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» 2019年08月26日 18時00分 公開

クリエイターズ・サバイバル アーティストの戦略教科書 第2回 藤田和日郎:自分に正直な漫画を毎回全力で描く (2/2)

[島田一志/いちあっぷ編集部,ねとらぼ]
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自分に向いているのはやっぱり少年漫画

―― 2006年、全ての伏線を回収した『からくりサーカス』は見事な大団円を迎える。その後、藤田さんは青年誌でコミックス1巻分の短い作品を2本連載、さらに2008年、童話をモチーフにした『月光条例』の連載を開始する。

 『からくりサーカス』を9年間連載して、読切の描き方を忘れてしまったんじゃないかとふと不安になったので、その確認のため、青年誌で『黒博物館 スプリンガルド』と『邪眼は月輪に飛ぶ』を描きました。読切というのは漫画の基本ですからね、それが描けないとやばいと思ったんです。

 で、その2作を――厳密に言えば読切ではないんですけど――全1巻という短い尺の作品として終わらせることができて、ああ、まだ俺やれるじゃんって(笑)。それで、また新たに『サンデー』で長期の連載をやらせてもらえるということなったとき、いろいろ考えました。というのは、『うしをととら』と『からくりサーカス』で、ほとんど自分の中にある全てを吐き出していたので。

 ただ、それはそのときそう思っただけで、冷静に考えてみれば、まだ描きたいものはあったんですよ。それは“子どものころに好きだった童話と向き合う”というものでした。『月光条例』という作品で、“自分なりに納得のいく童話”を描きたかったんです。あまりにも描きたい気持ちが強くて、描いたあとで燃え尽きてしまいましたけどね(笑)。

クリエイターズ・サバイバル いちあっぷ 漫画 漫画家 藤田和日郎 うしおととら からくりサーカス △藤田和日郎氏が燃え尽きた『月光条例』の赤ずきんの回

―― 主人公の名は岩崎月光。目つきの悪い不良っぽい少年だが、やがておとぎ話と現実世界を超えたメタフィクション的な戦いに身を投じていくことになる。

 前2作の主人公たち――うしおや鳴海というのは自分の憧れだったんですよ。ああいうふうになりたいなという。でも、鳴海みたいになれないやつはどうすればいいんだろうという疑問も常にあった。それが白面の者やフェイスレスなんですよね。なりたくて悪になったわけじゃない、という。嫌われる理由は周りのみんなはわかってるんだけど、本人だけがわかってないという悲しいキャラですよね。

 つまりフェイスレスや白面の者をどんどんマイルドにして、こういう“いい悪党”もいるよねっていう気持ちで描いたのが月光なんですよ。『うしおととら』のとらも近いタイプかな。

クリエイターズ・サバイバル いちあっぷ 漫画 漫画家 藤田和日郎 うしおととら からくりサーカス △『月光条例』第5巻

 『月光条例』は『からくりサーカス』と同じくアンケート人気的に苦戦でしたし、ちょっとラストを誤解されてるフシのある漫画なんですけど、自分にとってはある意味でいちばんかわいい作品なんです。離ればなれになる登場人物がいたとしても、みんなの想像の中では彼らはいつも一緒でしょ。それを想像してね、っていうのをやりたかったんですよ。読者に物語の最後を委ねるというのはそれまでやってこなかったので、自分としては新しい試みをやれたのでよかったと思います。

―― ところで、『黒博物館 スプリンガルド』や『邪眼は月輪に飛ぶ』というべらぼうに面白い青年漫画を描いた藤田さんは、そのまま青年誌に行こうとは思わなかったのだろうか。ある程度の年齢になった少年漫画家が青年誌へ活動の場を移すのは自然な流れだが、藤田さんはその流れには乗らず、いまだに少年漫画のトップランナーの一人として走り続けている。

 これは自分でも極端なコトを言いますけど、青年誌って、敵対してるふたりのキャラがいたとしても、どっちが強いかが大事なトコロじゃないような気がしてね?(笑)。戦いの結末を濁したり、引き分けみたいにしがちに見えてるんです。でも、僕はどっちが強いか、はっきりさせたいんですよ。正義の味方に憎らしいやつをぶっとばしてもらいたい。

 そういう人間はやっぱり、少年漫画を描くしかないですよね。それと、自分が一番いいと思う生き方や、どうしても曲げられない男の信念、昔ながらの人情みたいなものを僕ははじめて漫画を読む読者に向けて描きたいんですよ。そういう意味でも、物語や人物の表現が複雑になりがちな青年漫画よりも少年漫画のほうが描きやすいんですよ。個人的にね。極端なんですよ、僕は(笑)。

クリエイターズ・サバイバル いちあっぷ 漫画 漫画家 藤田和日郎 うしおととら からくりサーカス △インタビュー時に記入いただいた藤田和日郎氏の人生曲線

デビュー時代から現在まで振り返ってもらった

 ただ、僕の漫画でも、悪いやつにもそれなりの理由がある、というふうには描きます。場面によっては悪役に肩入れして描いているようなところもあります。でも、その漫画の世界の中では悪いやつが最後に倒されないと、なんのために物語を描いているかわからないじゃないですか。悪いやつにも言い分がある、だから勝負の結末を曖昧にする、というのはイヤなんですよ。

 たとえばフェイスレスも彼がなぜああなったかを思えばかわいそうなやつなんだけど、そのせいで不幸になった人間も無数にいるわけで、やっぱり物語の中でのけじめはつけないといけないと思うんですよ。それは作家として最低限守らないといけないことなんじゃないでしょうか。

―― 以上で前編をお届けした。次回の後編では現在連載中の『双亡亭壊すべし』から藤田和日郎氏の視点に焦点を当てていく。

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(聞き手・取材:島田一志 / 編集:いちあっぷ編集部)


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