白石和彌監督が描いた“壊れかけの家族”とは――「ひとよ」の光と影に見る“母と子どもの心の揺れ”(2/2 ページ)

» 2019年11月04日 12時30分 公開
[のとほのかねとらぼ]
前のページへ 1|2       

人間関係は一度クラッシュしないと始まらない

――こだわりのシーンはありますか?

白石監督: タクシーがクラッシュするシーン。2006年に日本公開されたポール・ハギス監督の映画「クラッシュ」もそうですが、他人だろうがなんだろうが、仲良くなるにせよけんかするにせよ、人間関係は一度クラッシュしないと前に進まないんじゃないかと思うんです。

 まさにそれをタクシーのクラッシュで表現していて、母は良かれと思ってやったことでも子どもたちにとっては重荷になっていた。それぞれの思いが、一度クラッシュすれば少し変わるかもしれないというメッセージを込めてます。そうは分かっていても、この作品を作った僕自身がクラッシュする勇気がないというね(笑)。

――なかなかできないです(笑)。クラッシュが起きる終盤のシーンはキャストの熱演も相まって見ごたえたっぷりでした。キャスティングはどういった基準でされましたか?

白石監督: 「ひとよ」をやると決まった際、母親役は田中裕子さんにお願いしたい思いが最初からありました。役柄的にもマッチするだろうなと思ったところと、単純に僕が田中さんとお仕事をしてみたかったのが理由です。偉大な女優さんだと思います。

 健くんが演じている次男の稲村雄二は、母親を憎んではいるけれど、めくれた何かの最後に一番強い愛情を持って母親を思っていて、何者にもなれなかった自分自身を一番悔いている。静かな中にマグマのような荒ぶる心を持っているキャラクターが、クールそうに見えるけど芝居にすごく熱い佐藤健そのものな感じがしたのでキャスティングしました。

ひとよ 白石和彌 佐藤健 鈴木亮平 松岡茉優 田中裕子 桑原裕子 KAKUTA (C) 2019「ひとよ」製作委員会

 亮平くんは、いつも肉体を駆使した役がイメージとしてありますが、いろいろなキャラクターを作れる俳優だと思いますし、人とのコミュニケーションが苦手な長男・稲村大樹のような内向的なキャラクターも多分やってくれるだろうなという期待がありました。でもやっぱり彼はガタイがいいから、むきむきを隠すためにジャンパーを着せているんだよね(笑)。だけど、撮影期間中にも体重を落としていたのか、クランクアップの頃には痩せてましたね。吃音のしゃべり方もいろいろな人に会って話を聞いたりしていたみたいで、本当にキャラクターを作り込んでくれる役者さんだなあと思いますね。

 長女の稲村園子を演じた松岡茉優さんに関しては、演技力や自己プロデュース能力も含めて、この世代では飛び抜けている感じがあります。今作のお芝居のトーンを作っていただいたのは田中さんだと思っていますが、この家族を家族にしてくれたのは松岡さんのものすごいコミュニケーション能力だと思います。いい潤滑油になってくれました。

 ただ、この3人が兄妹に見えるかはクランクイン直前まで不安でした。でも、最初に撮影した園子と大樹が父親の墓参りのシーンがすごくいい雰囲気で、兄妹に見えるもんだなと安心しました。そういった空気感は、役者の力を信じるべきなんだなとあらためて教えてもらいましたね。

ひとよ 白石和彌 佐藤健 鈴木亮平 松岡茉優 田中裕子 桑原裕子 KAKUTA (C) 2019「ひとよ」製作委員会

――田中さんや佐藤さんら稲村家は白石組初参加でしたね。今後、出演してほしい役者はいらっしゃいますか?

白石監督: いや、もう出ていただけるならみんな出てほしいです。稲村家の4人もそうですが、堂下道生役の佐々木蔵之介さんも素晴らしかったですし、柴田弓役の筒井真理子さんもすてきでね。大樹の妻の二三子を演じたMEGUMIさんもすごくいいんですよ、推してます。

 でも白石組といってもそんなにいないですよ。音尾琢真さんは毎回出ていただいていますが。ピエール瀧さんは、今後はどうか分からないですが、会って話をしました。本人はとても反省してましたよ。

「(家族って)面倒臭いんだなというのはよりよく分かりました(笑)」

――いつかピエール瀧さんが白石組に復帰する日を夢見てます。最後に、「ひとよ」で監督が描きたい家族は描けましたか?

白石監督: 分からないなあ……。家族なんて普通に映画を撮っていれば作中に出てくることも多いし、別に肩肘張る必要は本来ないはずですが、なぜか頑なにここまで描いてこなかったので、家族に対する僕の考え方が若干こじれ始めていて(笑)。

 この作品を撮るときに、これで家族に対する考えを一度清算して、今後また家族を描くときがきたら難しいことを考えずに撮れるじゃないか、と思って挑んだのですが、結果、清算はできなかった。やればやるほど分からないし、家族と一言で言ったってケースバイケースで、一言では決して表せられないものだと思うので。ただ、面倒臭いんだなというのはよりよく分かりました(笑)。

 でも、15年前の“一夜”をきっかけにそれぞれ家族にとらわれているけれど、とらわれているというのは相手のことを考えている時間でもあったということ。温かみが伝わっていただけたらいいなと思います。

ひとよ 白石和彌 佐藤健 鈴木亮平 松岡茉優 田中裕子 桑原裕子 KAKUTA

映画「ひとよ」予告

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/25/news174.jpg 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  2. /nl/articles/2404/26/news154.jpg 元「AKB48」メンバー、整形に250万円の近影に驚きの声「整形しすぎてて原型なくなっててびびった」
  3. /nl/articles/2404/21/news011.jpg 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  4. /nl/articles/2404/12/news174.jpg 築年数不明の平屋にある、ボロボロ床板をはがしてみたら…… 発覚したヤバい事実に「ビックリ!」「大丈夫でしたか?」心配と驚きの声
  5. /nl/articles/2404/26/news022.jpg ママの足にくっつく生後7カ月の赤ちゃん、甘えてるのかと思いきや…… 計算された行動と「ちいこい後ろ姿がかわいすぎ」て目が離せない
  6. /nl/articles/2404/25/news016.jpg 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  7. /nl/articles/2404/25/news069.jpg “作画軽減ガンダム”をガンプラで作成 → 使用パーツも最小限の再現ぶりに「完全に一致」「部品軽減ガンダム」
  8. /nl/articles/2404/23/news090.jpg 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  9. /nl/articles/2404/18/news134.jpg 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  10. /nl/articles/2404/26/news024.jpg 0歳赤ちゃん「(ママ来たっ!)」→喜びが抑えきれなくて…… 尊すぎるダンスが300万再生「心が浄化されていく」「朝から癒やされました」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」