「(オファー)来なかったら声優やめるわ」 山寺宏一が明かす、再びの「アラジン」ジーニー吹替えに秘めた思い
エゴサ駆動の“Mr.ジーニー”が胸中を告白してくれました。
魔法のランプを巡る冒険を描いたファンタジーを「シャーロック・ホームズ」シリーズで知られるガイ・リッチーが実写化した映画「アラジン」が6月7日に公開されました。
砂漠の王国アグラバーを舞台に、貧しい青年アラジンと、王宮の外の世界に自由を求める王女ジャスミン、そして“3つの願い”をかなえることができるランプの魔人、ジーニーが繰り広げる冒険を描いたディズニー・アニメーション不朽の名作の実写化。ウィル・スミスがジーニー役を演じることも話題ですが、吹替え版では、“七色の声を持つ”声優と名高い山寺宏一さんがジーニーの声を担当しています。
ディズニーアニメーションの「アラジン」でもジーニーの吹替えを担当した山寺さんが時を超えて再び挑むジーニー。そこにはどんな思いがあったのか。山寺さんに聞きました。
―― 私、ディズニーアニメーションの「アラジン」が公開された年(1992年)に生まれまして、山寺ジーニーの声で育ってきました。だから今回、実写アラジンでも山寺さんがジーニーの吹替えを担当されると聞いてとても高まります。山寺さんは洋画の吹替えのオファーが来たとき、何を受けて何を断るかをどう決めているのですか?
山寺 おぉ! ありがとうございます。オファー、断らないですよ〜(笑)。あれもやりたい、これもやりたいと思っているのに、オファーが来なくて悔しいと思うことがしょっちゅうですから。マジで。
今作もジーニーの吹替えオファーが来なかったら暴れてやろうかと思いましたから(笑)。実写化が発表されたとき、ラジオでも話していたんですよ。「俺、(オファー)来なかったら声優やめるわ」って。
―― ジーニーの吹替えは「山寺さんしかいないでしょ!」と思います。
山寺 一時期、何でもかんでもやりすぎたこともあってか、「この役は絶対山ちゃん」と言っていただけるものはあまりないんですよ。だから今回も不安だったんです。実はウィル・スミスの吹替えはこれまで3本くらいしかやっていないですし、もっといい低音ボイスの方もおられますから、「俺じゃねぇよなー」って。
でも、「アラジン」のジーニーというのは、僕にとってどうしてもやりたい作品であり役でした。実写化されたアラジンを見て、「こんなに面白かったのか!」とその思いはさらに強まりましたし。オファーをいただけて本当にうれしかったです。
―― 山寺さんの声のジーニーが好きだというファンは多いと思います。「アラジン」のジーニー役にはどんな思い出がありますか?
山寺 東京ディズニーシーに行けば「マジックランプシアター」もやっていますし、ゲームでも声をやらせていただいたり、ありがたいことに20数年たってもそう言っていただけて、「俺にはそれを超えるものはないのか」と思うこともあるくらいです(笑)。
―― アニメ版ではロビン・ウィリアムズがアドリブを駆使し、1つのせりふに何パターンも吹き込んだことで知られます。山寺さんも同様に、現場でさまざまなアイデアを出しながら吹替えのジーニーを作り上げたとお聞きしました。それが時をへて実写となり、ウィル・スミス扮(ふん)するジーニーの吹替えをするにあたっての苦労、あるいは、特別な思いやアニメ版の吹替えのときとの違いは感じられましたか?
山寺 そうですね。これだけの作品ですし、テンポもよくて、ジーニーのせりふも多いので、簡単ではなかったですが、それが楽しいので。この仕事は、練習して練習して、(声が)ハマったかなと思えるときに喜びを感じます。ウィル・スミスの演じたジーニーとなるべく変わらないよう、映像に対して違和感のない声であるように、というのを目指していました。
吹替えを複数回やると他人とは思えなくなって親近感が勝手に湧きます。練習の時点でものすごく作品を見てその人の芝居を研究するので。ウィル・スミスについては昔ちょっと顔マネをしたこともあって、自分の中で勝手な親しみを覚えていたんですけど、思い入れの強い役であるジーニーとダブルできたわけですから「やってやるぞ!」という気持ちと、うれしさやプレッシャー、さまざまな思いが湧きました。
―― 山寺さんでもプレッシャーを感じられるんですね。
山寺 やっぱり、「山ちゃん、昔のジーニーはよかったけど、年取っちゃったね」って言われたくないのと、「アニメーションだとよかったけど、ウィル・スミスだとちょっと合わないよね」とか、アニメのときから結構な時間がたっているのに、演技が進歩していないと言われたらどうしようとか。そういうのは常にありますよ、かつての評判がよければよいほど。そう言われないようにしようという思いはありました。
―― 山寺さんの中ではそうしたプレッシャーをどのように力に変えているのですか?
山寺 僕、意外とエゴサするタイプで(笑)、吹替えキャストが発表されたとき、「待ってました!」みたいなファンの声をみて自分を奮い立たせましたよ。ちょっとでもネガティブな声があると落ち込んだり(笑)。
―― まさかのエゴサ駆動型。
山寺 自分の友人にそんなやつがいたら「自分の価値観をどこに持っているんだ」と言っているんでしょうが、自分のことになるとダメなんですよ(笑)。何か言った後にネガティブなことをくっつけるめんどうくさい男なんです。「小さいことにくよくよするな」的な本を何度も買いましたし、人からも何度かいただきました。俺ってやっぱりそう見えるんだなって(笑)。
マネージャーからはそうした声を見ないよう勧められるんですけど、仕事でしょっちゅう落ち込んだりするので、褒めてほしくてつい見ちゃうんです。いろいろな評判がありますが、ジーニーのことはみんな褒めてくれている。ありがたいですね。基本何かやるときは、“人に楽しんでもらうことが一番うれしい”と考えているので。
―― 舞台などにも出演されている山寺さんが、もし実写アラジンに俳優として入るとしたら?
山寺 いやムリムリムリ! 僕、自分の役者としての力量は分かっているつもりですから。着ぐるみ着てアブーかな……でも身体能力がないとだめか(笑)。アラジンはメインキャラクターがそう多くないんですよね。そんな中であれだけのドラマがあるのはすごいですよね。
―― ちなみに、実写アラジンでお気に入りのシーンは?
山寺 やはりプリンス・アリのパレードのシーン。あれは単純にすごいなと思いました。それと、アラジンがサルタン国王やジャスミン王女に初めて謁見(えっけん)するシーン。そこでみせるジーニーとの楽しい掛け合いはさすがウィル・スミスという感じですよね。吹替え版でもあそこは皆さんに笑ってもらえるようにしたいです。
―― ありがとうございます。最後に、「アラジン」が長年にわたって支持を集めるのはどういうところが魅力だと思われますか?
山寺 ディズニーはよく“魔法をかける”と言いますけど、どこか別の世界に連れて行ってくれるような感覚があるんです。ただ、夢の世界で終わらず、それを現実の世界で生かせるようなワクワクやドキドキ、愛がありますね。
こんなに楽しいエンターテインメント作品でありながら、誰かとの出会いで人は変わることができるし、人にとって大事な願いとは何かということを押しつけでなく楽しませながら教えてくれる。これぞエンターテインメントじゃないですか。ディズニー作品はそれをすごいクオリティーで貫いているように感じます。
そこには作品に携わる人たちのチーム力もあるでしょう。役者やスタッフも含めた一体感を感じます。人は人と関わらないと何かを生み出せない。そういうことをいろいろな面から教えてくれますね。
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