情報漏えい、低過ぎた危機意識〜元ソフトバンク社員の陥った古典的なスパイ手口
民間企業は危機意識が低い?
ニッポン放送「ザ・フォーカス」(1月27日放送)に産経新聞客員論説委員・国際医療福祉大学の山本秀也が出演。元ソフトバンク社員の情報漏えい事件について解説した。
ソフトバンク情報漏えい事件〜ロシア側に情報を手渡し
通信大手のソフトバンクから機密情報を不正に引き出したとして、元社員の荒木豊容疑者(48)が不正競争防止法違反の疑いで警視庁公安部に逮捕された。荒木容疑者は情報を不正に引き出してから日本駐在のロシア通商代表部の職員に会い、記録媒体を手渡ししたと説明している。情報提供の見返りに金銭を受け取ったことも認めており、警視庁は裏付けを進めている。
森田耕次解説委員)ソフトバンクから機密情報を不正に引き出した事件ですが、不正競争防止法違反の疑いで警視庁公安部に逮捕された元社員の荒木豊容疑者(48)は、2019年2月、当時勤務していたソフトバンクのサーバーにアクセスし、営業秘密となっている機密情報など2点を不正に取得した疑いです。警察当局は外務省を通じて在日ロシア大使館に対し、機密情報を受け取った疑いのある在日ロシア通商代表部の50代の職員の男と、2017年に帰国している40代の元職員の男の2人を、警視庁に出頭させるよう要請しています。捜査関係者によると、荒木容疑者と接触し始めたのは既に帰国している元職員で、後任の現職員に引き継いだと見られています。現職員は外交官の身分を持っているということで、在日ロシア通商代表部の情報機関員と見られるということです。捜査関係者の話では、情報は記録媒体に入れて手渡し、荒木容疑者は数十万円を受け取っていたということです。荒木容疑者は「小遣い稼ぎのためで、現金を貰ったことがある」と、容疑を認めているということです。引き出された情報ですが、電話の基地局など通信設備に関連した作業手順書や、業務のプロセスを効率化する内容が含まれているようです。
山本)通信インフラは相手国の基幹の社会インフラですから、攻撃を仕掛ける側としては普段から情報を入手しておきたいということで、インフラ系の民間会社は狙われやすいターゲットです。しかも狙われた方の意識が薄いということで、入りやすい。数十万円の小遣いを貰ったと言っていますが、おそらく最初は飲食を共にするところから始まって、秘密でもないパンフレット程度のものを下さいという話になり、それを貰う度に大仰に喜んでみせ、だんだん金品を与えて気が付いたときにはズブズブの関係になっているという、古典的なパターンだと推測します。
森田)荒木容疑者は、元職員の40代の男と街中で出会って接触が始まったと。偶然を装って近づいて来たのだと思いますが、飲食店での接待や現金提供を繰り返して、情報の要求を重ねたと見られるようですね。
山本)ちょっとしたきっかけをつくって、話の理由にする「機会接触」というのですが、教科書通りの古典的なスパイ術ですね。
危機意識の低い民間企業は狙われやすい
森田)これまでだと標的になるのは、軍事転用可能な企業の技術や防衛機密と言われていました。
山本)それも当然ターゲットになっていますが、そういったところはそれなりにガードが堅いですからね。狙われる方の意識が低いところは、狙いやすいです。
森田)この情報機関というのは、ロシア対外情報庁(SVR)に所属する情報機関員ではないかと見られています。
山本)それは、警視庁が長年裏を取っているのでしょう。
森田)一方、荒木容疑者は当時、モバイルIT推進本部無線プロセス統括部長だったということで、当然この身元も調べながら近づいて来ていると。
山本)ターゲットを絞って街で接触するチャンスを伺うわけですから、女の人であれば子どもをわざわざ泣かせて、「お母さんごめんなさいね」と言って話しかけたり。機会を狙って行くのです。
森田)そういう心理的な負担の低い、機密性の低い情報を求めながら、だんだん要求を上げるのですね。
山本)気が付いたときには、本人も薄々わかっていてもどうしようもなくて、サーバーにアクセスして情報を記憶媒体へ落とすのですが、こうなると本人は明らかに情報を盗んでいるという意識を持っていますよね。
森田)複数回に渡って、元職員や現職の職員に情報提供をしたということは、公安部が裏付けを進めているようです。2019年12月にはソフトバンクと荒木容疑者の自宅を、警視庁公安部が家宅捜索していたようですね。
山本)いずれにしても向こうは不逮捕特権を持っていますが、外務省を通じて出頭要請をした段階で、普通の犯罪であれば逮捕状が出るのと同じことです。
森田)日本の通信ネットワークに興味があって、そこから通信だけでなく電力や鉄道など、他の社会インフラも標的になっている可能性があるのですね。
スパイ天国の日本〜自己防衛の意識をしっかりと持つべき
山本)あると思います。狙われる可能性のあるところは、普段から内部で機密保全の教養をしっかりとやるべきだと思います。
森田)スパイは日本にたくさん来ていると、よく言われています。
山本)スパイ自体を禁じる法律が日本にはないですからね。
森田)当然、中国も日本に来ているわけです。
山本)そうですね。
森田)以前、中国本土へ行った人にハニートラップのようなものがあったではないですか。
山本)捕まった挙句、情報を提供するように誓約させられて、「したら釈放してやる」と言われるようですね。いずれにしても「自分が狙われるはずがない」と思っている人がいちばん狙われるわけですから、戦後の日本では最も抜けている視点かもしれません。
森田)これからオリンピックもありますし、こういったインフラを扱うところは、十分に警戒しなければいけません。
山本)国家だけでなく、ハッカーのような悪質なテロ集団もいます。強い意識を持ちたいところです。
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