EVO2015の歴史的珍事「早すぎたガッツポーズ」の裏側にあったもの “勝負を分けたカウンターヒット”を生んだ「0.1秒の駆け引き」(1/3 ページ)
席を立ったことは紛れもないミスだが、その時点で勝敗が決まったとは言い切れない。
世界最大の格闘ゲーム大会「Evolution」(通称「EVO」)が8月3日(米国現地時間)に開催される。EVOといえば2017年のときどによる劇的な優勝が記憶に新しいところだが、過去のEVOを振り返ってみても梅原大吾の「背水の逆転劇」を筆頭に数多くの名シーン、名勝負が残されている。EVO2015のGUILTY GEAR Xrd部門、ウィナーズセミファイナルの試合で起きた前代未聞の珍事もその中の1つ。世界的に話題となったこの一戦を覚えている人は多いはずだ。
事の顛末(てんまつ)はこうだ――EVO2015のGUILTY GEAR Xrd部門ウィナーズセミファイナルで対戦していたのは優勝の筆頭候補と目されていた「小川」と、現在ストリートファイターVのバトルプランナーとしても活躍する強豪「ヲシゲ」。勝負の行方は最終セットにもつれ込み、先に1ラウンドを先取した小川に対し、ヲシゲがラウンドを取り返した場面で珍事が起きた。最終ラウンドが残っていることを忘れ、自分が勝利したと勘違いしたヲシゲは、最終ラウンドを残しているにもかかわらず席を離れ観客に向かってガッツポーズを決めてしまったのだ。
ラウンドカウントを間違えるというミスは、格闘ゲーマーにとって決して珍しいものではないが、その場はEVO2015の舞台であり、対戦相手は優勝候補筆頭だ。小川がそのスキを見逃すはずもなく、ヲシゲに対し強烈なコンボを決め、そのままの流れでパーフェクト勝ちを収めた。この一戦は「背水の逆転劇以来の名(迷?)勝負」などとしてSNSで広く拡散され、世界中で話題となった。
ある人は真っ向からの真剣勝負が見られなかったことに落胆し、ある人はコメディーのような展開に笑っただろう。しかし、ヲシゲのミスの裏側に小川の極めて冷静な状況判断があったことは(熱心なゲーマーを除き)あまり知られていない。
実は、勝負を分けた1つのポイントがある。問題の最終ラウンド、最初の一撃はカウンターヒットしているという点だ。つまり、ヲシゲはギリギリでのところでコントローラーに触れており、反撃を試みている。そして、小川はカウンターヒット時限定のコンボを叩き込み、そのまま勝利しているのだ。
小川はその後も順調に勝ち進み、EVOを制覇。ヲシゲのガッツポーズは致命的なミスではあるが、そのスキを的確に突けるプレイヤーは果たしてどれほどいるだろう。コンボ始動技を“カウンターヒットする可能性”を前提に選択し、カウンターヒットを確認した上で限定コンボを確実に決める――あの異様な状況の中で、小川はそれをこなしているのだ。
極限状態にもかかわらず冷静さを欠かさなかったEVO2015王者の格闘ゲーマー・小川はどんなプレイヤーなのか。そして、3年前のラスベガスで何が起きていたのか。EVO2018の開幕を目前にした今、「なぜ小川はカウンターヒットさせることができたのか」という視点から、前代未聞の珍事件の背景を振り返ってみよう。
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