昔のチョコレートは酸味と脂っぽさがあった 『百科全書』からひもとく18世紀フランスのチョコレート事情司書みさきの同人誌レビューノート

キャラクター化したディドロさんたちがかわいい。

» 2020年06月28日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
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 暑かったり雨だったり、不思議な天候の日が続きますね。しっとり雨の翌日、急によく晴れた日はひんやりデザートが一層おいしく感じられます。ゼリーやシャーベット、アイスクリーム……冷たい甘味のお味は何にしましょうか。今回は香り高いチョコレートが登場する同人誌です。

今回紹介する同人誌

『百科全書』で学ぶ 18世紀フランスのチョコレート事情 A5 36ページ 表紙カラー・本文モノクロ

著者:紺野


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18世紀フランスの百科事典からチョコレートを見る

 タイトルにある『百科全書』とは、18世紀にフランスで作られた百科事典です。啓蒙思想家のディドロ氏によって、さまざまな事象を説明、図説したこの百科事典の“チョコレート”の項目に注目したのが、こちらの同人誌です。

 ご本は文章とかわいいイラストで構成されていて、『百科全書』に携わった3人の人物……編集長のディドロさん、数学者のダランベールくん、本業はお医者さんのジョクール氏が、おしゃべりを交えながら説明してくれます。

 『百科全書』のことを全く知らなくても、誰が作ったの? どんな本だったの? と気になるところは要所要所で彼らがツッコミながら説明してくれるので、難しい前知識がなくても読み進められるんです。発足から刊行時期が図で示してあるように、こまごまと情報盛りだくさんなところもうれしいです。

同人誌 図書館 司書 そもそも『百科全書』とは? の部分から、丁寧に説明されます

かわいい掛け合いで18世紀チョコレートの知識を解説

 さて、主題であるチョコレートはと言えば、歴史や18世紀当時にどんな風にチョコレートが広まっていったか、レシピの紹介などなどのトピックスが取り上げられているのですが、ここはやはり『百科全書』に載ったチョコレート工房の絵図がひときわ目を引きます。お菓子職人さんが道具を駆使しつつおいしいものを作り上げる点はきっといまと変わらない部分も、と思いながらも、見慣れない道具が面白いです。机の下にストーブを入れて温めながら作業なんて、冬はとっても暖かそうですが、夏は……夏は大変なことだったのでしょうね……。

 そして、図版の提示だけでなく、ディドロさんたちがきゃっきゃと掛け合いしながら現場の様子を説明してくれるのがとってもかわいいんですよー。暑さと単純作業で虚無の表情になりながら頑張る編集長さん、それをフォローするけなげなダランベールくん、ジョクール氏は冷静なツッコミと、それぞれのキャラが立っているのも分かりやすさに一役買ってくれています。

同人誌 図書館 司書同人誌 図書館 司書 すりつぶしながら虚無の表情を見せる編集長……


18世紀の記録が21世紀に同人誌で広がっていく

 ここまでご覧になってお気付きでしょうか。こちらのご本の文字のみっちりさ具合に! 決してきっちきちなレイアウトではないはずなのに、いやもうとにかく隙あらば『百科全書』とチョコレートの情報がちりばめられています。

 例えばお話しながらチョコレートづくりにいそしむイラストの下には、ものすごく小さな文字で「この会話はディドロの小説『ダランベールの夢』のパロディです」と記載されています。『百科全書』本体のみならず、それを作った編集長さんが書いた小説のパロディーまで入れ込んでくるなんて、どんだけ百科全書好きの人の心をつかむつもりなんですか!? と驚きの細やかさです。

 『百科全書』は編集に携わった当時の人々の哲学や思想が大きく反映された本であるのと同時に、「辞典として技芸の記述に注力した辞典である」といわれているそうです。人の手わざ、技術を丹念に取材して書き残した18世紀の偉人たちへ、愛情をこめて21世紀に同人誌で表現するのに、その細やかさがぴったりとはまっているように感じます。

 冬に食べても夏に食べてもおいしいチョコレート。ご本の後には、ひとかけらのチョコレートの味わいがちょっと変わってくるかもしれませんよ。

同人誌 図書館 司書 現代のチョコレートとは違う部分もたくさんあるのですね

サークル情報

サークル名:大後悔時代

Twitter:@konno17xx

現在入手できる場所:BOOTHpictSPACE

次回参加予定のイベント:コミティア133または134



今週の余談

 もしも三食アイスクリームを食べられたら、それって夢の生活……と思ってしまうくらいにはアイスクリームが好きです。チョコ味ももちろん!

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。


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