「モロッコのアクション映画」「フィリピンの低予算B級映画」ってどんな感じ? Amazonプライムで珍しい国の謎映画を観賞しよう

「砂漠のアウトロー」、おすすめです。

» 2020年10月17日 19時00分 公開
[城戸ねとらぼ]
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 誰がどうやって配給しているのか、字幕をつけているのか、Amazonプライムにはたくさんの謎映画が眠っています。DVD化されておらず、Amazonプライムでしか観られない映画(プライムで配信されてからしばらくすると、U-NEXTやビデオマーケットでも配信される作品もあります)。

 誰も観ていない映画を観るというロマンが興じ、その謎映画たちを紹介する記事は今まで3本も書きました。もう4回目になるので導入文も思いつきませんが、とにかく確かなことは、誰も観ていない謎映画はどんどん増え続けているということです。誰も観ないからです。それなら観なくてはいけません。みんなが観ている映画ばかり観てもつまらないでしょう。



 今回はそんな謎映画たちの中から、なかなか珍しい国の映画をチョイスしてみました。国際色豊かな謎映画たちをお楽しみください。

「破壊のスタントマン」



 ごくごく一部で話題になっていた(ような気がする)、オランダ発のコメディです。世の常識というか倫理観というか、そういう人間らしい理性が抜け落ちているメチャクチャな映画です。

 大酒飲みでだらしない、とにかくどうしようもない男ロン・グーセンスは、酔っぱらって挑戦したカースタントの映像が図らずもYouTubeで人気を博し、一躍人気者に。しかし、そんなロンに愛想を尽かしきっていた妻は、「オランダの有名女優ボー・マルテンと寝てこい。そうしなきゃ離婚だ」と彼に告げる。

 主人公は、妻と離婚しないために、他の女性と寝ようと奮闘するわけですね。まずこの前提が意味わからないですが、主人公はこの目的を達成するために、彼女の出演する映画のスタントマンになります。肝心の彼女へのアプローチ方法とは、“とにかくしつこく誘い続ける”というもの。当然拒絶され続け、揚げ句の果てには彼女のヌード写真を本人に見せながら「君の身体きれいだね」なんて言う始末。人間として終わっています。

 ここまで聞くと、主人公はとんだハチャメチャ野郎を想像するでしょうが、意外にもそうじゃないんですね。基本的に無口で、口にするのはジョークではなくアルコールだけ。コメディ的にデフォルメされた酒好きではなく、しっかりとした治療が必要なアルコール依存症患者なんです。

 そんな映画史上類を見ない主人公ロン・グーセンスは、無事にボー・マルテンと寝て妻との結婚を維持できるのか?

 ヨーロッパのコメディにはクセのあるものが多いですが、本作もそれに漏れない珍作。でありながら、随所にクールなショットも頻発して、実力のある真面目な人がふざけてるのが一目瞭然。映画として出来が良いのです。オランダらしくビールやビアパブもたくさん登場して、僕はヨーロッパの片田舎にあるビアパブに強い憧れがあるので、そこも楽しかったですね。

 ちなみに、本作のヒロインであるボー・マルテンを演じるのは、なんとオランダの人気女優であるボー・マルテン本人。本人役で登場してヌードまで披露する女優魂には感服。他にも、オランダの映画や監督など、色んなものが実名で登場しています。ぜんぜん知らない人たちが実名で登場しているのを観てみるのも楽しいかもしれません。そんなことないか。



「砂漠のアウトロー」



 日本で鑑賞できるのは珍しい、モロッコ製のアクション・アドベンチャーです。やたら渋いヒゲと眉毛をした主人公は、モロッコの三船敏郎かもしれません。

 街で銀行強盗に成功し、仲間を裏切ってひとり金を持ち逃げしたアミール。彼が追っ手から逃げた先には、ならず者が支配する城塞都市があった……。

 主人公と、その協力者たちでならず者に立ち向かっていく……という、モロッコ版「荒野の七人(七人の侍)」と言えなくもないような映画。そんなお話に加え、モロッコといえばサハラ砂漠を舞台に、異国情緒あふれる風景とキレキレのアクションが頻出する、割と純粋なアクション映画でもあります。

 で、肝心の中身なんですが……すばらしい! 傑作とまでは言わないものの、「モロッコの知らない映画」となめてかかると度肝を抜かれるエンタメ大作であることは間違いないでしょう。

 同じくならず者である主人公が義賊的な役割を果たしていく展開は王道ながらもやはり見応えがあるし(まあ普通に泥棒なので俺は許しませんが)、砂漠にそびえたつ城塞都市のビジュアルも、エキゾチックとはまた違った無骨な印象で興味深い。また、本業はスタントマンらしい主人公と悪役を演じる2人によるアクションも、ハリウッド的なものではないアプローチで楽しいんです。

 万国共通の王道エンターテインメントを下敷きに、異国ならではの要素がちりばめられたアクション映画の佳作。これはぜひ観ていただきたい作品です。オススメ!



「エージェント・マン 秘密警察の男」



 スロバキア・チェコ・ポーランド合作の、社会派映画です。これはとにかく感想を書くのが難しい作品。

 時代は1960年代。無線の腕を買われ、秘密警察へとスカウトされた主人公。選択の余地は無く、社会主義を守るために革命分子への盗聴をすることに。しかし、自分自身も何者かから盗聴されていることに気付き……。

 かなり真面目な作品でした。

 国に仕え、反乱分子の盗聴をする主人公と聞けば、かの名作「善き人のためのソナタ」を思い出しますが、本作は淡々と出来事を描写する、実録映画に近いつくり。主人公周りのドラマなんかもありますが、うーん、そういった部分での見どころは薄いかもしれません。とにかく娯楽性が薄いんですよね。

 画作りがうまいので決してつまらなくはないし、そもそもある程度の予算がかけられた真っ当な映画ではあるんですけど、あまりにシリアスすぎて、Amazonプライムで何か面白い映画ないかなあ〜とチョイスするのには適していない感じ。ただ、ドゥプチェク政権下のチェコスロバキアを描いた映画というのもなかなか無いでしょうから、作品としての価値は高いと思います。興味のある方は必見ではないでしょうか。

 余談ですが、これ海外サイトだとジャンルがコメディになってるんですよねえ。コメディ要素なんて1ミリも無かったと思うんですが、観る人が観たら笑えるのかもしれません。確かにラストシーンはちょっとふざけてたような……。謎は深まるばかりです。



「トリック 消えた男たち」



 こちらはチリ製のサスペンスミステリーです。チリからはなかなかレベルの高い良質な映画が数多く日本に入ってきていますので、こちらにも期待が高まりますね。

 サーカス団のマジシャンが殺される事件が発生。地元警察に事情聴取を受ける被害者の弟は、自分たち兄弟に何が起こったかを話し始めるが……。

 「ユージュアル・サスペクツ」のように、事情聴取の供述と回想シーンが交互に進んでいくという、低予算映画にありがちな構成。本作もモロにそれで、「またか……」と頭を抱えてしまいました。弟が回想をしているはずなのに、なぜか映像は兄目線になっていたりとか。そういう詰めの甘さが全体的にまん延していて、正直ミステリーとしての魅力はかなり薄いです。

 ただ、見どころが無いわけではありません。荒野にぽつんと佇む、トタン建築のひしめきあう小さな町に、サーカステントがドーンと置かれているビジュアルなんかは、お国柄もあってなかなか興味深いし、そもそもマジシャンが主人公ということで、数々の手品を観られるのは楽しかったです。なんでも、マジシャンを演じる役者は実際にプロのマジシャンであるらしく、ほとんどの手品をノーカットで観ることができるんです。それらの要素が全体としての満足度を底上げする結果に。

 この手の映画ではお約束のどんでん返し(しょぼめ)や、中盤の超ハードな展開(かなりきつかった)なんかもあるので、ストーリーテリングが稚拙だからといって一概にダメとも言いづらいんですよねえ。優れた部分とダメな部分がくっきり分かれている作品といえるかもしれません。取りあえず、マジックがお好きな方は見てみようということで。



「ヴァンプ・ハンター」



 フィリピン製のモンスターアクションです。東南アジアにはハードな傑作アクションが多数ありますが、今回の敵はモンスター。どうなるんでしょうか?

 「不死者」と呼ばれる闇の存在と戦うハンターである主人公・マハールは、その「不死者」の中でも頂点的な吸血鬼・アスワンに家族を奪われたという過去があった。マハールは、そのアスワンに復讐を果たすべく、戦いに身を投じていくが……。

 やたらと壮大な設定が語られてからのビジュアルのしょぼさに落胆してしまう、いうなればB級映画ではあるんですが、不思議とそんなにつまらなくもなかったです。制作規模に見合っていないスケールの舞台設定は、しかしちゃんと物語に意味を持たせていて破綻をしていないし、途中途中の見せ方も(多少)考えられていた印象。

 中盤にとある事実が判明するんですが、凡百のB級映画ならラストのどんでん返しとして持ってきそうなモンなのに、中盤に配置して物語をスイッチさせるネタとして使っているのもいい感じ。

 基本的にはヴァンパイア映画ではあるんですが、そのヴァンパイアの習性もオリジナリティーがあって良い。メインで登場する”アスワン”という種族には翼が生えていて、空を飛ぶときは人間界とのつながりを残すために下半身だけ地上に残すという、見た目はバカっぽい設定なんですけど、ちゃんと物語に作用するんですよ。さらに、アジア映画ということでキョンシーも登場するぞ!

 しかし、やっぱりビジュアル面が圧倒的に弱いんですよねえ。なかなか考えられた設定であるだけに、結局B級映画以上のモノにはなっていないのが残念なところ。しっかりとした予算と環境があれば、もしかしたら良いモノを作れる監督なのかもしれません。

 ということで、僕としてはなかなか好印象な作品ではあったんですが、こういう映画を見慣れていない人からすればクソつまらん映画だとは思うので、ご鑑賞の際にはご注意ください。アマプラのB級映画としては一見の価値はあると思いますよ。





 前回までとは打って変わってどれも興味深い作品ばかりでした。“アマプラの謎映画”には、「内容がアレすぎて誰にも知られていない作品」「制作国になじみが無さすぎて誰にも知られていない作品」の2種類があることが分かってきました。見知った国のつまらない映画を引いてしまうくらいなら、異国情緒に触れられるこういった作品を鑑賞したほうが有意義かもしれませんね。

城戸

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