千葉県と“弁財天”の関係性 県内を調査した同人誌『千葉県弁財天調査本Vol.2夷隅地域』:司書みさきの同人誌レビューノート
千葉県内で弁財天に関連する場所は1000カ所を超えるようです。
海に現れたという妖怪の図が、春先から大人気ですね。不思議な出来事は各地にさまざまな形で伝えられて、やがて人々の祈りへとつながっていったものも見られます。今回はインドの神様を由来に日本で根付いたとされる、女神“弁財天”を追いかける同人誌です。
今回紹介する同人誌
『千葉県弁財天調査本Vol.2夷隅地域』 データ販売 32P 表紙・本文モノクロ
著者:秋葉
弁財天を求めて……しかし動機は謎
作者さんは千葉県に存在する弁財天が祀られている神社、お寺、弁財天に関する地名がある土地などを調べ、このご本では特に夷隅地域についてまとめられています。いすみ市、勝浦市、夷隅郡大多喜町、夷隅郡御宿町の34カ所を調査し、祀られている神様のこと、住所などの情報、25カ所は実際に訪れた様子のレポートや写真も添えられています。
ちなみに作者さん調べによると、千葉県内で弁財天に関連する場所は1000カ所を優に超えているそうです。その数字に果てしなさを感じつつ読み進めれば、未調査は残り1123カ所とのこと。やっぱり途方もない数字のような気がします……!
しかし、実はこのご本ではなぜ作者さんが弁財天のことをこんなに気にされているのかは、特に触れられていません。こんなにも熱量が必要そうなのに、そこはさくっとスルーとは! ご自身の動機よりも、隙あらば弁財天のことを伝えたいという作者さんの意図が硬派な作りに表れている気がします。
下調べから見えるもの、足を運ぶことの意味
さっぱりとした雰囲気はご本の随所に見られ、例えば訪れるべき場所をどうやって調査したのかという経緯もさらりと語られます。ご本から読み解くにおそらく、地元の町史などの本、資料を読まれ、さらにWeb上で地図や道を確認されたのち現地を訪れていらっしゃるようです。
巻末に並んだたくさんの参考資料は『夷隅の民話さんぽ』『勝浦こぼればなし』といった、千葉県外ではなかなか手に取るのが難しそうな書名が挙げられています。経緯はごくさっぱり、と書きましたが、調査そのものは小さなエピソードも拾い、地元ならではの資料を活用されているのが分かります。
しかし丁寧な調査を経て、実際に訪れた地ではなんと「見当たらず」という場所も! そんなとき、地元の方から「昔は祭りをやっていたけどもうやってない」とお話を聞いて探したり(しかし、漁業組合の立ち入り禁止の看板で行く手を阻まれる)、たまたま話しかけてくださった住職さんから過去の経緯を聞いたり、現場に行ったからこそ生まれたコミュニケーションをへた情報が挟み込まれているのが、ご本をやさしい空気にしています。
今を今として記す大切さ
知らないと通り過ぎそうな小さなお社を訪ねた1枚の写真と文章が、その場所の伝説を読者に知らせ、そして現在の姿を教えてくれます。古い文献をもとに、自分の力の限りで訪ねて回った記録、発見のうれしさはもちろん、発見できなかったこと、未訪問なこと、それらを率直にそのまま今を今として書かれることが、きっとまた後世の誰かを動かしていくのではないかと感じました。
作者さんはご自身で運転はなさらないそうで、ご本からもこのVol.2だけで3年に渡って取り組まれているのが読み取れ、こういったぽつりぽつりとある目的地を訪ねて回るときにはなかなかの大変さであることが想像できます。けれど一歩一歩のあゆみのようにこつこつと調べ、ご自身の見解と、気持ちを記した内容は調査研究とエッセイのちょうど真ん中のような雰囲気で、飾り気のなさの奥に温かみが滲んでいるようです。
今週の余談
アマビエさんを模した和菓子を食べました。元の白黒の図から想像を膨らませられたのか、私の手元にやってきたのは、カラフルなかわいい彩りのお菓子になっていました。しっとりあんこを堪能しながら、アマビエさんの活躍がうれしかったです。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。
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