「ソウ」シリーズ4年ぶり新作「スパイラル:ソウ オールリセット」レビュー 9度目の殺人劇は“最恐”を更新したか(1/2 ページ)

みんな大好き「ソウ」シリーズの最新作。

» 2021年09月17日 20時15分 公開
[将来の終わりねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

「ハロー、アダム。ゴードン博士。ゲームをしよう」

 鎖でつながれた男2人。中央に横たわる死体。ゲームの始まりを告げる不気味な人形。そして鎖を切ること“は”できない粗末なノコギリ。二転三転する視点、露悪的なグロテスク描写、次第に明らかになる真実。

 2004年、ジェームズ・ワン、リー・ワネル2人の若者を中心に製作された第1作「ソウ」は、極限状況での恐怖と人間のさまざまな感情の機微を描くことで、「ソリッド・シチュエーション・スリラー」という言葉を根付かせる要因になった大傑作だ。

 レンタル映画の棚には模倣シリーズ「JIGSAW」が並び、往年のカルト映画「キューブ」や、同じくワンシチュエーション映画の傑作「フォーンブース」等がフィーチャーされることになった。その約4年ぶりとなる新作「スパイラル:ソウ オールリセット」が9月10日から公開中だ。


 「ソウ」シリーズの魅力は大きく2点に分けられる。まず1つは、公開規模からは考え難いほどの残虐なゴア描写だ。1作目のヒット以来、年イチで更新される「観客に痛みを与えよう」と考えているとしか思えないギミックの進化、「ゲーム」のアイデア、そしてその表現を可能にしたハイレベルなCG、特殊メイク。

 そしてもう1つは物語最終盤に明かされる意外な真実、すなわちツイストを回収していく場面だ。作品中のセリフの断片がつなぎ合わされ、映像が巧みにミスリードしてきた真実がテーマソング“Hello Zepp”――同じフレーズを繰り返しながら、次第に重ね合わさり、爆発的になっていく音圧と共にクリアになっていく快感。結局のところこれがあるからこそ、本作はシチュエーションやキャラクターを変えながらも、1本の筋をもって「ファイナル」までの7作ものフランチャイズとなり得たのである。

 しかしそれにも限度がある。「ジグソウ・キラー」がいかに魅力的な殺人者であるとはいえ、その物語はあまりにも複雑になりすぎてしまったし、トリッキーなシナリオの中心部を手掛けたジェームズ・ワン、リー・ワネルの両名は早くにシリーズを離れた。結果シリーズは回を増すごとに脚本の機微を欠き、ただの悪趣味なスリラー映画との謗りを受けることになる。しかし「“シリーズを終わらせるなら彼を呼び戻すしかない”」という奇跡的なキャスティングのもと、2010年に「ファイナル」をもって完結した。


 2017年に突如新章として公開された「ジグソウ:ソウ・レガシー」から4年、本作「スパイラル:ソウ オールリセット」は再びの新作となる。監督はシリーズ過去作を複数監督したダーレン・リン・バウズマン、脚本は「レガシー」から2人が続投となった。

 タイトルを「オールリセット」としながらも、舞台はジグソウ・キラーが存在した世界であり、厳密にはリブートではない。警察官をターゲットとしたジグソウによく似た手口の猟奇殺人犯を追う刑事ジークと「模倣犯」の攻防を描いた作品となっている。

「模倣犯」から届く犯行声明

 追跡者が刑事であり、これが「ソウ」シリーズである以上、必然的に観客の視点は「殺人者は誰か」に絞られる。1作目はこのような見方を巧みにかわした舞台設定が生きた作品だったが、本作のシナリオは(「ソウ」に対するリスペクト精神を掲げたにしては)あまりにお粗末だ。少なくともシリーズを数作見た人間であれば、殺人者の正体に気がつくのは容易だろう。

 いくつかのミスリードはもちろん用意されており、クリスチャン・ベールの某名作スリラーを引用したカットには襟をただしたところもあったが、結果としては安直な結末に落ち着くところとなった。

 また「ゲーム」を行う上での思想についても不満が残る。過去シリーズでも模倣犯は登場したものの、その思想についてどう考えているかの基本線は少なくとも引かれていた。その点でも本作の終着点、「なぜこのような事件を起こすのか」という動機については、歯切れの良いものではない。今後シリーズをあらたに展開していく、という点でも、少々厳しいのではないかと思う。

 メインテーマ“Hello Zepp”(本作では“Zepp Nine”)の使い方も残念だ。結末に至るまでのシナリオの動かし方がこれまでのシリーズと決定的に異なる以上、これまでのような使い方ができないことは確かである。であるならば、「オールリセット」を名乗っていながら、これまでの人気にすがるようなとってつけた使用はいささかどうかと感じる。

 そしてシリーズの代名詞である人体破壊についても、やはり過去シリーズと比べ大きく見劣りする。シナリオの弱さを補強するかのように加速度的に露悪的になっていった過去のゲームの異質さが、ここでは残念ながら枷(かせ)になってしまっている。ゲームの始まりを告げる不気味なセリフも今回はどうにも味気なく、残念ながらシナリオ、映像共に及第点に達しているとはいえない。


 ホラー映画は不況の時代でも成功しやすい。莫大な予算を必要とせず、限られた期間・舞台での撮影が比較的容易であることに加えて、暗闇の中で怖がりたい、衝撃的な映像を見たいという客層は一定数いる。

 海外ではまさに今「キャンディマン」のリブートが記録的なヒットを飛ばしており、日本でも「クワイエット・プレイス」「ドント・ブリーズ」などをアトラクション的に観劇する、という楽しみ方が増えていることは事実だ。そのような中で再び「ソウ」シリーズを復活させようという試みはホラー映画ファンとして大いに結構、次なる傑作の出現を願ってやまない。

 しかし「ソウ」は既に成熟し切ってしまった、とも思う。いかなるホラーシリーズも作品数を重ねることで次第に行く道は歪んでいく。ジェイソンは「ジェイソンX」(10作目)にて宇宙の流れ星になり、フレディは「エルム街の悪夢 ザ・リアルナイトメア」(7作目)にてメタ作品となることでその役割を終えた。ジグソウの物語もこれで9作目。どうにかしてあと1作は文句なしのうなるものを見てみたい、と望んでしまうのは、悲しいファンの性だろうか。

将来の終わり

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  2. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. /nl/articles/2411/14/news042.jpg 夫「250円のシャインマスカット買った!」 → 妻が気づいた“まさかの真実”に顔面蒼白 「あるあるすぎる」「マジ分かる」
  4. /nl/articles/2411/14/news090.jpg ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  5. /nl/articles/2411/14/news167.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. /nl/articles/2411/14/news187.jpg 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. /nl/articles/2411/13/news162.jpg 「情報操作されてる」「ぜーんぶ嘘!!」 175R・SHOGO、元妻・今井絵理子ら巡る週刊誌報道を一蹴 “子ども捨てた”の指摘に「皆さん騙されてます」
  9. /nl/articles/2411/14/news035.jpg 160万円のレンズ購入→一瞬で元取れた! グラビアアイドル兼カメラマンの芸術的な写真に反響「高いレンズってすごいんだな……」「いい買い物」
  10. /nl/articles/2411/12/news194.jpg 「予約しました」 サッポロ一番の袋に見せかけた“笑っちゃいそうなグッズ”が話題 「サッポロ一番味噌ラーメン好きがバレちゃう」
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた