アニメ映画の極北「君は彼方」レビュー “「君の名は。」以後”最終形態、あるいは究極のエピゴーネンの誕生(1/3 ページ)
現在公開中の「君は彼方」は、アニメ映画の極北だった。
現在、アニメ映画「君は彼方」が公開されている。先に申し上げておくと、その評判は現在Filmarksで5点満点中2.2点、映画.comでは5点満点中2.0点ととてつもなく悪い。あまり話題にもなっておらず、その存在を知らなかったという方もいるだろう。
しかしながら、この「君は彼方」はあまりに見どころが多すぎる、令和に誕生したアニメ映画の極北かつ大珍作という意味で、むしろ好事家にはたまらない内容だった。
「今までに見たことがない映画を見ている」という感覚は「TENET テネット」をはるかに超えており、2020年の狂気を感じた問題作は「キャッツ」(関連記事)と「がんばれいわ!!ロボコン」(関連記事)でお腹いっぱいと思っていたら、年末にさらに突き抜けたものが待っていたのである。
ここからは、具体的な「君の彼方」がヤバい理由を記していこう。ネタバレはないように書いたつもりではあるが、予備知識なく見たい方はここまででストップして欲しい。本作は予想の斜め上のさらなる彼方への超展開も見どころであるため、その楽しみを奪いたくはない。ぜひ、「いったい……何を見せられているんだ……!?」と思い続ける、二度とはない映画体験をしていただきたい。
1:アニメとしてのクオリティの超低空飛行
「君は彼方」は誰の目にも明らかなほどにアニメとしてのクオリティーが高くない。1枚絵が頻発する省エネ設計、キャラの表情や動きの乏しさ、遠近感のおかしい背景との対比などなど、ジブリ作品や新海誠作品とは雲泥の差であり、深夜アニメの劇場番外編と比べても見劣りする瞬間がある。
とはいえ、致命的な“作画崩壊”といえるほどの破綻は意外にも少ない。クオリティーの超低空飛行ぶりにハラハラしつつも、なんとか不時着には成功しているという印象だ。
特筆すべきは、序盤でヒロインが雨の中を自転車で爆走するシーン。スピードはオートバイ並みに速く、そして曲がり角で減速を一切することなく鋭く直角に曲がる。慣性の法則が成り立たない、どのプロロードレーサーでもなし得ないドリフトテクに誰もが目を疑うことだろう。
2:「千と千尋の神隠し」や「天気の子」のパッチワーク
本作のタイトルやビジュアルを見た方は、おそらくこう思ったことだろう。「君の名は。」に似ていないか? と。実際の本編でも、高校生の男女が不思議な経験を通してお互いの気持ちを確かめる過程などは「君の名は。」そのまんまだな、と思わざるを得ないところはある。
しかし、その予想はまだ甘い、甘いのだ。本作がオマージュをささげている作品を挙げようとすると、「千と千尋の神隠し」「天気の子」「ペンギン・ハイウェイ」「海獣の子供」など、枚挙にいとまがない。ゆえに、新旧のアニメ映画をパッチワークして作り上げたかのような、魔界のような世界観が構築されている。
驚嘆すべきは、パンフレットに記載されている瀬名快伸監督のインタビューである。「影響を受けた作品はありますか?」という質問に、監督はこう答えている。「実は僕はあまり影響を受けないよう、ほとんど何も見ないようにしているんですよ。家にも机とソファーと観葉植物くらいしか置いてありません」。マジか(一応「不思議の国のアリス」の影響については語っている)。
可能であれば、冒頭から「(「君は彼方」のために)2億円弱くらい借りました」という衝撃的な告白で始まるインタビュー映像や、同監督による短編アニメ「印ストール」(なんと主人公の声優を自ら務めており演技は上手い)がYouTubeで視聴可能なので、合わせてご覧いただきたい。監督の個性がより伝わることだろう。
そして、このさまざまなアニメ映画のオマージュぶりは、中盤で頂点に達する。あるキャラクターが“どう見てもアイツ”に変身して大暴れをするシーンはもはやシュールなギャグ映画となっていた。あまりに盛大なオマージュに己の目と正気を疑うという体験をしたい方も必見である。
3:ミュージカルや宗教的要素の唐突さ
本作にはミュージカルシーンがある。そこへの「入り」の違和感が尋常ではなく、「急に歌うよ〜」を絵に描いたような驚きがあり、その後の演出でも“違和感”といった生ぬるい言葉では言い表せない躍動が続く。
おそらくは、これも「アナと雪の女王」などを意識した「ミュージカルで観客の心をつかむ」という意図なのだろう。だが、実際に出来上がったのは「ミュージカルを入れればいいってもんじゃない」ということがはっきりと分かる反面教師であった。なんと学びの多い映画だろうか。
さらに、物語は中盤からわりとスピリチュアルな内容となっていき、“大神”という神的なキャラクターも登場する。どこかの有名な宗教団体が製作に関わっているのかなと思ってしまいそうなところだが、クレジットにそれらしき名前は見つからない。どういうことなのだろうか。
思えば「君の名は。」にも巫女が登場し、日本古来の伝統を土台に設定が構築されており、それも作劇に重要となっていた。対して「君は彼方」はストレートに「うさんくさい」という印象に直結しており、残念ながらここからも段取りの大切さという「学び」が得られる。
4:脳がひどく疲れる終盤
具体的なネタバレは避けるが、終盤はいろいろな意味で予想を超えた超展開のつるべうちである。それだけでも頭がクラクラするのだが、特筆すべきは「考えていることとやっていることは実質的にはずっと同じ」ということだろう。
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