なぜ『ダンダダン』には“高倉健”が重要な存在として登場するのか オカルト・SF・ラブコメ「何でもあり」の物語が描くもの:水平思考(ねとらぼ出張版)(2/2 ページ)
「男らしさ」のゆくえ
本作のもう一人の「高倉健」ことオカルンは、生粋のオカルトマニアで学校では1人の友達もいない、爪はじきにされたいわゆる一つの陰キャである。映画スターの「高倉健」とは対極に位置するかのような属性のキャラクターだ。
なぜ全く位相の異なる2人の「高倉健」が『ダンダダン』という漫画に登場するのか。それは、この2人の「高倉健」を通して現代における「男らしさ」とは何かということを模索しようとしているからではないかと私は考えている。
オカルンは映画スターの「高倉健」に象徴されるような、ステレオタイプの「男らしさ」とは無縁の男性ではあるが、先にも述べたような「有害な男性性」とも無縁でもある。第1話の終盤において、綾瀬桃はオカルンの名前を聞いたことに衝撃を受けているように読めるが、彼が同時に彼女を終始一人の人間として、オカルト観を巡って衝突はしつつも基本的には尊重したふるまいをしているということは本作において非常に重要な事実だろう。
この漫画は「高倉健」に象徴されるかつてあった「男らしさ」を無条件で称揚もしなければ、単なる古臭い時代遅れのものとして切り捨てたりもしない。「男らしさ」を重要なテーマとして配置しつつ物語から女性を排除しようともしていない。だから「高倉健」の持っているある種普遍的な善性の部分を綾瀬桃という女性キャラクターに継承させているのである。本作における「男らしさ」とは男性だけが特権的に持ち得るものではないのである。
そして、現在進行中の連載において、主人公たちは、とある呪いによって失われた「男らしさ」というか「男性性」の象徴たる「金玉」を探して右往左往している。
※編注:物語序盤、オカルンは呪いの主に“イチモツ”を取られてしまう
そう、新しい時代の「男らしさ」の模索などという答えがあるんだかないんだかよく分からない抽象的なテーマすらも、具体的なアクションに落とし込み、七転八倒するキャラクターの躍動を通して表現に昇華しようと試みているのが『ダンダダン』なのだ。
なぜ『ダンダダン』には、オカルト、SF、ラブコメそして「高倉健」などといった多彩な要素が一つにぶち込まれているのだろうか。それはさまざまな価値観や信条、それぞれの世界観をもったキャラクターが同じ場に集い、それぞれの価値観や信条、もっと言えば長年にわたって抱え続けた怨念が交錯し、衝突する瞬間を捉えようとしているからではないかと思う。この漫画で模索しているであろう「男らしさ」とは、そのような過程において生まれる、恐らくは「男らしさ」とはまた違う言葉で表現されるであろう新しい「何か」だろう。
このアクションのつるべ打ちの果てにこの漫画がどこにたどり着くのか、これからも毎週火曜日には『ダンダダン』から目が離せそうにないが、異常にハイペースな更新頻度はちょっと心配なので適度に休んでもらいつつ、最後まで走り切ってほしいと切に願う。
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