あめちゃんは、ある側面では僕だった 「NEEDY GIRL OVERDOSE」あめちゃんとインターネットの壊れた世界:「NEEDY GIRL OVERDOSE」レビュー(1/2 ページ)
僕らはみんな何かの中毒で、バカにしながらも依存している“それ”をやめられない。
玉ねぎについて
物事が何層にも重なっていて本質になかなかたどり着けない様子は、よく玉ねぎに例えられる。インターネットがそうだ。深層ウェブにアクセスする際の仕組みは玉ねぎに例えられることがある。技術的なことはよく知らないけど、個人の実感としても玉ねぎのように「表層を剥けども剥けどもなかなか本質にたどり着かない、もしくは、本質なんて存在しない」というものがインターネットなのだと感じることがある。一晩中情報を数珠つなぎにクリックして、翌日なんにも覚えてないみたいなことだってある。
もちろん刺激はあって、それなりに遊びがいもある。どんな時間帯であっても人がいて、一見にぎやかそうにみえるし、楽しいときだってある。だけれど、「究極的には空虚かもしれない」という疑念を抱えながらわれわれ(誰?)はこの場所にいる。こんなところにいたってなんにもならないかもとか絶望したフリをして、いや、それでも誰かとつながれるかもと淡い期待を抱くも、最終的に失敗して、絶望して……。インターネットに長いこといると、そういうサイクルにもやがて慣れて、少しずつ冷笑的になっていってしまう。「インターネットは最悪だ」とか皮肉を言って、諦めたふりをして、それでも玉ねぎを剥こうとすることをやめられない。
よく考えれば人間だってそうだ。他人と関わるとき、まずは表層的な部分で相手と仲良くなる。そのうち関係性が深まるにつれ、徐々に相手のことが分かったような気になる。でも、どんなに仲良くなったって、結局他人のことを全て理解することなんてできない。いっとき仲良かったはずの相手と大ゲンカして、口も聞かなくなってしまうことだってある。もしくは徐々に連絡を取らなくなっていって、理由もなく疎遠になるときだってある。「結局誰もが孤独なのだ!」と言いたくなるときがあるかと思ったら「やっぱ人と話すっていいなあ〜」なんて気分のときもある。っていうか、自分のことだってなかなかうまく理解できやしないだろう。考えれば考えるほど、剥けば剥くほどよく分からなくなって、「本当の自分」なんてものがあるのかどうか……。自問自答の迷宮に迷い込んでしまう。
本作「NEEDY GIRL OVERDOSE」(Steam)をプレイしている間、そんなようなことをいろいろ考えた。インターネットをやっている時間が長く、特にニコニコ動画やYouTubeなどの配信文化に関わっている時間が多いほど、いろいろ思い当たる点が多く考えさせられてしまうゲームであることは間違いないだろう。逆に言えば「全くインターネットのことは分かりません」という人間にとっては相当意味不明な作品かもしれない、が、そういう人はそもそもSteamでゲームを買ったりしないので大した問題ではないだろう。
本作もまた玉ねぎのようなゲームだ。“オタク”的なサブカルチャーの引用や、(やや誇張されてはいるが)インターネットあるあるが膨大に含まれており、取れる行動も多様でボリュームがあるが、なかなかその内側にある「本当の感情」のようなものにたどり着くことができない。インターネットの混沌性に言及しつつ、本作それ自体がごった煮の混沌としたものになっている。
他のプレイヤーのさまざまな意見を聞きたくなるゲームでもある。個人的には特にインターネットの悪意にさらされやすい女性ジェンダーであって、本作で描かれる「承認欲求」的なカルチャーの当事者の人が持つ感想をいろいろ聞いてみたくなった。知り合いや友人なんかといろんな意見や反応を話し合うことが楽しい作品だろうと思うし、だからこそゲーム実況配信を推奨するというやり方は本作と非常にマッチしている……というか、「実況されること」や「ネットで語られること」も本作の一部に含まれるような感じすらする。インターネットで何回も悪目立ちした経験がある僕にとっては身につまされる場面も多々あった。
「NEEDY GIRL OVERDOSE」にはともすれば露悪的と取れるような過激な表現や、暴力的なイメージを連想させうる場面が多々あり、トラウマ喚起的な側面もある。そういう作品を取り扱うにあたって、この記事にもそういった要素が入り込む可能性があるので読む人は注意してほしい。どんなときでも、自分を守るより重要なことなどないのだから(本作をプレイしてしみじみそう思った)。また、発売からちょっと時間がたってからのレビューということもあってそこそこ内容に踏み込むし、ネタバレ的なことも書くだろうから、「まっさらでプレイしたい」という人はその点も留意しておいてほしい。
※以下、作品の内容についてのネタバレを含みます
併せて読む:「NEEDY GIRL OVERDOSE」関連記事
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僕なりにかみ砕いて説明すると、本作のジャンルはマルチエンド式の育成シミュレーションゲームだ。特色としては日本のサブカルチャー的なインターネット文化や、「配信」を取り扱っているということが挙げられる。主人公でありほぼ唯一の登場人物である「あめちゃん」の行動を彼女の「ピ」として選択し、ストレスや「やみ度」などのパラメーターを管理しながらゲームを進めていき、フォロワー数やパラメーター、選択や特殊な条件に応じて分岐するエンディングを収集していくことになる。なので必ずしも「フォロワーを増やすことが目的」とか「あめちゃんのストレスを溜めないことが目的」というわけではない。最初は行動とパラメーターの相関が分かりづらく、またパラメーターをどの程度にすればいいのかという指針が分からず難しいゲームだなと感じたが、任意の日付からすぐにやり直すことができるし、1周プレイするだけならゲーム未経験者でも恐らく楽しめるやさしいものとなっている。しかし、エンディングをいろいろ見ようとするとパラメーター管理がちょっと大変で、その場合は攻略サイトなどを頼るとよい(僕もかなりの部分頼らせてもらった)。
あめちゃんは薬をオーバードーズ(過剰摂取のことだ)したり、リストカットや自殺を連想させる発言をしたりなど、いわゆる「メンヘラ」的な気質を持っている。インターネットをどこか俯瞰してバカにしながらも、その中でしか生きられず、気分を過剰に上下させられ、ときには情緒不安定になってしまう「インターネットによくいる人」の集合体のようなキャラクターだ。
(一応補足として書いておくが「メンヘラ」という語は基本的に良くない言葉で、生きている人間に対して使うべきでないし、本当は自称すべきでもないと個人的には思う。が、「メンヘラ」という語が自称にも他称にもカジュアルに使われる文化圏は確かに存在するし、そこで自意識を削られることが破滅的な結果に至るというような様子を見たことがある人は多いだろう。本作で描かれるのはそういう文化圏における機微なので、「メンヘラ」という語は本作を説明するときに避けて通れない言葉であろうと思う)
もちろんライターであるにゃるら氏(のTwitter)っぽくもある(なので最初はすごく作家主義的なゲームだなと感じた)。もちろん、インターネットのオタクである自分と重ねてしまう部分もある。僕らも彼女のことを俯瞰して操作して、しかしなんとか幸せになってほしいと思ってしまうからだ。
余談ではあるがオーバードーズをする=絶望的なことになる、というようなよくある短絡性はなく、全ての選択にどこか諦観と優しさがある(と僕は思った)ところは本作の美点である。一部の破滅的なバッドエンドは起こることがあまりに過剰に描かれているな、とは感じたが。
さまざまなサブカルチャーの引用があることは前述の通りだが、僕は特に「トワイライトシンドローム」の引用に驚いた。「トワイライトシンドローム」は思春期の不安定な心の動きが心霊現象と並行するように語られるゲームで、本作とも共通点があると思う。「心の動きが不安定だと、世界の認知がゆがんでしまう」という点だ。「トワイライトシンドローム」では心霊現象として語られた「認知のゆがみ」は、本作では画面のエフェクトとして現れる。あめちゃんの精神状態によって画面の色が変わり、ゆがみ、傾いたりする。この画面効果の切り替わりの過剰さは本作のもっともキャッチーな魅力といえるだろう。ときおりショッキングなシーンもあるが、「過激」といってもホラーゲームほどではないのでちょっと苦手な人でもギリギリプレイできるレベルであろう。というか、演出やキャラクターのキャッチーさがないテキストだけだったとしたら、かなり私小説的で地味な作品になっていたんじゃなかろうか。
本作のゲームプレイを通して身につまされたり、居心地の悪い思いをしたのは僕だけじゃないだろう。あめちゃんの視点でゆがんだインターネットをみるとき、あめちゃんの視点で見返されているような気がしていた。それは「ゲームを批評的に遊ぼうとしている僕」みたいな立ち位置を脅かすような視点だと思う。誤解を恐れずにいうなら、あめちゃんは、ある側面では僕でもある。彼女はインターネットのいろいろなものの集合体だから、彼女に共感するという人はかなり多いだろう。
しかし、あめちゃんもまた玉ねぎであって、いくつエンディングを見ても彼女が本当に何を考えているのかということはなかなか明かされない。このあたりは本作の仕掛けともなっているので、気になった方はぜひやり込んで、いろいろな隠し要素などを見てみてほしい。ただし急いで遊ぶと(僕はレビューのために急いで遊んだが)少々味わいがなくなってしまうところもあると感じたので、自分のペースでやった方がいい。さまざまなエンディングを見ることが重要なゲームだが、連続してさまざまなエンディングを見ようとすると飽きやすい作りになっているように感じられたので……。
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