“ゾンビ学”岡本健准教授に聞くゾンビの最新トレンド 「バイオハザード」シリーズは「ゾンビを復活させた」(2/2 ページ)

» 2021年07月20日 18時01分 公開
[西尾泰三ねとらぼ]
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ゾンビで考える「バイオハザード」シリーズ人気の秘訣(ひけつ)

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―― 「ゾンビ学」を専門とされている岡本さんにお聞きしたいのですが、同作のゾンビで、これは斬新だと感じる要素はありましたか?

岡本 最初にホワイトハウスにゾンビが登場したとき、動きがとても早くて運動能力が高いところに驚きました。ゲーム初期の「バイオハザード」では動きが緩慢でしたが、今回は戦闘能力が高いゾンビですよね。それに対してどう立ち回るのか、というアクションシーンの迫力も見どころの1つかなと。

―― なぜ「バイオハザード」シリーズはここまで認知を拡大できたのか、ゾンビに着目して考えると、どういった理由が挙げられ得るでしょう。

岡本 ゾンビ映画のジャンルは、1932年に「ホワイトゾンビ」(日本での公開時は『恐怖城』)で、初めて劇中にゾンビが登場したことから始まります。それから、ゾンビ映画の本数は40~60年代に少しずつ増えていき、60年代後半から80年代にかけては上昇傾向でした。

 90年代でおそらく飽きられてしまったのか、ゾンビ映画の本数はいったん落ちるのですが、1996年に「バイオハザード」が発売された後、2000年代のゾンビ映画の本数はめちゃくちゃ増えて、ゾンビブームが復活するんです。

 これは、ゲーム版の「バイオハザード」シリーズ、そして2002年に公開した実写映画「バイオハザード」の功績が大きかったのでしょう。すなわち、「バイオハザード」シリーズは、ある種「ゾンビを復活させた」のかなと。

 一方で、ゲーム版「バイオハザード」も、シリーズを重ねるごとに、周辺のさまざまな映画やゲーム文化を意識して開発を進めていったと思います。ファンからも聞かれる声としては、「バイオハザード4」あたりからプレースタイルがFPS視点などに変化していったり、最新作の「ヴィレッジ」でも、「モンスターハンター」かと思うようなシーンがあったり(笑)。そういった、さまざまなホラーやエンタメカルチャーを取り込みながら進化していく、いわば「リアルタイムの相互作用性」が、人気がある1つの特徴ではないかと思っています。

 長く続くシリーズだからこその「世界観の広さ」も大きいですね。初期のアンブレラという企業がゾンビを生み出してしまった設定から狭く限定してしまわず、カプコンさんの、ある種の遊び心(緩さ)でさまざまな方向に広がっていくのがとても楽しい。

 ゾンビ映画はシリーズ物が少なく、単発作品が多い傾向がありますが、それぞれが世界観を共有している。作品によってゾンビにもさまざまな性質がありますが、「ゾンビってこういうものだよね」というみんなの共通認識があり、過剰に説明しなくてもゾンビの登場が理解できる。だから、監督もクリエーターも別々に作ってはいるものの、「ゾンビ物」という緩いジャンルでくくられていて、視聴者も微妙につなげてみているんですね。

 ゾンビの性質も、昔と今ではかなり異なり、2000年代に「走るゾンビ」が登場したのも非常に大きな転換点でした。その後、ゾンビの表現が徐々に変わっていく中、「バイオハザード」も自由を忘れないというか、常にチャレンジをしているところが、同作を含めて長く続いている秘訣(ひけつ)なのではないでしょうか。

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―― 同作のゾンビは、岡本先生の分類に従えば、現実でも概念でもなく、人間が作り上げた「虚構のゾンビ」にあたりますよね。同作のゾンビを文学的、または経済的な視点でとらえたとき、数ある“虚構のゾンビ”の中でも際だった特徴があるとすれば、それはどういったものでしょうか。

岡本 同作では、「変体」たちがある種ゾンビに変わってしまうのですが、抑制剤を使うことで、人間としていられることができます。他のゾンビ作品でもこうした姿が描かれなかったわけではありませんが、同作では長期間に渡って生きている。「人でありながら、ゾンビの一面も持っている」のは、最近の作品でも多くなってきており、そういったトレンドを取り入れた演出だったように感じます。

 ゾンビというのは、その性質をモンスター側に寄せることもできますし、人間に寄せることもできる作品的には便利な存在です。同作でも倒すべきゾンビも出てきますし、「“恐怖”を見せてやる」というどう相対すべきか分からないクリーチャーも出てくるのが、同作の核心にも迫る内容で、現代社会のさまざまな問題の比喩にもなっていると思います。

 単純に良い/悪いで分けられるような世界ではなくて、さまざまな思惑や感情などが組み合わさった中で、どう決断していくのかを、今の世の中皆が考えなくてはいけない問題だと思いますし、同作でもそういった側面が描かれているように感じました。

―― 想像の10倍くらい真面目なゾンビ評でした。ちなみに、バイオハザードの世界が現実に起こった場合、岡本さんならどのような行動を採られますか? 一般人が知っておきたいゾンビからの生存方法があればお聞かせください。

岡本 まずは、どういうゾンビなのかが分からないと、対処しようがないですね。足が速いのか遅いのか、人間以外のゾンビがいるのかいないのかなどをきちんと見極めないと、有効な策をとれません。だから、まずはゾンビの様子を観察できる危険でない場所に逃げこんでいただきたいなと。

 じっくり情報収集をして、次の手を考えるのが最善です。ゾンビに知能がなければ簡単なバリケードでも防げるでしょうが、知能がある場合はやっかいですし、意外と手先が器用なゾンビの場合は、バリケードをはがして入ってくるかもしれないので。それこそ、同作で登場する知能を有するタイラントだったり、「バイオハザード」シリーズに登場するネメシスなども、壁をぶち壊して襲ってきたりするので、無理。

 だから、ゾンビが出てきたら、多分僕は序盤で死ぬでしょう(笑)。ゾンビ映画やアクション映画の主人公とかは決して諦めなくてすごいじゃないですか。僕は……もういいかなって(笑)。

 基本的には「戦わない」ことが大事ですね。“戦う”という選択肢が入っている時点で負けている気がします。

―― 戦わず、逃げるが最善の策だと。

岡本 戦うのはリスクがありますからね。かまれたり、ちょっと引っ掛かれただけで感染してしまったりすることもあるので。下手したら空気感染の可能性もありますし、近づくだけであまり良くないかもしれないです。移動も車は魅力的ですが、ガソリンの心配も出てくるので、自転車が便利かなと。

―― 最後に、これから作品を見る方にメッセージをいただけますか。

岡本 初めて観る方には、何も考えずに作品を楽しんでいただきたいと思いますが、1回観終わった後に、考えながら再度観るのも面白いでしょう。例えば僕が先ほどお話ししたような、「この作品の中でゾンビはどういった存在として扱われているのか」や、劇中で頻出する“恐怖”という言葉がいったい何を指しているのか。さらに、これを現代社会で考えたときに、どういう風に教訓として得られるものがあるのかなど、いろいろ考えながら2回3回と観てもらったら、どんどんこの作品から面白さを引っ張り出すことができるんじゃないかなと思います。

Netflixオリジナルアニメシリーズ『バイオハザード:インフィニット ダークネス』

原作・製作・監修:株式会社カプコン

監督:羽住英一郎

脚本:武藤将吾、羽住英一郎

エグゼクティブプロデューサー:小林裕幸(カプコン)

製作プロデューサー:篠原宏康(トムス・エンタテインメント)

プロデューサー:古屋厚(ROBOT)

CGプロデューサー:宮本佳(Quebico)

フル3DCGアニメーション制作:Quebico

制作プロデュース:トムス・エンタテインメント

クリエイティブアドバイザー:トニー石塚(Sony Pictures Entertainment)

音楽:菅野祐悟

日本語吹き替えキャスト:

レオン・S・ケネディ:森川智之

クレア・レッドフィールド:甲斐田裕子

ジェイソン:立木文彦

シェンメイ:潘めぐみ

パトリック:野島健児

グラハム大統領:井上和彦

ウィルソン国防長官:田原アルノ

ライアン大統領補佐官:小形満

話数:全4話

配信日:Netflixにて全世界独占配信中

Netflix作品ページ:www.netflix.com/biohazard_anime


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