「平手さんも響も、ウソがつけない人」 漫画『響 〜小説家になる方法〜』作者が語る平手友梨奈と主人公の魅力(1/3 ページ)
柳本先生の「涼太郎は理想の彼氏像」発言に平手さんもビックリ。
“圧倒的な天才”を描く漫画『響 〜小説家になる方法〜』の実写映画「響 -HIBIKI-」が9月14日に公開されます。映画の公開を前に原作者の柳本光晴先生に、作品の成り立ちから主演の平手友梨奈さん(欅坂46)への思いまでを聞きました。
連載で必要なのは“縦軸”
『響 〜小説家になる方法〜』は2014年から小学館『ビッグコミックスペリオール』で連載中の漫画。出版不況にあえぐ文芸業界に、圧倒的な才能を持つ15歳の少女、鮎喰響(あくいひびき)が現れたことをきっかけに次々と事件が巻き起こる――というストーリーで、「マンガ大賞2017」の大賞を受賞しました(関連記事)。
――早速ですが、本作で“文芸”という題材を選ばれたのはなぜなのでしょうか。
柳本:まず僕は商業誌で連載をするためには、“縦軸”が絶対に必要だと考えているんです。例えば、ネットなどでは好評だった作品が商業誌に移った途端にうまくいかなくなるというケースが近年増えていますよね。これはネットだと数ページのイベントだけ描けばいいのに対し、商業の場合は一回の連載に数十ページを描くことになるという違いがあるためで、「ボクシングもの」「部活もの」「サラリーマンもの」など縦軸になる題材が絶対に必要になるんです。
――何か特定のジャンルに落とし込む必要があるということですね。
柳本:でも今って下手に詳しくないジャンルに手を出すと、読者からお叱りの声が上がるという傾向もあるし、僕自身も当時は残念ながら「このジャンルを描きたい」とか「得意なジャンル」っていうものはなかったんです。それで「漫画であまり扱われていないけれども、世の中ではメジャーな題材ってなんだ?」と考えていたときに、『響』の初代担当編集者から「柳本さんって小説読むんですか?」と聞かれて。「村上春樹さんの作品は好きです」とか「そういえば小説漫画ってないですよね」という話になったんですよ。
――なぜ小説を題材にした漫画はないのでしょうか。
柳本:小説の世界を絵に起こすことができないからです。ただそれに関しては、すごく強力なキャラクターを登場させて、「このキャラクターだったらすごい作品を書くだろう」という説得力を持たせることができれば、成立するだろうなと思いました。要は強力なキャラを作れば大丈夫ということなので、「これなら(文芸なら)やれる」と比較的あっさり決まりましたね。
――響を筆頭に、作品には強力なキャラクターがたくさん出てきますよね。柳本先生にとって天才とはどういう存在なのでしょうか。
柳本:響の才能が注目されがちですが、正直僕の中では祖父江凛夏(そぶえりか)ちゃん(※)も本来天才なんですよね。何でも器用にこなせて、社交性も高くて、小説を書く力もあるし。でもあらためて考えると自分の中で明確な天才像というのはないかもしれません。響(という天才)を描くためにキャラクター設定を描きおこすというようなことも特段しないですし。
(※)祖父江凛夏……響が所属する文芸部の部長で、響の唯一の親友。父は著名な作家で、自身も高校在学中に作家デビューを果たす。
――キャラ設定を作らないんですか。
柳本:漫画家の皆さんが作っていると聞くので、キャラクターの身長とかトーンの指定を書いた設定も初期に作ってみたんですが、結局どこかに行ってしまいました(笑)。
柳本先生の「涼太郎は理想の彼氏」発言に平手さんもビックリ
――個人的には響の幼馴染、椿涼太郎もかなり闇を含んだキャラクターだと思っています。響に対してなかなかの偏愛的な愛情を向けていますよね。
柳本:それは違うんです。涼太郎は猟奇的なキャラクターではないんですよ。先日平手さんにお会いした際にも驚かれて、僕はその反応にびっくりしたんですが(笑)。
――……詳しくお願いします。
柳本:よく「漫画家にとってキャラクターは自分の子どものようなものだ」と言いますよね。そういう点において響は自分にとって娘のようなものなわけです。じゃあ自分の娘にとって理想の旦那さんとはどんなものかと考えたときに、やっぱり「自分の娘を一番に愛してくれる人」「自分自身のことよりも、全て娘を優先してくれる人」になると思うんです。そのうえで、ブサイクかイケメンかだったら、イケメンの方がいいですし、身長も高いか低いかで考えたら、高い方がいい。勉強もできた方がいいし、スポーツもできた方がいい。つまり、涼太郎は自分の娘にとって一番理想の彼氏、として誕生したキャラクターです。
――想像をはるかに超えた誕生秘話でした。
柳本:僕にとってはやっぱり猟奇的どころか、娘のことを誰よりも一番に考えてくれる、娘中心に動いてくれる理想の彼氏ですね。ただキャラクターとして実際に動かしてみたら、「こいつ結構ヤバいな」「猟奇的なところも、もしかしたらちょっとはあるかもしれないな」というところはあります(笑)。
――涼太郎の部屋とかすごいことになっていますよね。
柳本:そうかなぁ。リアルで考えたときに、自分にとって好きな人がいて、その人の家に行ったときにズラーッと自分の写真が並んでいたらうれしくないですか。
――壁一面に自分の写真が貼り倒されてたら、やっぱりちょっと怖くないですか……?
柳本:まぁ響と涼太郎は幼馴染だから、あの部屋の成り立ちも知っているわけじゃないですか。響からしたら「なんかこの部屋は来るたびに写真が増えているなぁ」みたいな感じで。ちなみに貼ってある写真をよく見ると響は一応ポーズを取っているんですよ。だからあの写真が壁に貼られているシーンだけ見たら猟奇的かもしれないですけれども、子どものころから涼太郎は「僕は響ちゃんのことが好きだから」って言いながらシャッターを切っていて、響も面倒くさいなと思いながら撮られて壁に写真を貼られているっていう。
――響はその状況をどう思っているんでしょうね。
柳本:行くたびに増える写真に恐らく、「いい加減昔の写真捨てればいいじゃん」と言っているでしょうけれど、涼太郎は「でも大切な思い出だから」と捨てないでしょうね。まぁそういうことの積み重ねでできた部屋だと思います。
――涼太郎は今後どうなっていくんでしょうか。
柳本:彼は今後もうちょっと動かしていきたいと思っています。今はおとなしくしてもらっていますけれども。
『響』を軌道に乗せたのは、初めて描いた“悪役”
――作品の中でこのキャラクターの登場で流れが変わったという人物はいるのでしょうか。
柳本:これに関しては今も感謝しているんですけれども、初期のころ、初代担当編集者から「この漫画には敵役がいない」と言われたんです。確かに僕はそれまでラブコメしか描いたことがなかったので、敵・味方というのを明確に作ったことがないと気づいて。そこで初めて作った敵役というのが文芸部の顧問(黒島)でした。初めての敵役ですから、本当に苦労して、ネームもギリギリまで何回も直したんですが、その経験を踏まえて、鬼島仁(※)を作ったらこれがすごく良く動いてくれて。彼の登場あたりからうまく回り始めた感じがありました。
(※)鬼島仁……テレビなどメディアへの露出も多い有名作家。芥川賞の受賞歴もあるが作家としてのモチベーションを失っている。
――作中登場するキャラクターについて、モデルにした作家や著名人などはいますか。ミュージシャンの芥川賞候補「猪又コウジ」は又吉直樹さん(ピース)がモデルかなと思ったりしたのですが。
柳本:初期に出てくる「木蓮」の編集長(神田)だけは、他作品の好きなキャラクターがモデルです。しかし、うまく動いてくれなかったので、以降実在のキャラクターのモデルを作るのは止めました。又吉さんのように、立場的に参考にする場合はありますが、キャラクターの内面は一切モデルなしです。
――柳本先生ご自身と似ているキャラクターというのは居るのでしょうか。
柳本:基本的に漫画は自分の内面の切り貼りなので、どのキャラクターも自分の一面ではあります。ただやっぱり、響が一番似ているところが多いかもしれないですね。
――柳本先生は響みたいに暴力的ではなさそうですよね。
柳本:僕自身は全然です(笑)。でも正直なところ、響ってそんなに暴力的な子かなぁという感じがするんですよね。売られたケンカを買う子ではあるけれども、基本的に自分からかかっていくっていうことはそんなに無いというか。ただ僕が『週刊少年ジャンプ』を読んで育ったということもあって、漫画はイベントで見せていくものだと思っているので、アクションシーンが入るのかもしれません。
――イベントというところでいうと、描くのに苦労するのはどういうシーンなのでしょうか。
柳本:テレビ局のプロデューサーや大臣との絡みっていうのは、描いていて楽しいので筆が進みやすいです。対して苦労するのは学校のシーンですね。どうしても敵が学生とかだとイベントが強くならないんです。例えば、『ドラゴンボール』ではピッコロ大魔王が出てきて、マジュニア(ピッコロ)、そこから地球外からの敵のラディッツが来て、やっと倒したと思ったらラディッツすらも恐れるベジータが来て、それも倒したと思ったらなんと宇宙を支配するフリーザがやってきてと、次から次へとでっかい敵が出てくるのが面白いじゃないですか。それと同じで、敵が強くなればなるほど、描いていて「この大きな敵をどうやって攻略しようか」と考えられるので楽しいんですよ。
――先ほどジャンプのお話も出ましたが、漫画家を志したのはどうしてなのでしょうか。
柳本:幼いころから漫画が大好きでずっと読んでいたので、中学ぐらいからぼんやりと「漫画家になるんだ」と考えていました。きっかけについては……ちょうどこの間、作業場でアシスタントと中学生ぐらいのときの話をしていて偶然気付いたんですが、アシスタントも僕も自分が好きな漫画に妄想で入り込んで“自分”というキャラクターを作中で勝手に動かしていたという共通点が見つかったんです。例えば『3×3 EYES』で獣魔術を身に付けたり。こんな感じで自分でお話を作ったりし始めたのが第一歩だったのかなと思います。
――影響を受けた漫画や小説についてはどうでしょうか。
柳本:漫画に関しては王道作品が好きですね。ジャンプ系でいえば、『ドラゴンボール』『幽遊白書』『SLAM DUNK』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、マガジンだと『はじめの一歩』。高橋留美子さんの作品も好きですし、青年誌だと『YAWARA!』『ツルモク独身寮』なんかも好んで読んでいました。子どものころはちょっとずつお小遣いを貯めて漫画を買いそろえては、何度も何度も読み返していました。当時住んでいた徳島市内の古本屋さんを全部回る勢いでしたね。
――一番読み返しているのはどの作品になるのでしょうか。
柳本:『こち亀』ですね。理屈抜きの面白さが『こち亀』の魅力ですが、やっぱり毎週両さんがムチャクチャなことをやってくれるのが一番好きなところです。あと、ちょくちょく出てくる作者の変質的なマニアックな部分も好きでした。一番好きなエピソードは25巻に出てくる「ガンマニアの巻」で、このお話では両さんが模型店に行くんです。そして店主が「実はモデルガンマニアなんだ」と告白してから、その当時いかにモデルガンというものが迫害されていたかという話に展開。「警察などお国のやつらはいつもモデルガンを目の敵にする」「どうして!」と、両さんに詰め寄るっていうシーンまで出てくるんですね。まさに「小学生にこんなこと言って分かるわけないじゃん(笑)」というシーンなんですが、それをあえて作者の怨念的に描いているというようなところが好きなんです。
――2017年12月のジャンプでは尾田栄一郎さんが巻末コメントで言及(※)していました。
柳本:あれはとてもうれしかったです。
(※)尾田先生が言及……ジャンプ2018年2・3合併号の巻末コメントで「『響』という漫画を読んだら止まらなくなりました」として新しい主人公像を評価していた。
――同人サークル「TTT」時代は「涼宮ハルヒシリーズ」の二次創作同人誌が大変好評だったとTBSラジオ「荻上チキ・Session-22」で聞きました。そこから『響』連載に至るまではどんな感じだったのでしょうか。
柳本:同人活動初期はメディアファクトリーの月刊コミックフラッパー編集部でアルバイトをしていました。ハルヒの同人誌は全部で3冊出したと思うのですが、MAXで1冊あたり3万部頒布したことがあります。その後はスクウェア・エニックスのビッグガンガンなどで読み切りを描き、双葉社の月刊アクションで『女の子が死ぬ話』を短期集中連載しました。その1話を見た『響』の初代担当編集が声を掛けてくれて、スペリオールでの連載が決まりました。
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