インターネットエンジェルがあなたを救ってぶん殴る 強烈すぎる傑作「NEEDY GIRL OVERDOSE」に心をかき乱された:「NEEDY GIRL OVERDOSE」レビュー(2/2 ページ)
※ここからは、エンディングをすべて見たうえでのネタバレとエンディングの考察になります。プレイが終わったあとに読んでください。
あめちゃんによって救われたいと思っていたのは、僕だったのかもしれない
全てのエンディングを見た人なら分かると思うのですが、このゲームの構造は単純なようで非常に複雑です。配信者である“あめちゃん”と“超てんちゃん”という二重性。彼女にとってのネットとリアル。われわれがゲームとして認識している世界と、われわれ自身の現実。ピの立場を通してあめちゃんを見ているのはプレイヤーであっても、ピは存在しないかもという示唆。JINEでもチラッと語られますし、全てクリアすると本当にこのゲームの内容があめちゃんの体験したものなのか。それすらも分からなくなってきます。本作自体があめちゃんの妄想にすぎず、脳内で繰り返しているシミュレーションの可能性すらあるのです。
彼女が薬を使いすぎたときに、第四の壁を越えてこちらを認識するメタ要素もあれば、ピを見捨てるエンディングでぶち壊すのは人じゃなくてモニター。ピ=プレイヤーではないことがほのめかされていますし、第四の壁を認識しても、それが主題としては取り上げられません(お薬で壊れたうえでの結末の1つでしかない)。
最初はメンヘラに依存されるゲームだと思って遊んでいたはずが、次第にピ=プレイヤーではないことに気付かされ、全てのエンディングを見た後の「Data0」で明かされる真実に打ちのめされた人もいるでしょう。そして、分かるのです。あめちゃんは、最初からプレイヤーが救える存在ではなかったと。
何より、全てのエンディングを見たあとに「?」として条件が書かれている隠されたエンディング「Happy End World」は、さらに辛辣(しんらつ)。文字通りに回線を切ることで見られるソレは、あめちゃんにとってのハッピーエンドではありますが、超てんちゃんに取ってのハッピーエンドとはいえません。もちろん、プレイヤーに取っても。
どのエンディングを終わらせてもエンディングの数だけ正しさがあり、エンディングの数だけ真実があり、そして普段「ゲームなのだから」「上位の存在だから救おう」と考えている僕らをも打ちのめしてきます。落書きのような絵を描くあめちゃんは精神的に幼い女性ですが、同時に自立した女性でもあり、イマジナリー彼(彼女)ピであるピの存在を活用しながらも自分のために生きているのです。情報をつなぎ合わせると彼女自身の幼さが心配になったり、家庭環境が気になったりもしますが、それでも彼女を救えるのは彼女だけ。ゲームなのだからと、彼女を救って自分が思い描いたハッピーエンドに導ける……なんて思っている自分の傲慢(ごうまん)さすらも、このゲームは暴きたててきます。
インターネットエンジェルが微笑んで救おうとしていた中には、僕らも含まれていたのです。彼女がいなくなったときに、強めの幻覚としてほほえむ彼女に救いを求めていたのは他ならぬ僕たち。だから、配信者としてあめちゃんから超てんちゃんになるシーンが、まるで魔法少女の変身シーンのように描かれていたのかもしれません。彼女は変身しているのです。僕らを救うため、インターネットエンジェル・超てんちゃんに。
しかも、本作はあくまでもゲーム。クリアしても超てんちゃんは死にませんし、消えません。Steamを立ち上げて遊びなおせばいつでも会えますし、ファンアートやコラボ、グッズ展開などで、いつまでも生き続けられます。これを書いている現在、本作は25万本売れたそうですが、この現象もゲームの配信とオーバーラップするようで不思議な感覚。文字通り、彼女は永遠にインターネットエンジェルとして残り続けるのでしょう。仮に、今後30万本売れたとしても、100万本に到達したとしても、もう目の前から消えることはないのです。ゲームが出たことで、彼女は本当のインターネットエンジェルになった。その結果こそが、あめちゃん&超てんちゃんに取って真のハッピーエンドだったのかもしれません。
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