「贔屓は人生の灯台」オタク女が宝塚で“運命”に出会い、精神と肉体の健康を得るまで(2/2 ページ)
オタク女、肉体と精神の健康を得る
正気はなくしてからが本番。長年培ったオタクの行動力はどの現場でも生きる。ジェットコースターみたいな勢いで追いかけ始めた数カ月で自分自身大きく変わった。
まず、健康になった。宝塚はオタクへの福利厚生が行き届いている。年間通して東西2つの専用劇場で公演を回し、専用チャンネル、専用月刊誌、次々とグッズも発売される。その他にも全国公演やイベントがあったりと体調を崩している暇はない。
次に美意識が上がった。観劇中やお茶会などタカラジェンヌといううつくしい人の瞳に自分が映る可能性があるからだ。あんな風になるのは不可能とはいえ、せめて贔屓に恥ずかしくない自分でいたい。贔屓への思いを自覚して早4カ月、10キロ痩せた。肌の調子もいい。
そして、精神がハチャメチャ健やかになった。好きなひとが生きているということは毎日が新規絵。供給にあふれており、常に半端ない多幸感に包まれている。何より人間としてめちゃくちゃ尊敬できる人を推せるのだ。日々たゆまぬ努力を積み重ねる姿に感動する。精神的ロールモデルとでも言えばよいのだろうか。あんな素晴らしい人を応援するなら自分も最高に近づく努力をしよう。素直にそう思えるようになった。
好きなひとの生きる世界はうつくしい
贔屓は灯台だ。人生という荒波に飲まれそうになって、もうどうしたらいいか分からない――そんなときに、雨の日も風の日も芸の道に生きる大好きな人が、絶対に見失わない光として照らしてくれる。
こんな気持ちを教えてくれた宝塚に、贔屓に、そして宝塚という文化に関わる全ての方々に感謝している。ド新規が言うのもなんだが厳しい世界だ。音楽学校へ入学することすら狭き門であり、トップになるのは一握り。早い段階で退団される方もたくさんいる。
そんな中、現役で活躍する方を応援できるのは運が良い。長年続けてきてくれたご本人の努力は勿論、それを支えた方々がいたから贔屓に出会えた。古参ファンがいなければ新規ファンも生まれない。たくさんの愛がわたしたちを巡り合わせてくれた。
続く、というのは当たり前ではない。あの灯りが消える日だっていつかは必ずやってくる。宝塚の男役としての贔屓にもう二度と会えないなんて考えるだけで涙が出る。もっと通えばよかった、もっと好きだと伝えればよかった、あのとき、もっと、もっと……。そんなの絶対言いたくない。
だからこそ、今を全力で愛したい。現場に通う、グッズを買う、手紙を書く、できることは全部やろう。当たり前の現場なんてひとつもない。好きなひとと同じ時代を生き、こうして応援できること自体が奇跡なのだ。
わたしにできることの中で最もシンプルに役立つのは、お金を払うことだ。
自分で稼いだお金が、姿を変えてあのひとの役に立てるのがうれしい。仕事がしんどい瞬間でも、「今稼いでるのはちなつさんのためのお金なんだ」と思うと、頑張る気力が湧いてくる。働いていて自由なお金があるからこそ、宝塚が観られると思うと仕事に感謝し、やる気につながる好循環。頑張って稼いだお金を湯水のように贔屓に注ぐカタルシスの半端なさ、サイコー!
お金を使うことの見返りは、贔屓がタカラジェンヌとして存在してくれることそのものだ。払っても払っても払い足りないし、こんなにもしあわせにしてもらったお礼なのに額が少なくて申し訳ないけど、自分にできるベストを尽くすしかない。
「見返りもないのにそんなにお金と労力使ってバカみたい」と言う人もいるだろう。燃え尽きた先には鉛の心臓すら残らないかもしれない。それでも、贔屓という魂なしには生きられない。こんなにも感情を揺り動かしてくれる存在に出会えた人生は幸せに決まっている。だから、今日もわたしは宝塚へ通う。
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