アニメ映画の極北「君は彼方」レビュー “「君の名は。」以後”最終形態、あるいは究極のエピゴーネンの誕生(1/3 ページ)

現在公開中の「君は彼方」は、アニメ映画の極北だった。

» 2020年12月03日 20時30分 公開
[ヒナタカねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 現在、アニメ映画「君は彼方」が公開されている。先に申し上げておくと、その評判は現在Filmarksで5点満点中2.2点映画.comでは5点満点中2.0点ととてつもなく悪い。あまり話題にもなっておらず、その存在を知らなかったという方もいるだろう。

映画「君は彼方」予告60秒映像

 しかしながら、この「君は彼方」はあまりに見どころが多すぎる、令和に誕生したアニメ映画の極北かつ大珍作という意味で、むしろ好事家にはたまらない内容だった。

 「今までに見たことがない映画を見ている」という感覚は「TENET テネット」をはるかに超えており、2020年の狂気を感じた問題作は「キャッツ」(関連記事)と「がんばれいわ!!ロボコン」(関連記事)でお腹いっぱいと思っていたら、年末にさらに突き抜けたものが待っていたのである。


 ここからは、具体的な「君の彼方」がヤバい理由を記していこう。ネタバレはないように書いたつもりではあるが、予備知識なく見たい方はここまででストップして欲しい。本作は予想の斜め上のさらなる彼方への超展開も見どころであるため、その楽しみを奪いたくはない。ぜひ、「いったい……何を見せられているんだ……!?」と思い続ける、二度とはない映画体験をしていただきたい。


1:アニメとしてのクオリティの超低空飛行

 「君は彼方」は誰の目にも明らかなほどにアニメとしてのクオリティーが高くない。1枚絵が頻発する省エネ設計、キャラの表情や動きの乏しさ、遠近感のおかしい背景との対比などなど、ジブリ作品や新海誠作品とは雲泥の差であり、深夜アニメの劇場番外編と比べても見劣りする瞬間がある。

 とはいえ、致命的な“作画崩壊”といえるほどの破綻は意外にも少ない。クオリティーの超低空飛行ぶりにハラハラしつつも、なんとか不時着には成功しているという印象だ。

 特筆すべきは、序盤でヒロインが雨の中を自転車で爆走するシーン。スピードはオートバイ並みに速く、そして曲がり角で減速を一切することなく鋭く直角に曲がる。慣性の法則が成り立たない、どのプロロードレーサーでもなし得ないドリフトテクに誰もが目を疑うことだろう。

アニメ映画の極北「君は彼方」レビュー。「君の名は。」のエピゴーネンの最終形態が誕生 予告編でも走行テクニックの一端に触れることができる(画像は予告編より)

2:「千と千尋の神隠し」や「天気の子」のパッチワーク

 本作のタイトルやビジュアルを見た方は、おそらくこう思ったことだろう。「君の名は。」に似ていないか? と。実際の本編でも、高校生の男女が不思議な経験を通してお互いの気持ちを確かめる過程などは「君の名は。」そのまんまだな、と思わざるを得ないところはある。

 しかし、その予想はまだ甘い、甘いのだ。本作がオマージュをささげている作品を挙げようとすると、「千と千尋の神隠し」「天気の子」「ペンギン・ハイウェイ」「海獣の子供」など、枚挙にいとまがない。ゆえに、新旧のアニメ映画をパッチワークして作り上げたかのような、魔界のような世界観が構築されている。

アニメ映画の極北「君は彼方」レビュー。「君の名は。」のエピゴーネンの最終形態が誕生 異彩を放つ世界観(画像は予告編より)

 驚嘆すべきは、パンフレットに記載されている瀬名快伸監督のインタビューである。「影響を受けた作品はありますか?」という質問に、監督はこう答えている。「実は僕はあまり影響を受けないよう、ほとんど何も見ないようにしているんですよ。家にも机とソファーと観葉植物くらいしか置いてありません」。マジか(一応「不思議の国のアリス」の影響については語っている)。

 可能であれば、冒頭から「(「君は彼方」のために)2億円弱くらい借りました」という衝撃的な告白で始まるインタビュー映像や、同監督による短編アニメ「印ストール」(なんと主人公の声優を自ら務めており演技は上手い)がYouTubeで視聴可能なので、合わせてご覧いただきたい。監督の個性がより伝わることだろう。

【CREATIVE TRAIN Vol.8】瀬名快伸さん(アニメーション監督)
アニメ「印ストール」

 そして、このさまざまなアニメ映画のオマージュぶりは、中盤で頂点に達する。あるキャラクターが“どう見てもアイツ”に変身して大暴れをするシーンはもはやシュールなギャグ映画となっていた。あまりに盛大なオマージュに己の目と正気を疑うという体験をしたい方も必見である。


3:ミュージカルや宗教的要素の唐突さ

 本作にはミュージカルシーンがある。そこへの「入り」の違和感が尋常ではなく、「急に歌うよ〜」を絵に描いたような驚きがあり、その後の演出でも“違和感”といった生ぬるい言葉では言い表せない躍動が続く。

 おそらくは、これも「アナと雪の女王」などを意識した「ミュージカルで観客の心をつかむ」という意図なのだろう。だが、実際に出来上がったのは「ミュージカルを入れればいいってもんじゃない」ということがはっきりと分かる反面教師であった。なんと学びの多い映画だろうか。


 さらに、物語は中盤からわりとスピリチュアルな内容となっていき、“大神”という神的なキャラクターも登場する。どこかの有名な宗教団体が製作に関わっているのかなと思ってしまいそうなところだが、クレジットにそれらしき名前は見つからない。どういうことなのだろうか。

アニメ映画の極北「君は彼方」レビュー。「君の名は。」のエピゴーネンの最終形態が誕生 現実世界に戻るためのキーアイテムとなる“数珠”(画像は予告編より)

 思えば「君の名は。」にも巫女が登場し、日本古来の伝統を土台に設定が構築されており、それも作劇に重要となっていた。対して「君は彼方」はストレートに「うさんくさい」という印象に直結しており、残念ながらここからも段取りの大切さという「学び」が得られる。


4:脳がひどく疲れる終盤

 具体的なネタバレは避けるが、終盤はいろいろな意味で予想を超えた超展開のつるべうちである。それだけでも頭がクラクラするのだが、特筆すべきは「考えていることとやっていることは実質的にはずっと同じ」ということだろう。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/21/news189.jpg 「大物すぎ」「うそだろ」 活動中だった“美少女新人VTuber”の「衝撃的な正体」が判明 「想像の斜め上を行く正体」
  2. /nl/articles/2411/22/news014.jpg 川で拾った普通の石ころ→磨いたら……? まさかの“正体”にびっくり「間違いなく価値がある」「別の惑星を見ているよう」【米】
  3. /nl/articles/2411/22/news114.jpg 中村雅俊と五十嵐淳子の三女・里砂、2年間乗る“ピッカピカな愛車”との2ショを初公開 2023年には小型船舶免許1級を取得
  4. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  5. /nl/articles/2411/22/news032.jpg 「壊れてんじゃね?」 ハードオフで買った110円のジャンク品→家で試したら…… “まさかの結果”に思わず仰天
  6. /nl/articles/2411/22/news018.jpg 猫だと思って保護→2年後…… すっかり“別の生き物”に成長した元ボス猫に「フォルムが本当に可愛い」「抱きしめたい」
  7. /nl/articles/2411/22/news171.jpg なんと「身長差152センチ」 “世界一背が低い”30歳俳優&“世界一背が高い”27歳女性が奇跡の初対面<海外>
  8. /nl/articles/2411/22/news145.jpg 大谷翔平と真美子さん、「まさかの服装」に注目 愛犬デコピンも大谷家全員で“歩く広告塔”ぶり発揮か
  9. /nl/articles/2411/20/news027.jpg 「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
  10. /nl/articles/2411/22/news184.jpg 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた