アマビエブーム到来! 喜んで地上へやってきたアマビエが見たのは……「私そんなこと言ってない!」
共通するのは「わけがわからないよ」。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が猛威を振るうなか、SNSでの拡散をきっかけとして、大きく知名度を上げた妖怪「アマビエ」。わずかな時間でドの付くマイナーから、世界的な超メジャー妖怪へと駆け上がったその拡散ぶりは、妖怪マニアや専門家からして「似たような特性を持つ、知られた妖怪がたくさんいるなか、なぜよりによってアマビエなのか?」と言わしめるものでした。
実はアマビエは「類似の予言獣とは明確に異なる、疫病退散を願われるものとしては都合の悪い特徴」を持つのですが……その点をほっこりと、かわいく描いた漫画が話題となっています。
作者はイラストレーターの天地翔(@amatsuchiya)さん。オリジナルのTシャツやトートバッグなどアパレル商品、グッズなどをTrinityにて販売中です。
「アマビエブーム到来」……どこからか情報を仕入れたアマビエが、数百年ぶりに地上へ姿を現しました。身バレを防ぐため人間に変装し、マスクもしっかり装着。どこかのショップのアマビエ特設コーナーへ到着したアマビエでしたが、その現場を見て一言「なぜ」と絶句しています。
実は元の伝承において、アマビエは「この先6年間は豊作が続くが、もし疫病が流行することがあれば、私の姿を描いた絵を人々に見せよ」と、予言めいたことを目撃者に伝えただけ。要するに「自分の姿絵を人々に見せろ」と言ったに過ぎず、その理由や効果を一切提示していないのです(詳しくは後述)。
「SNSで大人気! 疫病退散! アマビエ特設コーナー」と大々的に書かれたポスターを前に「ここまでやるとは言ってない、あれは単なるアドバイスだったのに……疫病退散なんてムリムリ!」とパニックを起こすアマビエでしたが……そこでひとりの人間が、アマビエの存在に気づきます。あふれ出るオーラ(?)を隠しきれなかったのか、どんどん人間が集まり「密」となりかけたところで、アマビエは「妖怪(ひと)違いです!」と慌てて退散したのでした。
海岸まで逃げ切ることに成功したアマビエは、一息ついた後「なんか思ってたのとは違うけど……似たような効果はあったわけだし、結果オーライ」と明るくポジティブに判断。そして海の底へと帰っていくのでした。
「件(くだん)」「神社姫(じんじゃひめ)」などに代表される予言獣のほとんどは、少し意地悪な解釈をすると「これから疫病が蔓延するが、自分の姿絵を見れば、家に飾れば無病息災。人々に広く知らしめよ。だが言う通りにしなければ、病気になって死んでしまうぞ、不幸になるぞ」という、現代で言うところの「チェーンメール」のようにも読み取れる予言を残しています。
それら予言獣の中で、アマビエだけが熱烈な支持を受けたのは……とぼけた外見も一因でしょうが、もしかしたら「自分の絵を見せたら何が起きるかを伝え忘れる」という、うっかりしたところにもあるのかもしれませんね。
SNSから世界に拡散された妖怪……異形の預言獣「アマビエ」とは
アマビエは日本に伝わる妖怪で、海中から現れさまざまな予言をした、と伝えられている存在です。
アマビエの伝承は、江戸時代の肥後国(熊本県)に残っています。それによれば、海から姿を現したアマビエは「人魚に似ているが、口はくちばしのようで、頭から長い髪のようなものを垂らし、首から下は魚類のウロコに覆われ、3本足が生えている」という外見でした。そして出会った人間へ「私は海中に住むアマビエである。この先6年間は豊作が続くが、もし疫病が流行することがあれば、私の姿を描いた絵を人々に見せよ」と予言めいたことを語り、海へ帰っていったそうです。
ほかの予言獣と異なる点は、疫病が流行るとは断言していない、姿絵を見せる意味や効果を一切語らなかった、という2点です。メリットは類似の予言獣の伝承から推測できますが、その真意は定かではありません。
なおアマビエ、という名称での記録は、先述した熊本県における1件しかありません。名前の意味が分からないことも踏まえた上で「海中からの出現、予言をする、姿絵による除災、3本足、という共通点があり、似た名前で複数の記録が残る“アマビコ(天彦、天日子など)”と同種の存在で、アマビエの“エ”は誤記」とする説も出ています。
余談ですが、日本妖怪研究の第一人者でもある漫画家・水木しげる氏は、アマビエを個別の妖怪として捉えていたようです。ですが同氏の著書『日本妖怪大全(講談社)』において、アマビエは「アマエビ」と盛大な誤記をされています(重版では修正済み)。書き間違いの説にせよ、何かと表記ミスに縁のある妖怪、と言えるのかもしれません。
作品提供:天地翔(@amatsuchiya)さん
たけしな竜美(@t23_tksn)
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