームをしたのは初めて。ゲームを通じて、全力で自分の本音を吐き出し合うコミュニケーションを体験します。それが悪い方であっても、お嬢様には初めての気持ちです。
ゲームにおけるハイスコアは、遊びじゃない。自分の持てる全ての力を出して挑む戦いです。誰かが褒めてくれるわけでもないけれども、自分と戦った証は自分で褒めることができる。だから大野は、ゲームに全力を出し、ハイスコアを狙います。物言わぬ大野の、自分と向き合った本音が全部ゲームに注がれている。
だから、裏表なく全力でゲームを楽しむハルオとも、会話はしなくても通じ合っていきます。この「ゲームプレイで心が通じる」瞬間って、ゲーマーで体験したことある人、多いと思う。
ハルオと待ちガイル
この作品で最も重要な描写の1つが、それぞれの人物のキャラクターセレクトです。格ゲー作品が多く出てくるこの漫画、登場人物の使用キャラは変化することはあるものの、信念の部分でずれない持ちキャラが存在します。
ハルオの場合それはストリートファイターシリーズのガイル少佐です。
ガイルはストIIにおける、いわゆる強キャラの1人。中でも、ソニックブームを撃ち続けて、サマーソルトキックで落とす「待ちガイル」は、当時はチキンプレイの代名詞みたいになっていました。禁止していたゲーセンもあったようです。まあ、ずるいわけじゃないし、勝つ方法もあるんだけど、確かに美しくはないかな。
ハルオがガイルを使っていた理由の一つが、絶対勝ちたいから。彼はどんなせこい手を使ってでも、相手を倒すことにがむしゃらになります。見苦しいこともします。彼は手を抜きません。
以降、「全てのものを出し尽くしてでも勝つ」という彼の精神を支え続けるのが、ガイル。ハルオにとってかけがえのない存在になっていきます。
同じように、大野がこだわり続けたキャラクターが、ザンギエフ。スト4、5と続いてきて、今でこそ強いイメージもついてきている人気キャラですが、ストII時代は使用者がそもそも少なかった。レスラーな見た目が他のキャラより地味だし、スクリューパイルドライバーの一回転コマンドなんて入れられねえよと敬遠されるしで、どうにも不遇。弱キャラといえばザンギエフ、みたいなところありました。
それを使って大野が何十連勝もするから、インパクトがある。なぜあえてザンギエフなのかは、後に理由が出てくるはず。大野にとって、ザンギエフは特別なキャラクターです。
プレイするゲームが、おのおのの心情を映す、時代を映す。元のゲームをチェックしながら、原作とアニメを追っていこう。ちなみに原作9巻は、佳境に差し掛かる一歩手前まできています。
試し読み:第1話
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