「好きだったインターネットが急に敵に見える恐怖感」―― 新鋭にゃるらが「NEEDY GIRL OVERDOSE」で描いたもの(3/3 ページ)
「承認欲求」は悪いものなのか?
―― 余談ですけど、「歌舞伎町のガールズバーでこのゲームの主題歌が流れていた」みたいな話をTwitterで見掛けて面白いなと。なぜガールズバーで……?
にゃるら:僕の推測まじりで言うと、キャラクターデザインのお久しぶり先生(@imlllsn)が女性にものすごい人気があって、特に歌舞伎町の女性はかわいいものへのセンスのいい人が多いし、そこ経由でこのゲームついて知ってもらっている確率は高いと思っています。
あと「ゲームの主題歌が流れる」という話ですが、そもそも歌舞伎町って、ユーロビートとか歌い手文化的な曲がよく流れる場所なので、Aiobahnの曲が流れてもおかしくはないと思っています。主題歌PVの「パラパラで踊る」映像みたいなのも、部屋の隅で流れていると面白いですしね。
―― 秋葉原的なイメージがあったので歌舞伎町の話が出てきてちょっと驚いたんですが、確かに近い感じはしますね。
にゃるら:実際行ってみて有名な配信者の話題が出たりすると「あの子友達だよ」とか普通に言われることもありますよ。
―― ネットが歌舞伎町化しているのか歌舞伎町がネットに寄って来ているのか。
にゃるら:後者だと思いますよ。というか今の若い女性たちはそもそもネットと融合してるので、そして歌舞伎町は若い女性の文化なので、次第に合体していくのは当然といいますか、僕的にはあんまり違和感ないです。先ほど出たように「地雷系」ファッションも歌舞伎町で今一番流行ってますし。
―― 昔から、実はキャバクラや風俗で働く女の子にゲーマーが多い……みたいな話はちょこちょこ聞くんですけど、その延長なんでしょうかね。
にゃるら:スマホの普及によって、オタクっていうものの垣根がなくなったり……あと、これは深い問題ではあるんですが、「推し文化」というものが激しくなったので、推すためにお金が必要になると水商売するしかないわけです。だからオタクの女の子がガールズバーとかで働くってのはめちゃくちゃある。もちろん風俗とかにもなるわけですけど。なのでガールズバーの女の子にソシャゲの推しとかを聞いたら盛り上がると思いますよ。非オタク寄りの子もツイステなどを遊んでいたりしますし。
―― 推し文化、なるほど。必ずしも承認欲求を満たしたくて……というわけでもないんですね。
にゃるら:両方だと思いますよ。自分をアピールしながら推しにも貢げるわけだから。アイドル的な女性の裏垢に何が書いてるかって言うと(自分とは別の)推しを推してるだけみたいなパターンもよくあります。「表では言えないけどこの子めちゃくちゃ好き」とか。異性同性関わらず。同性推しも全然珍しいことではないです。
あと、美少女ゲームも実はもともと女性のユーザーが結構いたんです。美少女ゲームって元から女性の原画家さんが描いたりしてますし、キャラクターもかわいいわけじゃないですか。でもネットの時代が時代だったんで、数年前までは女性であることを表明すると叩かれていたり、厄介事に巻き込まれたりしていたわけです。Twitterの普及によって叩かれることが少なくなったので、もっと「美少女が好き」とか「美少女ゲームが好き」っていうことを言いやすくなった。……ので、オタクの女性が一気に増えたように見える。当然、歌舞伎町の女性にも増えたように見えるっていう。
―― 実はずっといたのにいないことにされていた女性のオタクたちがようやく見えてきた、ということなんですね。
にゃるら:そうですね。
―― 先ほど「承認欲求」という話が出たんですが、承認欲求って、功罪があると思うんですよ。ネット上においては大きなパラメータである一方、大きくなりすぎてしまって良くないものを生み出したりとか。にゃるらさんは承認欲求についてどう見られてるのか、またゲームにどういうふうに落とし込まれているのかという話を聞きたいです。
にゃるら:いろいろありますが承認欲求は悪いことではないというか。「若者がどう生きていくか」という中で、自分の顔だとか、ステータスだとかを利用して、SNSでフォロワーを得ていくってことはすごい面白いことだと思いますし、生き方の一つとして全然ありだと思います。
あとは例えば承認欲求をこじらせていろんな傷を負うっていうのも青春の1ページとして飲み込める範囲であれば、いいことだと思いますし、SNSがあるからこそできることなので。僕らの世代とちょっと違う新しい文化として、面白く見守っていきたいです。……とはいえ、笑いごとで済まないことも確かにあったりはするのでそこはちゃんと学んでいってほしいとは思います。
―― タイトルやPVを見ても「ネット的なるもの」を露悪的に扱っていて、そういうところににゃるらさんの“インターネット批評”的なものも詰まっているんじゃないかというのはずっと楽しみにしています。
にゃるら:露悪的には全く扱ってないです。「良くも悪くもネットはこういうものだ」とは書いたつもりですけど。自分がインターネットを通して学んだこと、経験したことみたいなのがテキストの中に散り散りになっていると思います。
―― 今のインターネットに対しての考えみたいなものも読み解けるようなストーリーになっている?
にゃるら:インターネットとかいわゆる推し文化とかが「推されてる側」からはどういう風に見えるとか、推す側の推すなりの暴走だとか、そういうのも描いているかなと思っています。
「この指止まれ」で集まって、終わったら解散! という作り方
―― そういえば開発チームの規模についてあまりお聞きしていなかったんですが、何人くらいで作られたんですか?
にゃるら:プロデューサー1人、ディレクター兼エンジニア兼デザイナー1人、ドッターが1人、企画・シナリオの僕の4人がコアチームです。そこに、キービジュアルを描いてもらったキャラクターデザイナーのお久しぶりさんがいて、音楽のAiobahn、あとアシスタントさんが1人いて……くらいかな。
―― けっこう珍しい作り方ですね。昔ながらの“同人”的なインディーゲームと、ある程度の規模のチームで最初から商業展開を見据えて動く海外的なインディーゲームと、両方のいいところをうまくすくい取っているように感じます。
にゃるら:プロデューサーはすごいですよ。国内というより海外のインディーゲームの作り方をかなり参考にした、と言っていました。「今回は“この指止まれ”でスタッフをフリーで集めて、バッと走り抜けて、あとはもう解散! みたいなのをやりたかった」とか。海外のインディーゲームではそれがメジャーな作り方らしいのですが、うまくいったら会社化したりもするんですけど。経緯としては同人サークルっぽいですよね。
ただ、同人サークルは残るのに対して、ゲームが終わったら解散するものが多いとか。で、何か別の企画があったら希望する人間がまた集まってくるんでしょうね。やってみて、とても新鮮で面白かったです。
―― 数年に1回そういうコンテンツを作って、結構な額を稼げたらクリエイターにとってはすごい夢がありますね。
にゃるら:だからやっぱり海外だと思うんですよ。国内で10万本は結構大変だけど、海外まで入れるとそれほどでもない……とまでは言わないですが狙える感じがします。今回はプロモーションにもそこそこお金をかけてもらいました。それこそ主題歌を作ったりとか。なので本当に同人と企業の間ぐらいの予算感だと思います。
―― 同じような作り方をしてる人ってあんまりいないですよね。
にゃるら:多分難度が高いんですよ。チームがよかったので乗り越えられましたが、実際かなり大変でした。
でも今回のチームはすごくいいチームだったと個人的には思っていて。というのも「乗り入れ」が多かったんですよ。
―― 乗り入れ?
にゃるら:ディレクターがデザイナーも兼任していたりとか、グラフィックの方もUnityをいじって演出を付けたりとか、僕もテキストだけでなくその出し方のデザインに突っ込んだり。そういう「役割の相互乗り入れ」を結構頑張れたんですよね。プロデューサーさんも仕様を切ったりしていたし。それがないと少人数チームでゲームは作れないんんだなと思いました。
―― PVは海外からもよく見られていますか。
にゃるら:主題歌MVは40%アメリカと聞きました。
―― めっちゃ小ネタが含まれてますよね。美少女ゲームネタみたいな。
にゃるら:そうですね。MVを作ってくれた方が、僕が特に解説するまでもなく全てのネタを分かってくれたので。
―― これが終わったら、にゃるらさんはまた次ゲーム作りたいと思いますか?
にゃるら:いろいろやってみたいなと思います。僕は美少女ゲーム、特にビジュアルノベルがやっぱり好きなんで、いつかはそっちもやれたらと思っています。でも、今はとにかく疲れたので休みたいですね。
―― Steam以外のプラットフォームで出していく予定はありますか?
にゃるら:Switchでは出したいですね。
―― 最後に、このゲームを楽しみにしていたファンの方に一言お願いします。
にゃるら:あんまり攻略とか気にせず、顔が良いけど一筋縄にはいかない女の子との同棲生活を自由に楽しんでくれたらと思います。その結果、こんなエンディングになったと楽しんでもらえたらうれしいな。
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