「土俵際、もはや絶体絶命」年始早々に絶望的な広告→ひっくり返すと……? 自分らしく戦う人たちにエールを送る西武・そごうの広告、その意図を聞いた
2019年に賛否両論だった「わたしは、私。」を再び唱える理由。
「さ、ひっくり返そう。」――最後の行から読むことでまったく違う意味になる西武・そごうの広告が話題です。
広告に込められたメッセージは、2020年で4回目となる「わたしは、私。」。今年は幕内最小の力士・炎鵬晃さんをモデルに起用し、自分らしく戦う尊さを発信します。
大逆転は、起こりうる。
わたしは、その言葉を信じない。
どうせ奇跡なんて起こらない。
それでも人々は無責任に言うだろう。
小さな者でも大きな相手立ち向かえ。
誰とも違う発想や工夫を駆使して闘え。
今こそ自分を貫くときだ。
しかし、そんな考え方は馬鹿げている。
勝ち目のない勝負はあきらめるのが賢明だ。
わたしはただ、為す術もなく押し込まれる。
土俵際、もはや絶体絶命。
ここまで読んでくださったあなたへ。
文章を下から上へ、一行ずつ読んでみてください。
逆転劇が始まります。
(2020年「わたしは、私。」より)
上から読むと絶望的な状況をつづったネガティブなメッセージですが、ひっくり返すと「大逆転」を目指す人へのエールに様変わり。小さな体で大きな相手を組み伏せる力士・炎鵬さんの姿がメッセージに重なり、正月休みでゆるんだ心が熱く燃え上がるようです。
年末年始の恒例となりつつある、西武・そごうのメッセージ広告「わたしは、私。」。
2016年暮れには樹木希林さんが年齢のステレオタイプに縛られない自由を説き、2018年始めには木村拓哉さんを通じて自分だけの人生を貫く勇気を伝えました。どちらもコピーの内容とモデルのイメージが分かりやすく合致し、共感と称賛を集めています。
ところが、2019年の広告は打って変わって賛否両論に。「わたしは、私。」を性的役割からの解放と捉えたコピーでしたが「むしろ『差別を受け入れろ』と言っているように聞こえる」と炎上に近い議論を巻き起こしました。
コピーの前半では「セクシャルハラスメント」「大学入試で女性受験者を減点」といった社会を挙げて解決すべき問題を取り上げながら、後半では「わたしは、私。」という個人の内面に着地する複雑な構造が、制作者の意図とは異なる解釈につながったのかもしれません。
また、女性(安藤サクラさん)がクリームパイを投げつけられる刺激的なムービーに不快感を覚える人も多かったようです。
女だから、強要される。
女だから、無視される。
女だから、減点される。
女であることの生きづらさが報道され、そのたびに、「女の時代」は遠ざかる。
今年はいよいよ、時代が変わる。
本当ですか。期待していいのでしょうか。
活躍だ、進出だともてはやされるだけの「女の時代」なら、永久に来なくていいと私たちは思う。
時代の中心に、男も女もない。
わたしは、私に生まれたことを讃えたい。
来るべきなのは、一人ひとりがつくる、「私の時代」だ。
そうやって想像するだけで、ワクワクしませんか。
わたしは、私。
(2019年「わたしは、私。」より)
さて、こうした非難を受けてなお同一のテーマで作られた2020年の広告。Twitterでは前年の評判を覆す絶賛と共に迎えられました。炎上騒動を再燃させかねないリスクを背負って挑戦し、大成功を収めた西武・そごうの逆転劇は、まさしく「わたしは、私。」を体現するかのようです。
なぜメッセージを発信し続けるのか? 今回の「ひっくり返す」ギミックに込められた意図は? 西武・そごうに話を聞きました。
自分らしさを追求するすべての方々を応援していきたいという思いは変わりません
――4作目となる今回、モデルに炎鵬さんを起用したのはなぜですか?
現在、炎鵬さんは幕内で最軽量の力士でいらっしゃいます。
ご自身いわく「小兵であることをハンディキャップとは思わず、むしろ強みとしてポジティブに捉えた」戦い方で大活躍していらっしゃいます。その姿が、今回のコピーの内容にぴったりだという点から、出演をお願いすることになりました。
――ひっくり返すと別の意味になるクリエイティブの意図を教えてください。
今回の広告のタイトル「さ、ひっくり返そう。」を効果的に表現する手法として、「ひっくり返して」下から読んだときでは、全く違う意味になるコピーを取り入れました。
手法のユニークさもそうですが、逆境も視点を変えると違った様相に見えるという点に共感していただけたならば、私どもとしても大変うれしく存じます。
――そごう・西武様が「わたしは、私。」とメッセージを発信する理由をお聞かせ願えますか。また、昨年の広告で賛否両論を呼んだテーマを継続することにためらいはありませんでしたか?
「わたしは、私。」というメッセージには、生き方すべてにおいて、周囲からのさまざまな制約にとらわれてしまうのではなく、あなたらしくいてくださいという意味を込めています。
自分らしさを追求するすべての方々を応援していきたいという思いは変わりません。よって、広告も継続し、テーマを変えようという意見はございませんでした。
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