70歳就業法案閣議決定〜全世代が働きやすい環境と数字だけでない実質が必要
若い世代を含め、全世代が働きやすい環境をどうやって作っていくがが日本の課題。
ニッポン放送「ザ・フォーカス」(2月4日放送)に中央大学法科大学院教授・弁護士の野村修也が出演。70歳就業法案について解説した。
70歳就業法案〜企業に努力義務
政府は4日、企業に対し、希望する人が70歳まで働くことができるよう、従業員の就業確保に努めるよう求める関連法案を閣議決定した。今国会で成立すれば、2021年4月から施行される。
森田耕次解説委員)少子高齢化が加速するなかで、就業を促して社会保障制度の担い手を増やそうという新しい法案、希望する人が70歳まで働き続けられるように就業機会の確保を企業の努力義務とすることを柱にしています。企業に課す選択肢としては、いまの仕組みに加えて独立して働くフリーランスへの業務委託や、社会貢献事業への従事を新たに設けています。今国会に提出し、成立すれば2021年の4月に施行という方向です。関連法案は高年齢者雇用安定法や雇用保険法など6つの法律の改正案を束ねたものです。企業の選択肢は5つあり、これまでの定年延長、定年廃止、継続雇用制度の導入に加えて起業やフリーランスを希望する人への業務委託、自社が関わっている社会貢献事業に従事させることを追加しました。企業はいずれかの方法で希望者の就業に努めるという法案のようですね。
「働けるうちは働きたい」と思う人が4割以上
野村)いまは65歳までという、定年延長だけでなくさまざまな継続雇用制度があります。給料は下がっているけれど、一応雇用が継続される。65歳まで働ける環境というのは99.8%になっているのですよ。これを66歳以上まで働ける会社というとまだ3割くらいなので、増やしていこうという話なのです。意外と働きたい人は多いのですよね。平成26年の調査ではあるのですが、70歳くらいまで働きたいという人は2割くらいいます。更に75歳くらいまでいいという人が1割いて、80歳くらいまでという人が4%と、けっこういるのです。
森田)人生100年時代と言われてしまうとね。
野村)もっとすごいのは、働けるうちはいつまでも働きたいという人が42%もいるのです。だから、65歳くらいまでと言っている人は1割ちょっとしかいません。他はみんな意欲的ですよね。
森田)それだけ健康になっているし、長生きになっている証拠なのでしょう。今回の法律を見ると、継続雇用制度を設けている会社は多いのですが、自分の会社やグループ企業だけでなく他社に転職させることも認めるようですね。
野村)そんなに簡単には見つからないだろう、という声もあって、選択肢としてはあるけれど選択できるのか疑問に感じる声もあるのです。
森田)フリーランスへの業務委託というものも気になるのですが、これは自由な働き方の代表です。歳をとってからの働き方としてはありですよね。ただ、フリーになってしまうと今度は最低賃金や、労働時間など不安なところはありますね。
野村)ですから、数字上は70歳まで何人の人が働いていますと言っても、中身を見なければいけなくなります。これらが全部継続雇用のカテゴリに準ずるようなものとして扱われると、数字だけが増えていくことになっていくと思うのですが、実態として給料が伴っているのかどうかを見ていかないと難しいです。
雇用延長、再就職の壁
野村)世の中が変わってくると、本当に自分が当てはめてもらえるのかどうか不安になると思います。ただ、一般的な統計からみると、大企業よりも中小企業の方が定年延長させる会社は多いのですよ。やはり人手不足なのです。働いている方がもし元気ならばなるべく長く働いてもらいたいという会社もありますし、技術という点でどうしてもすぐには承継できない部分があるので、若い人たちの教育係としても残って欲しいところもあります。働いているお仕事の内容によっては、中小企業の方がむしろ定年延長はあると思います。
そして、就職氷河期だった方々がいるじゃないですか。あのリーマンショック後に就職困難な時期に陥って苦労された世代の方に、なんとかもう1回チャンスを与えようということで、国家公務員試験でもその年齢層の方だけを対象にしたものをやっています。ただ、それはいろいろな面で難しいものがあって、途中から仕事に就くことの難しさが現実にはあります。更に、どうしても若い人の方を求めてしまう。これは年功序列という給与体系があって、若い人は安い給料でたくさん働かされる仕組みがあるからなのですよね。給与の出し方もフラットにすれば、雇用の形も変わってくるところはあると思います。
森田)70歳まで働けるようにすることを会社が認めた場合、今度は若い社員の待遇が悪くなってしまえば本末転倒です。
野村)全世代の人たちが働きやすい環境をどうやってつくっていくかということが日本の抱えるいちばんの課題なので、みんなで知恵を出さなければいけないと思います。そして、形式的に数字だけが上がってよくなるのはだめなので、実質を見ていかなければいけないと思います。
森田)会社がどこまで賃金のことを含めて考えていくのか。企業の努力義務を求める法案ですから、国会でしっかりと議論して欲しいところです。
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