「香川県からのアクセスをブロックするプログラム」が話題に ネット・ゲーム依存症対策条例への問題提起として

ジョークのようでいて、皮肉の利いた意見のようにも。

» 2020年01月27日 18時25分 公開
[沓澤真二ねとらぼ]

 香川県議会が検討中の「ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)」に備え、「もしものために、香川県からのアクセスをブロックするプログラム」が公開され話題になっています。編集部では作者に、プログラムを公開した狙いなどを聞きました。



 そもそもの発端となったのは、香川県が公開した「ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)」の素案。「18歳未満は平日ゲーム60分まで」の部分が注目されがちな同条例ですが、素案の第11条を見ると「インターネットを利用して情報を閲覧(視聴を含む)に供する事業またはコンピュータゲームのソフトウェアの開発、製造、提供等の事業を行う者は、その事業活動を行うに当たっては、県民のネット・ゲーム依存症の予防等に配慮するとともに、県または市町が実施するネット・ゲーム依存症対策に協力するものとする」との記載があります。

 つまり、この素案がそのまま通った場合、ゲーム業界だけでなく、あらゆるインターネット事業者は「香川県民のネット・ゲーム依存症の予防等に配慮」しなければ条例違反ということに……。そのためネット上では早くから、「アクセス前に『香川県民ですか?』と聞く必要が出てくる」「香川県からのアクセスに規制が必要になってしまう」など懸念する声があがっていました(関連記事)。



素案 「ネット・ゲーム依存症対策条例素案」第11条(赤線は編集部)

 今回公開されたプログラムは、万が一「そういう状態」になった場合を想定して公開されたもの。作者のnino(@ni_no13)さんは、あくまで「ネタです」と前置きしつつ、「本当にサービス側が依存症に対策しないといけなくなったらやばい(絶対ないと思うけど)」と、技術情報共有サービス「Qiita」でプログラムを公開。「Geolocation API」(位置情報を取得するためのAPI)を用いて、ユーザーの所在地の緯度経度を取得して都道府県を割り出し、もし香川だった場合は香川県の公式サイトに飛ばすというシンプルな仕組みです。


プログラム プログラムの一部

実行 テストの様子。作者は香川県外にいるため、Chromeの機能で位置情報を変更して試している

 もちろん、位置情報の取得にはユーザーの同意が必要ですし、偽装されたり、拒否されたりしたら意味はありません。作者も「香川県のゲーム規制をネタにGeolocationで遊んでみました」と語るように、ジョーク的なプログラムではあります。しかし、それ自体が条例への皮肉の利いた意見に映るのも事実。編集部はninoさんに、作成の意図などを聞きました。


条例通りのアクセス制限を完璧にするには技術ベースでは難しい

―― 香川の条例案について、どのように考えていますか。

nino あのプログラムは「Geolocationを使えばできる」という思いつきで書いた側面が大きく、条例に対し擁護や反対といった意図があったわけではありません。少し皮肉ってはいますが。

 また、私はまだ学生で、対策を打つ可能性のあるゲームサービス提供側でもなく、香川県民でもありません。条例に直接関係がない立場にいるので、何でも言えてしまうのですが、どちらかといえば反対です。

 先回りして(依存症の)対策を行うことに意義はあるとは思います。しかし、ゲーム依存症は大人でもなり得るもので、子どもだけ制限するのは対策としては少し違うのかなと。条例案の本文には子どもの成長に関しても言及されていますが、それは親がやることだと思います。また、実際にどう技術的に解決するかは考えられていないように感じます。

―― 現実問題として、このプログラムでどれくらい「香川からのアクセス」を避けられると思いますか。

nino 記事でも述べていますが、位置情報利用にはユーザーの許諾が必要です。許諾が得られた場合には、Geolocation APIの精度に依存しますが、ある程度は避けられると思います。このAPIはGPSだけでなく、さまざまな情報から位置情報を割り出すため、使える情報が端末によっても異なり、精度も変わってきそうです。

 一方、位置情報利用をブロックされてしまった場合はそもそも判定ができません。これを強制すると法に触れてしまうようなので、ここはユーザーの任意にするしかありません。加えて、位置情報を偽装された場合も打つ手がありません。結論としては、試してみないと分からないことが多いですが、「普通にアクセスして位置情報取得を許可した場合」は高精度に避けられると考えます。

 また、このプログラムはあくまで「アクセスした人が香川県民であることを特定するヒント」の一つを提供することしかできません。香川県からのアクセスであっても、香川県民であるかは分かりませんし、条例が求める「18歳未満」かどうかや、「1時間以上の利用」は別途対策が必要です(※)。

※編注:当初の素案では「1日60分(休日は90分)」の使用制限対象について「スマートフォン等」も含まれていましたが、最新の素案では「コンピュータゲーム」のみに変更されています(関連記事

―― もし条例が本当に成立し、対応せざるを得なくなった場合、どうするのが現実的だと思いますか?

nino 対策するうえで必要とされる情報は「1:香川県民であること」「2:18歳未満であること」「3:1時間以上使っているか」です。1についてはこのプログラムが使えますが、香川県と特定しても、香川県民かは分かりません。2については自己申告しかないでしょうし、3の時間制限にしても、ネットへのアクセス時間の判定を、各サイトで合算して行うのは困難です(※)。つまり、どれも技術ベースで完璧に運用するのは難しいでしょう。

※編注:上に同じ

 香川県の求めるレベルによると思いますが、現実的なところでは「香川県民ですか? Yes/No」「18歳未満ですか? Yes/No」と聞き、1時間以上滞在したら警告するくらいしかできないように感じます。

協力:nino(@ni_no13)さん




Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた