フィクションが現実になるとき――漫画『将棋指す獣』に見る“女性棋士”という存在(1/4 ページ)
全ては、最初の一人から。
最近、ある編集者にこう聞かれた。
「やっぱり将棋って男女の差が大きいものなんですかね」
私は少考して答えた。
「将棋は頭脳競技ですから、男女の才能差はないと思いますよ。チェスの世界にポルガー姉妹というのがいてですね……」
将棋に男女の才能差はあるか?
ハンガリーの教育心理学者ラズロ・ポルガ―は「天才は生まれではない。作られるのだ」との信念の元、自分の3人の娘に対し幼いころから徹底したチェスの英才教育を行った。
その結果、3人ともチェス選手として成功をおさめたが、特に末娘のユディット・ポルガーは男女を問わないチェスの世界ランキング8位にまで登り詰めた。これは将棋で言うところのA級棋士に相当する。やはり頭脳競技における男女差はないのではないか――。
編集者は納得しなかった。
「それはわかるんですけど、やっぱり一人も女性棋士が出ていないのには何かあると思うんですよ」
確かに将棋において男女共通の枠組みで戦う「棋士」になった女性はまだ一人も現れていない。チェスでは男女差はないのかもしれないが、ゲーム性の異なる将棋では目に見えない何かがあるのではないか――。
私はうまく反論することができなかった。
人は目に見える事実だけを基に結論を出す。「将棋に男女の才能差はない」という私の持論が説得力を持つためには、「最初の一人」の出現を待たねばならないらしい。
デビュー直後の中学生がここまで勝てるはずがない――という常識は藤井聡太という「最初の一人」の登場によって覆された。果たして「女性が棋士になれるはずがない」という常識を覆す者はいつ現れるのだろうか。
漫画『将棋指す獣』が描き出す女性初のプロ棋士誕生ストーリー
11月9日、漫画『将棋指す獣』(原作・左藤真通/作画・市丸いろは 新潮社)が発売された。元奨励会三段の女性・弾塚光(だんづかひかり)がアマチュアからプロ棋士を目指し、ライバル達と盤上で火花を散らしていくというストーリーだ。
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