ギリギリで生活している人たちの強い味方 同人誌『半分寝ながらでも作れる限界飯』が教えてくれる“めんどう”との戦い方司書みさきの同人誌レビューノート

現代社会を生きる戦士たちへ。

» 2022年01月23日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 慌ただしい年末年始のあれこれをこなしてきたはずなのに、なぜかまだ忙しい……むしろ忙しさが加速しているのでは? というときに、自分好みのあたたかいごはんを食べると、ほっと力が抜けます。今回は、いろいろと立て込む前に知っておくと味方になってくれそうなご本です。

今回紹介する同人誌

『半分寝ながらでも作れる限界飯』B6 44ページ 表紙本文インク替え色刷り

著者:ばんちょ


同人誌の表紙 お茶碗からめらめらと立ち上る闘気? 限界具合を感じます

「半分寝ながらでも作りたい」ごはんとキッチン回りお役立ち集

 今回の同人誌のタイトルは『半分寝ながらでも作れる限界飯』です。なるほど、限界と感じる状況でも簡単に作れるレシピ集なのかな? と手に取りました。しかし、ページを開いた第一印象は「あっ、これちょっと手が掛かってますね!?」でした。例えばカット済みの野菜とウインナーを炒めるレシピ。包丁を使わずにフライパン一つでできるのがありがたく、味付けのポイントになる粒マスタードがおいしそうなんです。ただ、粒マスタードを常備してたかな? と自宅の調味料棚の層の薄さが頭をよぎってしまいました……。

 いえ、ご本のレシピは「絶対にこうしなさい」という指示はないんです。極力手順が少ないシンプルな作り方なんです。でもおいしそうに描いてあるからその通りにやってみたい気持ちと、そもそも限界のときには炒めることすらせず、“買う”を選んでしまうかも。いや、がんばって“あたためる”かな……と自らのやる気のなさを振り返って、気付きました。そうか、このご本は、限界でもごはんを“作りたい”人のご本なんだと!

同人誌の本文 菜の花とウインナーに粒マスタード。おいしそう

そこ面倒ですよね! のありがたい共有感

 「限界のときに料理できないかも……」と自分のやる気のなさを感じつつちょっと遠い目になっていたのですが、ご本を読み進めるにつけ、「これは知っておいてうれしいかも」「これは限界のときじゃなくても試してみたいな」という気分になってきました。だんだん「できないなぁ」が「知ってるとうれしいな」へと気持ち向かっていった要因の一つは、そこここに表れる面倒くささとの戦いが率直に描いてあることでした。

 ご本には簡単なレシピと、キッチン回りの便利グッズのご紹介などが載っています。そのページに踊る「待っていられないので」「洗い物めんどう」の文字。それにどう立ち向かったかのアイデア、「こうしたら良かったよ」という体験が惜しみなくイラストとコメントで共有されています。すっぱいフルーツに当たったときの対策、軽くてフタ付きの食器の紹介、と言った味覚や体感を直接サポートする情報から、めん類はゆで時間が短い方がいいからなんでも細いものを選ぶ、など、気持ちのつらさを解消できそうな案も、1ページごとにコンパクトにまとまっています。

同人誌の本文 率直な気持ちからの判断

「できるかも」をためていく優しさ

 絵柄の力の抜け方、さらりと読めるのに必要な情報がちゃんとまとまっている構成、さまざまな色で刷ってある装丁、それらがミックスされて、できたらうれしいかも、な気持ちがじわじわとたまっていきました。

 時々登場してコメントをくれる犬っぽい生き物は、忙しいときにごはんを食べるときの虚無の顔も、作ったおかずがおいしかったときのうれしい顔も、よそ行きの誰かに見せる表情ではなく、自分のためだけの完全に力の抜けたお顔です。

 限界を感じるとき、外向きの表情にするだけでもエネルギーがいるものです。そんなとき「できたらうれしいこと」をためておけたら、少し、限界に立ち向かう気持ちが楽になるかもしれません。限界だからこそキッチンに立ちたい人にも、限界が来たらキッチンには立たないかもしれない人にも、どちらの人にも「できるかも」は来るべき“限界”の緩和につながるのではないでしょうか。半分寝ながらキッチンに立つようなお顔のイラストは緩くそれを応援してくれているようです。

 1ページごとに違うインクで刷られた本文は、くっきりとした明るい色合いもあれば、薄く淡くクラフト紙になじんでしまうようなページもあります。この違いを楽しんで、じっくり目を凝らしながら、「できるかも」がたまっていくうれしさを感じました。

同人誌の本文 フルーツは博打(ばくち)、そんな不安からの解放がうれしい

サークル情報

サークル名:ゆるにがおえ屋さん/極彩色モノクローム

Twitter:@b13c88

入手できる場所:BOOTH

次回イベント参加予定:関西コミティア(開催日:2022年1月23日、会場:インテック大阪)、参加サークル名「ゆるにがおえ屋さん」(D-47)※参加はTwitterで告知


今週の余談

 限界を超えないよう、みなさまおいしいものいっぱい食べて、手間を減らして、ゆっくり寝ましょうねー。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2502/01/news016.jpg 消波ブロックの隙間にカニカゴを仕掛けたら…… 「うそでしょ!」“想像を絶する結果”に大興奮「見てて声出た」
  2. /nl/articles/2501/31/news050.jpg 「許されると思ってんの?」 スマホのアラームを設定→翌朝…… “絶望の通知内容”が430万表示 「ほんとこれ」
  3. /nl/articles/2502/02/news005.jpg 「正直破格です」 成城石井の元店長が辞めてからも買い続ける“名品”がリピ必至 「ヨダレが出そう」
  4. /nl/articles/2501/31/news013.jpg これは“1秒”で解きたい! 「8×2×0÷4」の答えは? 【算数クイズ】
  5. /nl/articles/2502/01/news047.jpg 【編み物】彼氏のために、緑と黄緑の毛糸を正方形に編んでつなげると…… 圧巻のおしゃれな大作完成に「息をのむほどすばらしいよ」
  6. /nl/articles/2502/02/news069.jpg 「レベル間違えてる」 イオンの“1944円恵方巻”、衝撃ビジュアルにネット大騒然 「なにこれ」「本気かよ」
  7. /nl/articles/2502/02/news038.jpg 100均ビーズをどんどんテグスに通していくと…… うっとり見入る完成品に世界が注目「これは傑作」「どれも可愛いいい!」
  8. /nl/articles/2502/02/news003.jpg 「こんなお母さんになりたい」 北海道で暮らす67歳女性の“手作り料理”がすてき 「参考にしたい」「ぱぱっと作ってみな美味しそう」
  9. /nl/articles/2502/02/news027.jpg 「この子はきっと豆柴サイズ」と言われた子柴犬、4年後の姿が大きな話題に…… それから約1年たった“現在の様子”を聞いた
  10. /nl/articles/2501/30/news003.jpg 親の反対を押し切り、17歳で同棲を開始→それから13年後…… 若くしてママとなった女性の“現在”が話題
先週の総合アクセスTOP10
  1. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  2. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  3. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議
  4. スーパーで買った半玉キャベツの芯を植え、5カ月育てたら…… 農家も驚く想像以上の結末が1300万再生「凄い」「感動した」
  5. 東京藝大卒業生が油性マジックでサンタを描いたら? 10分で完成したとんでもない力作に「脱帽です」「本当にすごい人」
  6. 定年退職の日、妻に感謝のライン → 返ってきた“言葉”が約200万表示 大反響から7カ月たった“現在の生活”を聞いた
  7. 【ヤフオク】“3万円”で購入した100枚の着物帯 →現役着付師が開封すると…… “まさかの中身”に驚き
  8. 「立体的に円柱を描きなさい」→中1の“斜め上の解答”に反響「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」 投稿者に話を聞いた
  9. 「すんごい笑った」 “干支を覚えにくい原因”を視覚化したイラストが勢いありすぎで1700万表示の人気 「確かにリズム全然違う!」
  10. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議