レビュー
» 2019年02月10日 12時00分 公開

「文章上から解剖しなさい」「全文を書き取りなさい」 明治時代の入試問題(国語・漢文)をまとめた同人誌が趣深い司書メイドの同人誌レビューノート

設問文にも時代が表れますね。

[シャッツキステねとらぼ]
シャッツキステ

 いつもと少し違う時間に出掛ける寒い朝。慣れない道に少し緊張しながら歩く、その腕に持ったカバンの中には、筆記用具と受験票……そんな朝を、どこかで迎えた方もいらっしゃるでしょうか。受験シーズンと呼ばれる季節、今回ご紹介するのも入試に関する同人誌です。でもその入試は100年前に行われました。

今回紹介する同人誌

『明治時代の入試問題(国語・漢文)』B5 56ページ 表紙カラー・本文モノクロ

作者:瀬田教安


同人誌 シャッツキステ 明治 入試 問題 漢文 濃い赤にすっきりした白抜きのデザイン。問題集っぽいです
同人誌 シャッツキステ 明治 入試 問題 漢文 明治時代の試験はどんな問題だったのでしょうか

聞き取りもあり。明治時代の入試問題

 こちらは明治時代の入試問題を収集し、作者さんご自身で解答例を付けられた同人誌です。明治16年(1883年)の東京師範学校、明治19年(1886年)の海軍学校にはじまり、およそ100年前までの明治時代、10の入試で実際に使用された国語、漢文の問題が掲載されています。

 ぱらりとご本を開くと、まずは漢文が多く目につきます。作者さんによると、明治時代にはまだ入試科目としての「現代文」がなく、漢文がメインだったのだそうです。そこからだんだんと今のような「現代文」の問題に近づいてゆくのですが、ちょうど真ん中くらいのページに漢字だけでなく、片仮名もたくさん書いてあるところを見つけました。なになに、これは「今から文章を三回読み上げます。全文を書き取りなさい」という出題とのこと。聞き取りの問題がでるなんて、出題の方法も今に通じますね。カツソレシチコクノナンヲハッスルモノハ……うーん、書けるかしら!

同人誌 シャッツキステ 明治 入試 問題 漢文同人誌 シャッツキステ 明治 入試 問題 漢文 片仮名いっぱいの文章は耳から聞くとまた印象が変わるかも? でもイズクンゾは書けませんでした……

疆弩之末勢不能穿魯縞と、久かたのひかりのどけき……

 「語句の意味を説明しなさい」の出題のひとつ「疆弩之末勢不能穿魯縞」。

 この問題は明治35年(1902年)の高等学校大学予科入学者選抜試験からです。現代でいうと国立大学専用のセンター試験のような立ち位置と、解説が添えられています。「きょうどのすえいきおいろこうにうがつあたわず」という読みだけでなんだかかっこいい呪文のような、とぽやーっとしてきてしまった私の目に、飛び込んできた文字がありました。

 「次の和歌を解釈しなさい。久かたのひかりのどけき春の日にしづ心なく花の散るらん」この歌は知ってますー! こちらは明治40年(1907年)の専門学校検定試験に出題されました。なじんだ一文に触れることで、ふと100年前と通じ合ったような気持ちになりました。

 なお『明治時代の入試問題』は他に歴史、英語、数学とシリーズも豊富です。それぞれ得意な方はそのジャンルならではの100年の問題の変化にお気付きになるのかもしれませんね。気になるものにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

同人誌 シャッツキステ 明治 入試 問題 漢文同人誌 シャッツキステ 明治 入試 問題 漢文 金蘭契(きんらんのちぎり)もかっこいい

100年って短いのかも? 机の前に座る誰かを思う

 前回も100年前に所縁のある同人誌をご紹介しましたが、こうして考えると100年前って意外と最近のことのような……。思ったより遠くない世界に感じられます。

 ご本に掲載された最後の問いは明治45年(1912年)の女子師範学校のものです。「春は花をめで、秋は紅葉をあはれむ」こちらを「文章上から解剖しなさい」というもの。解剖という言い回しがレトロさを感じさせます。それでも、今も春に花を愛でて、秋には紅葉に胸をじんとさせるのは変わらないなぁ、とふっと詰めていた息を吐き出しました。100年前、この試験を受けていた子は、問題を解くのに一生懸命だったでしょうか。でも、試験が終わったら、100年後の私と同じように、この一文を思い返して心なごませていたかもしれません。

 2019年は平成から次の年号へと変わる節目の年と、あちこちで動きがあります。けれど記念すべき年に生きている私たちは、意外となんとなく、変わりなく過ごしていくのかもしれません。きっと2019年の試験の問題も、ずっと未来になって誰かが「100年前はこんな問題を解いていたんだね」って読み解くこともあるような気がします。難しい問題集のはずなのに、100年ってこんな風に続いていくものなんだ、とあたたかな気持ちになりました。


サークル情報

サークル名:博究社

Twitter:@seta_noriyasu

Webサイト:https://hakkyusha.stars.ne.jp

現在入手できる場所:COMIC ZIN

入手先:コミティア127(2月17日 東京ビッグサイト西1・2・3ホール い26a)、第11回秋コレ(2月24日 秋葉原UDX2階アキバ・スクエア)、サンシャインクリエイション 2019 Spring(3月10日 池袋サンシャインシティ B20a)


今週のシャッツキステ

シャッツキステ メイド 同人誌 本をのぞくといろんな顔になりますね。主人公になりきったり、知らなかった視点に驚いたり!

著者紹介

シャッツキステ メイド 同人誌 司書メイド ミソノ 司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

関連キーワード

同人誌 | 入試 | 試験 | センター試験


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2312/08/news180.jpg ミス東大の水着グラビアデビューに「東大まで行って」と失望の声 本人&現役グラドルも加わるネット論争に
  2. /nl/articles/2312/08/news148.jpg DAIGOの姉・影木栄貴、ノーメイク姿の姉弟ショットで美形ファミリーぶり際立つ 「目元瓜二つ」「すっぴんでも綺麗」
  3. /nl/articles/2312/09/news008.jpg ゲーム中も寝るときも……大好きなママから片時も離れない元野良ネコ 無防備すぎる寝顔が本当の子どものよう
  4. /nl/articles/2312/09/news030.jpg 飼い主、猫ちゃんの様子を見に行くとPCの前に座っていて……? 衝撃の展開に「独学で学んだ…?」「見なかったことにw」
  5. /nl/articles/2312/08/news013.jpg 愛猫が息を引き取る直前「ありがとう、楽しかったよ」と声を掛けたら…… 家族みんなが久々に集った夜の奇跡に涙
  6. /nl/articles/2307/04/news021.jpg 息子に「ラーメンでも適当に作って食え」→男子高校生らしい自作ランチが「天才」「ヨシ!」と大好評
  7. /nl/articles/2312/08/news109.jpg 小木博明の妻、52歳のサプライズ誕生日会に「負荷などありましたが嬉しくて」 “母”ら豪華メンバー集結に「みなさんいい笑顔」「ハッピーで最高」
  8. /nl/articles/2312/09/news012.jpg 12歳のシニアワンコをドッグランに放ったら…… 目を疑う脚力にびっくり「カメラが追いつけない」「愛されてるんだなぁ」
  9. /nl/articles/2312/09/news002.jpg 「ちいかわ」知らない母が“ガチャ”挑戦→「変なの出てきた」と思わず泣き顔…… 珍エピソードに「笑った」
  10. /nl/articles/2312/05/news140.jpg どこの温泉地に行くか迷ったら…… 「行きたい温泉が見つかるチャート」が参考になると話題に
先週の総合アクセスTOP10
  1. オール巨人、30年モノな“伝説の1台”に自負「ここまでキレイな車はない」 国産愛車の雄姿に称賛の声「気品がある」「凄くエレガント」
  2. 「明らかに写真と違う」 東京クリスマスマーケットのフードメニューが物議…… 購入者は落胆「悲しかった」
  3. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  4. 田中みな実、“共演した姉”の存在に反響「居るとは聞いていたけど」「激似やなぁ」 すらっとしたたたずまいに「品のあるお方」
  5. 藤本美貴、“全然かわいくない値段”のテスラにグレードアップ スマホ一つでの注文に「震えちゃ〜う!」
  6. マックで「プレーンなバーガーください」と頼んだら……? 出てきた“予想外の一品”に驚き「知らなかった」
  7. 伊藤沙莉、“激痩せ報道”の真相暴露→広瀬アリスの株が上がってしまう 「辱めったらない」告白に「アリスちゃん、ええ人や〜」
  8. 「あなたは日本人?」突然送られてきた不審なLINE、“まさかの撃退方法”に反響 「センス良い」「返しが秀逸」
  9. “鬼ダイエット”で激やせの「Perfume」あ〜ちゃん、念願の姿に「着れる日が来るなんて」と大喜び
  10. 900万再生のワンコに「電車で笑ってしまった」「つられてめちゃくちゃ笑っちゃうw」 “突然魔王になった犬”に腹を抱える人続出
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「酷すぎる」「不快」 SMAPを連想させるジャンバリ.TVのCMに賛否両論
  2. 会話できる子猫に飼い主が「飲み会行っていい?」と聞くと…… まさかの返しに大反響「ぜったい人間語分かってる」
  3. 実は2台持ち! 伊藤かずえ、シーマじゃない“もう一台の愛車”に驚きの声「知りませんでした」 1年点検時に本人「全然違う光景」
  4. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  5. 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
  6. 西城秀樹さんの20歳長男、「デビュー直前」ショットが注目の的 “めちゃくちゃカッコいい”声と姿が「お父さんの若い頃そっくり」「秀樹が喋ってるみたい」
  7. “危険なもの”が体に巻き付いた野良猫、保護を試みると……? 思わずため息が出る結末に「助けようとしてくれてありがとう」【米】
  8. 「やばい電車で見てしまった」「おなか痛い、爆笑です」 カメがまさかの乗り物で猫を追いかける姿が予想外の面白さ
  9. おつまみの貝ひもを食べてたら…… まさかのお宝発見に「良いことありそう」「すごーい!」の声
  10. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」