白石和彌監督が描いた“壊れかけの家族”とは――「ひとよ」の光と影に見る“母と子どもの心の揺れ”(2/2 ページ)
人間関係は一度クラッシュしないと始まらない
――こだわりのシーンはありますか?
白石監督: タクシーがクラッシュするシーン。2006年に日本公開されたポール・ハギス監督の映画「クラッシュ」もそうですが、他人だろうがなんだろうが、仲良くなるにせよけんかするにせよ、人間関係は一度クラッシュしないと前に進まないんじゃないかと思うんです。
まさにそれをタクシーのクラッシュで表現していて、母は良かれと思ってやったことでも子どもたちにとっては重荷になっていた。それぞれの思いが、一度クラッシュすれば少し変わるかもしれないというメッセージを込めてます。そうは分かっていても、この作品を作った僕自身がクラッシュする勇気がないというね(笑)。
――なかなかできないです(笑)。クラッシュが起きる終盤のシーンはキャストの熱演も相まって見ごたえたっぷりでした。キャスティングはどういった基準でされましたか?
白石監督: 「ひとよ」をやると決まった際、母親役は田中裕子さんにお願いしたい思いが最初からありました。役柄的にもマッチするだろうなと思ったところと、単純に僕が田中さんとお仕事をしてみたかったのが理由です。偉大な女優さんだと思います。
健くんが演じている次男の稲村雄二は、母親を憎んではいるけれど、めくれた何かの最後に一番強い愛情を持って母親を思っていて、何者にもなれなかった自分自身を一番悔いている。静かな中にマグマのような荒ぶる心を持っているキャラクターが、クールそうに見えるけど芝居にすごく熱い佐藤健そのものな感じがしたのでキャスティングしました。
亮平くんは、いつも肉体を駆使した役がイメージとしてありますが、いろいろなキャラクターを作れる俳優だと思いますし、人とのコミュニケーションが苦手な長男・稲村大樹のような内向的なキャラクターも多分やってくれるだろうなという期待がありました。でもやっぱり彼はガタイがいいから、むきむきを隠すためにジャンパーを着せているんだよね(笑)。だけど、撮影期間中にも体重を落としていたのか、クランクアップの頃には痩せてましたね。吃音のしゃべり方もいろいろな人に会って話を聞いたりしていたみたいで、本当にキャラクターを作り込んでくれる役者さんだなあと思いますね。
長女の稲村園子を演じた松岡茉優さんに関しては、演技力や自己プロデュース能力も含めて、この世代では飛び抜けている感じがあります。今作のお芝居のトーンを作っていただいたのは田中さんだと思っていますが、この家族を家族にしてくれたのは松岡さんのものすごいコミュニケーション能力だと思います。いい潤滑油になってくれました。
ただ、この3人が兄妹に見えるかはクランクイン直前まで不安でした。でも、最初に撮影した園子と大樹が父親の墓参りのシーンがすごくいい雰囲気で、兄妹に見えるもんだなと安心しました。そういった空気感は、役者の力を信じるべきなんだなとあらためて教えてもらいましたね。
――田中さんや佐藤さんら稲村家は白石組初参加でしたね。今後、出演してほしい役者はいらっしゃいますか?
白石監督: いや、もう出ていただけるならみんな出てほしいです。稲村家の4人もそうですが、堂下道生役の佐々木蔵之介さんも素晴らしかったですし、柴田弓役の筒井真理子さんもすてきでね。大樹の妻の二三子を演じたMEGUMIさんもすごくいいんですよ、推してます。
でも白石組といってもそんなにいないですよ。音尾琢真さんは毎回出ていただいていますが。ピエール瀧さんは、今後はどうか分からないですが、会って話をしました。本人はとても反省してましたよ。
「(家族って)面倒臭いんだなというのはよりよく分かりました(笑)」
――いつかピエール瀧さんが白石組に復帰する日を夢見てます。最後に、「ひとよ」で監督が描きたい家族は描けましたか?
白石監督: 分からないなあ……。家族なんて普通に映画を撮っていれば作中に出てくることも多いし、別に肩肘張る必要は本来ないはずですが、なぜか頑なにここまで描いてこなかったので、家族に対する僕の考え方が若干こじれ始めていて(笑)。
この作品を撮るときに、これで家族に対する考えを一度清算して、今後また家族を描くときがきたら難しいことを考えずに撮れるじゃないか、と思って挑んだのですが、結果、清算はできなかった。やればやるほど分からないし、家族と一言で言ったってケースバイケースで、一言では決して表せられないものだと思うので。ただ、面倒臭いんだなというのはよりよく分かりました(笑)。
でも、15年前の“一夜”をきっかけにそれぞれ家族にとらわれているけれど、とらわれているというのは相手のことを考えている時間でもあったということ。温かみが伝わっていただけたらいいなと思います。
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大胆に設定変えてきた。
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