「キャッツ」がホラー映画である「8」の理由 悪夢に支配され、あまりの恐怖に涙する(2/2 ページ)
Gとは、食べ残しが好きで、水回りによく出現する、カサカサと素早く動き回り、時には顔めがけて飛んでくる、全人類の嫌われ者のアイツのことである。
名前を具体的に記したくないので頭文字を取ってそう呼ぶが、なんとこの「キャッツ」の狂った世界にその姿を現わすのである。もちろん、猫たちと同じく、“顔だけが人間”で“体がG”だ。シンプルにおぞましい。
しかも、ただ姿を現わすだけではない、ヤツらは集団になって歌って踊る。それだけではない、地上波放送であれば間違いなくモザイクがかかるであろう、阿鼻叫喚の地獄絵図がこの目に飛び込んでくるのだ(繰り返しになるが本作は全年齢指定である)。
具体的にGがどうなるのかは、その目で見届けてほしい。恐ろしいことにこの地獄絵図は序盤に早くも登場する。ホラー映画であると結論づけた決定的な瞬間だった。
ちなみに、G以外にも「基本的にゴミ捨て場から食べ物を拾って食う」という不衛生を絵に描いたような要素までもある。さらに、股をおっ広げて股間(ツルツル)の近くをポリポリと手でかく場面もある。シンプルに汚い。
5:自己紹介する狂人(猫)にたらい回しにされる
ここで、ストーリーが申し訳程度にしか存在しない、ほぼ全編で展開するのは「やべーやつらの自己紹介」ということもお伝えしておこう。
簡単にあらすじを紹介しておくと、捨てられた猫のヴィクトリアが、街の片隅のゴミ捨て場にいた猫たちに導かれ、舞踏会に参加する……というものだ。その舞踏会では、“新しい人生を生きることを許される”猫が1匹だけ選ばれる。
これだけだとサクセスストーリーとして面白く展開できそうなのだが、実際にメインとなるのは“主人公の猫がいろいろな猫の自己紹介の場にたらい回しにされる”というものだ。そいつらは、前述したように“G”とあんなことをしたり、「私は犯罪をやってます」とカミングアウトするやつがいたり、まあシンプルに狂人(猫)ばかりである。
中には悲しい過去を背負った同情すべき猫もいるのだが、“捨て猫”や“元スター”であるといった表面的なことしか分からないため、感情移入がしづらい。
とはいえ、「次にどんな変態が出てくるんだろう」という興味とワクワクはかなりなものであり、見事な歌唱とダンス、派手なビジュアルや装飾もあって鑑賞中の集中力は強制的に持続させられる。
また、ある猫が「なんでこんなことになってるの?」ということをセルフツッコミするシーンもある。物理的な移動が一瞬で行われる(テレポート能力を有する猫もいる)こと、そして全体が悪夢的な不条理さに満ちている様は、カルト映画「インランド・エンパイア」をほうふつとさせた。
<ハリウッド⇔ポーランド、現実⇔映画、そしてウサギ人間たち。 5つの世界が交錯する。> ニッキーとデヴォンは、キングスリー・スチュワート監督が手がけるいわくつきの映画に出演することになる。役にのめりこむに従い、ニッキーは次第に、役柄と私生活を混同していく。 ”彼女”はいったい何者なのか?物語はロサンゼルス、ポーランド、そしてインランド・エンパイアへと行き来し、世界は混沌に飲み込まれていく…。 06年ベネチア映画祭「栄誉金獅子賞」、 07年全米映画批評家協会賞「実験的作品賞」受賞作品。
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そして、「キャッツ」の真の恐怖はその変態たちのたらい回しの中にあった。端的に言って、カルト宗教団体にしか見えないのである。
6:カルト宗教団体の洗脳セラピーがぶっ続く!
前述した狂人(猫)たちは、さまざまな方法で主人公や弱々しく見える猫を、“洗脳”しにかかっているようにしか見えない。周りから逃げられないように多人数で取り囲み、「こうしたらいいのよ」と訴える。しかも主人公は彼らを簡単に受け入れ、いつの間にか笑顔で踊り歌っている。シンプルに怖い!
他にも、向こうから“長老”らしき者が歩いてくると、みんなで「ああ、いや、ほう、なんとまあ」と感嘆の声を上げていたり、まだ何も成し遂げていない時点で若者に「なんて賢いんでしょう」と言ったりもする。すでに洗脳されている猫ばかりなのである。
それだけではない、信者たちに、なんとマタタビを振る舞う教祖までもが登場するのだ。そのマタタビというかもはやドラッグを吸った信者たちはエクスタシーな表情を浮かべ、失神したりもする。怖っっっっっっっっっ!
“ある価値観を疑わず笑顔で信じる”こと、そのためにどんなことも平然と“正しい”と行われ、周りも同調しているという光景が、こんなにも恐ろしいものなのかと戦慄した。ここにこそ、「キャッツ」の最大の教訓が詰まっていると言っても過言ではないだろう。カルト宗教は、怖いのだ!
7:ラストシーン直前に最大の恐怖が訪れる!
この「キャッツ」の最大の恐怖を、ようやく記すことができる。それは、ラストシーン直前にあった。
見てほしいので具体的には書かないが、今まで記してきたようなカルト宗教の恐怖が、ここに全て集約されていた。あの“目線”、“訴えている内容”、“それを見(聞き)続けるしかないという状況”。それら全てが、怖い……!
「えっ? 分からない! 分からない!」「お前は何を言ってるんだ?」「怖い怖い怖い怖い怖い」「理解不能! 理解不能!」「やめてくれ! やめてくれ!」
これまで見た中で最も怖いホラー映画は「ヘレディタリー/継承」だと思っていたが、この「キャッツ」はそれを超えたのかもしれない。そういえば「ヘレディタリー/継承」の“あの動き”をしていた猫もいたな。たすけて、こわい。
グラハム家の祖母・エレンが亡くなった。娘のアニーは夫・スティーブン、高校生の息子・ピーター、そして人付き合いが苦手な娘・チャーリーと共に家族を亡くした哀しみを乗り越えようとする。自分たちがエレンから忌まわしい“何か”を受け継いでいたことに気づかぬまま…。やがて奇妙な出来事がグラハム家に頻発。不思議な光が部屋を走る、誰かの話し声がする、暗闇に誰かの気配がする…。祖母に溺愛されていたチャーリーは、彼女が遺した“何か”を感じているのか、不気味な表情で虚空を見つめ、次第に異常な行動を取り始める。まるで狂ったかのように…。そして最悪な出来事が起こり、一家は修復不能なまでに崩壊。そして想像を絶する恐怖が一家を襲う。“受け継いだら死ぬ” 祖母が家族に遺したものは一体何なのか?(C)2018 Hereditary Film Productions,
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8:キャッチコピーは本当だった
この「キャッツ」の日本版のキャッチコピーには、「人生が変わる極上のエンターテインメント」「一生に一度の体験を、スクリーンで」とある。これはおおむね正しい。
極上のエンタメかどうかはともかく(実は戦慄のカルトホラー)、人生観が変わるというか「絶対にカルト宗教にはだまされないぞ」と固く誓えたし、こんな体験は一生に一度でも多い。
ただ、個人的には、映画「ドリームキャッチャー」の「見せてあげよう、見たことを後悔するものを」や、「ヘレディタリー/継承」の「あなたの永遠のトラウマになる」、「ムービー43」の「レッツドン引き」などのキャッチコピーのほうがよりふさわしかっただろうとも思う。
少年時代、ある秘密を共有することで固い絆で結びついた4人の男たち。その20年後。毎年恒例のハンティングのため、彼らは雪深い森の狩猟小屋で再会を果たす。しかし旧交を温める彼らの周りで、説明不能の出来事が次々と起こり始める。そして想像を絶する恐怖が4人を襲うのだった……。 Eirin Approved (C) 2003 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
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舞台版を見て分かること
筆者は、この映画「キャッツ」の鑑賞後に、Amazonプライムでレンタルできる舞台版も鑑賞した。そこで感じたのは、この「キャッツ」がそもそも映画化に向かない題材であるということだ。
舞台版の内容もやはり“エキセントリックな猫たちが次々に自己紹介をしていく”というもので、原作にあたるT・S・エリオットの詩を元にしているだけあり、非常に抽象的でつかみどころがない。
史上もっとも有名なミュージカル、アンドリュー・ロイド=ウェーバー作の「キャッツ」。1981年、ロンドンのウエストエンドで初上演され、空前の大ヒットとなった。また、名曲ばかりの劇中歌の1つ、“メモリー”は世界的にヒット
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世界中で大評判の超ロングラン・ミユージカル「キャッツ」の原作を新訳で贈る。あまのじゃく猫におちゃめ猫、猫の魔術師に猫の犯罪王…。色とりどりの猫たちがくり広げる、奇想天外な猫詩集。ノーベル賞を受けた、20世紀最大の詩人エリオットが、1939年、51歳のときに出版したこの詩集は、エリオットの猫観察記ならぬ猫交友録とでもいえるもの。ニコラス・ベントリーのカラーさしえ14枚入り。
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舞台では、観客が“一歩引いた”位置で見られるため、それほど恐怖感や違和感はない。ところが奥行きのある町並みを含め、しっかりした“世界”が構築された映画では「何を見せられているのかよく分からなくて怖い」「ていうか猫たちが本気で怖い」「悪夢」という印象が先立ってしまう。
一応、映画ではヴィクトリアという猫を主人公に置くことで、舞台版よりも物語の流れを作ろうとする親切心は伝わってくるのだが、その主人公の存在こそが「次々にカルト宗教に洗脳されている」ような、さらなる恐怖につながってしまったのではないだろうか。
余裕があれば、ぜひ「キャッツ」の映画と舞台版を見比べてみてほしい。スタッフとキャストが原典をリスペクトしていることが痛々しいほどに伝わり、同時に映画と舞台は全くアプローチの異なる芸術であるということも鮮明に分かることだろう。
この恐怖はぜひスクリーンで
映画「キャッツ」の劇中の楽曲のクオリティーは高く、美術や衣装も(悪夢的な)世界観を強固にしており、もちろん歌声も世界最高レベルだ。スタッフやキャストたちは最大限の努力をしていると明言しておこう。
そうであったはずなのに、出来上がったのはどこからどう見ても全方位的に異常な、歴史に残るホラー映画の大怪作なのだ。こんな映画は、誇張など抜きでもう二度と誕生しないかもしれない。
吹替版のキャストが“極上”と銘打たれるのも納得の豪華さとなっているので、そちらを選ぶのも良いだろう。先日結婚を発表したばかりの朴ロ美(ロは王へんに路)と山路和弘の夫妻も、そろって声優を務めている。
ぜひ、映画館で「キャッツ」を見てほしい。テレビで見たらチャンネルを変えたり、途中で見るのをやめられるが、劇場では逃げられない。映画史上最大の恐怖があなたを待っている。猫が、全裸で。あとGも。
(ヒナタカ)
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