「もうアニメ業界では作れないと思った」「帰り道で毎日吐いてた」 放送から5年、「ステラC3部」の監督はいかにして復活を果たしたのか(1/3 ページ)

衝撃の放送から5年。

» 2019年03月03日 15時30分 公開
[福田瑠千代ねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 あなたは2013年に放送されたアニメ「ステラ女学院高等科C3部(以下、ステラ)」を覚えているだろうか。萌えとサバイバルゲームをミックスさせた先駆的な題材に、ジャジーな劇伴を組み合わせたオシャレな音響演出。そして細部までこだわったエアガン描写。

 主人公は高校1年生の女の子・大和ゆら。引っ込み思案で友達のいない彼女は、高校のサバゲー部で初めての友達と出会う。ところが話が進むにつれて、彼女はゆるふわな部活動では満足できなくなり、修羅の道を歩みだしてしまう……。



 お茶でまったりしたい部員たちを「勝つための足手まとい」と怒鳴りつけ、急速に孤立を深めていくゆら。一転して最悪な空気の合宿。さらに大会本番では不正行為に手を染めるなど、主人公の転落人生は加速の一途をたどった。

 当初の萌えや癒やしを求めた視聴者は、胃痛が不可避のギスギスした展開に振り落とされ、DVD/BDの売り上げでも苦戦。収益化の方法が多様化した現在では円盤の売り上げが“計測不能”となることも珍しくなくなったが、当時ぎりぎり算出されてしまった「267枚」という数字は、一部では「1ステラ」という単位として広まったほどだ。

 あの衝撃の放送から5年が過ぎた。そして、あなたは「ステラ」のことは忘れても、あのとき味わった胃痛までは忘れていないはずだ。その「ステラ」の川尻将由監督が5年ぶりに放つ新作が、短編アニメ「ある日本の絵描き少年」である。


【追記】「ある日本の絵描き少年」本編がYouTube公開

本編がYouTubeで公開中

 同作の主人公は、漫画家を目指す少年・シンジ。本編では彼の幼少からアラサーに至るまでの成長に合わせ、登場人物のタッチが「幼児の絵」から「漫画家の絵」へと次第に変化していく。その挑戦的な手法や、監督の人生を反映したかのような生々しいストーリーは高く評価され、“第40回ぴあフィルムフェスティバル”での準グランプリをはじめ、“第10回 下北映画祭”でグランプリに輝くなど、「ステラ」ファンとしても「まさか」と思うほどの快挙を納めている。

 5年越しのこの復活劇。川尻監督は何を思い、自主制作の手法で新作アニメに挑んだのか。たっぷりと語ってもらった。


帰り道、毎日ゲロを吐いていた

――受賞おめでとうございます。いよいよ下北沢トリウッドで上映も始まりました。

川尻:いやあ、いろいろあったねえ(笑)。

――いろいろありましたか。

川尻:「ステラ」の後、「俺、ちょっともう業界で作れないな」と思って始めた自主制作だったから、「これからどうしようかな……」って気持ちは込められているよね。

――「ある日本の絵描き少年」では漫画家になるのが夢の主人公・シンジはなかなか連載の機会に恵まれません。そんなとき舞い降りてきたアニメのコミカライズ企画に飛びつくものの、連載が思い通りいかずにボロボロになっていくわけですが……。

川尻:確実に「ステラ」の経験が反映されてますよね。俺は子どものときから夢は映画監督で、ラッキーなことにチャンスにも恵まれたけど、それを自ら思いっきりふいにした。完全に力不足が原因だったけれども。


「もう業界では作れないと思った」「帰り道で毎日吐いてた」 放送から5年、「ステラC3部」の監督はいかにして復活を果たしたのか 連載会議に通らず焦る主人公

「もう業界では作れないと思った」「帰り道で毎日吐いてた」 放送から5年、「ステラC3部」の監督はいかにして復活を果たしたのか 次第に人生に疲れていく

――せっかくなので「ある日本の絵描き少年」の前に、まずは「ステラ」について質問させてください。

川尻:どうぞ……。

――当時、そもそもどんな経緯で監督をすることになったのでしょうか?

川尻:実は自分でも謎なところがあるのですが、以前山賀さんに聞いたときは、「ダンタリアンの書架」に美術で参加した際の仕事ぶりを評価してくれた、とのことでした。

※山賀博之・・・「ステラ」を制作したアニメ会社・ガイナックスの社長。山賀氏は「ダンタリアンの書架」で美術監督も務めた。



――商業作品の監督経験は無かったわけですよね?

川尻:もちろんありません。山賀さんはたまにすごい采配をするんです。「ダンタリアン」では上村泰さんも初監督でしたよね。上村さん、今では「幼女戦記」「フリクリ オルタナ」と着実にキャリアを積んでいますが。

――川尻さんにとって「ステラ」での初監督はいかがでしたか。

川尻:精神的にかなり追い込まれました。帰り道に毎日ゲロ吐いてましたね。ただ周囲は意外なほど優しかったです。当時は大学卒業から間もない25歳で、周りとは経験値に差がありすぎて、ベテランの人からは孫みたいな距離感で見られてたんじゃないかな。

――当時のインタビューでは力不足を認めつつも、主人公・ゆらが闇堕ちしていく展開は良く描けていたと自己分析されていましたね。テーマ的には「ルーザー(敗北者)の物語を描きたかった」(外部関連記事)と。

川尻:「ステラ」では前半でつまらない萌えアニメをやったけど、主人公のゆらが堕ちてヒリヒリしてくるあたりで面白くなってきた手応えはあったよね。そこがネットではめちゃくちゃ不評だったわけだけど(笑)。

――原作漫画ではもっと明るい話なので、アニメの展開には驚きました。



川尻:ゆらが堕ちていく過程は俺のネガティブ思考も反映されてると思うけど、「成長物語にしないとダメだろう」というのは、もともと原作のいこまさんの案だった。ゆらがゾンビになって、一度とことん堕ちてから復活させようというのは当初から決めていて、ゾンビもいこまさんの案です。

※ゾンビになる・・・サバゲーでヒットしたにもかかわらず自己申告をしない不正行為。

――それは意外ですね。

川尻:実を言うと、制作中に音付けのほうが面白くなっちゃったんですよ。曲や音響をどうするかを音楽に造詣が深かったプロデューサーさんと組んで、ひたすら音にこだわってました。だから中盤以降はサポートしてくれたスタッフにお任せしてしまった部分も多く、今になって、「もっとできることがあったのでは」と反省点は多いです。それでもたまに「あれが好きだった」と言ってくれる人が現れると、ちょっと救われた気持ちになりますね。


自主制作を選んだのは、もう業界では作れないと思ったから

――そこから紆余曲折があり、自主制作をやることになったと。クレジットにある“株式会社ねこにがし”とはどういう会社なのでしょうか?



川尻:吉祥寺トロンを退社したタイミングで起業しました。義父の印刷会社の子会社という形になっていて、大きな会社ではありません。なんとなく業界では監督をやらせてもらえないだろうなあと思ったときに、会社化すれば「製作費が経費になる」「個人よりも他のスタジオに依頼しやすいはずだ」と気付いたんです(笑)。

※吉祥寺トロン・・・ガイナックスを親会社に持つCG制作会社

――「ある日本の絵描き少年」では主人公の画力向上に合わせて、途中から商業アニメのような映像になっていきますけど、製作費はどのくらいでした?

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/18/news202.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの行動”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」【大谷翔平激動の2024年 「家族愛」にも集まった注目】
  2. /nl/articles/2412/20/news023.jpg 60代女性「15年通った美容師に文句を言われ……」 悩める依頼者をプロが大変身させた結末に驚きと称賛「めっちゃ若返って見える!」
  3. /nl/articles/2403/21/news088.jpg 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
  4. /nl/articles/2412/21/news038.jpg 皇后さま、「菊のティアラ」に注目集まる 天皇陛下のネクタイと合わせたコーデも……【宮内庁インスタ振り返り】
  5. /nl/articles/2412/21/news088.jpg 71歳母「若いころは沢山の男性の誘いを断った」 信じられない娘だったけど…… 当時の姿に仰天「マジで美しい」【フィリピン】
  6. /nl/articles/2412/20/news096.jpg 新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
  7. /nl/articles/2412/21/news056.jpg 真っ黒な“極太毛糸”をダイナミックに編み続けたら…… 予想外の完成品に驚きの声【スコットランド】
  8. /nl/articles/2412/18/news015.jpg 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  9. /nl/articles/2412/21/news005.jpg 藤本美貴、晩ご飯に手料理7品 多忙でも野菜とお肉たっぷりで反響 「お疲れ様です」「凄く親近感」【2024年の弁当・料理まとめ】
  10. /nl/articles/2412/17/news195.jpg 「ほぼ全員、父親が大物芸能人」 奇跡的な“若手俳優の集合写真”が「すごいメンツ」と再び話題 「今や全員主役級」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」