あめちゃんは、ある側面では僕だった 「NEEDY GIRL OVERDOSE」あめちゃんとインターネットの壊れた世界「NEEDY GIRL OVERDOSE」レビュー(1/2 ページ)

僕らはみんな何かの中毒で、バカにしながらも依存している“それ”をやめられない。

» 2022年02月18日 19時00分 公開
[文章書く彦ねとらぼ]

玉ねぎについて

NEEDY GIRL OVERDOSE レビュー

 物事が何層にも重なっていて本質になかなかたどり着けない様子は、よく玉ねぎに例えられる。インターネットがそうだ。深層ウェブにアクセスする際の仕組みは玉ねぎに例えられることがある。技術的なことはよく知らないけど、個人の実感としても玉ねぎのように「表層を剥けども剥けどもなかなか本質にたどり着かない、もしくは、本質なんて存在しない」というものがインターネットなのだと感じることがある。一晩中情報を数珠つなぎにクリックして、翌日なんにも覚えてないみたいなことだってある。

advertisement

 もちろん刺激はあって、それなりに遊びがいもある。どんな時間帯であっても人がいて、一見にぎやかそうにみえるし、楽しいときだってある。だけれど、「究極的には空虚かもしれない」という疑念を抱えながらわれわれ(誰?)はこの場所にいる。こんなところにいたってなんにもならないかもとか絶望したフリをして、いや、それでも誰かとつながれるかもと淡い期待を抱くも、最終的に失敗して、絶望して……。インターネットに長いこといると、そういうサイクルにもやがて慣れて、少しずつ冷笑的になっていってしまう。「インターネットは最悪だ」とか皮肉を言って、諦めたふりをして、それでも玉ねぎを剥こうとすることをやめられない。

 よく考えれば人間だってそうだ。他人と関わるとき、まずは表層的な部分で相手と仲良くなる。そのうち関係性が深まるにつれ、徐々に相手のことが分かったような気になる。でも、どんなに仲良くなったって、結局他人のことを全て理解することなんてできない。いっとき仲良かったはずの相手と大ゲンカして、口も聞かなくなってしまうことだってある。もしくは徐々に連絡を取らなくなっていって、理由もなく疎遠になるときだってある。「結局誰もが孤独なのだ!」と言いたくなるときがあるかと思ったら「やっぱ人と話すっていいなあ~」なんて気分のときもある。っていうか、自分のことだってなかなかうまく理解できやしないだろう。考えれば考えるほど、剥けば剥くほどよく分からなくなって、「本当の自分」なんてものがあるのかどうか……。自問自答の迷宮に迷い込んでしまう。

NEEDY GIRL OVERDOSE レビュー

 本作「NEEDY GIRL OVERDOSE」Steam)をプレイしている間、そんなようなことをいろいろ考えた。インターネットをやっている時間が長く、特にニコニコ動画やYouTubeなどの配信文化に関わっている時間が多いほど、いろいろ思い当たる点が多く考えさせられてしまうゲームであることは間違いないだろう。逆に言えば「全くインターネットのことは分かりません」という人間にとっては相当意味不明な作品かもしれない、が、そういう人はそもそもSteamでゲームを買ったりしないので大した問題ではないだろう。

 本作もまた玉ねぎのようなゲームだ。“オタク”的なサブカルチャーの引用や、(やや誇張されてはいるが)インターネットあるあるが膨大に含まれており、取れる行動も多様でボリュームがあるが、なかなかその内側にある「本当の感情」のようなものにたどり着くことができない。インターネットの混沌性に言及しつつ、本作それ自体がごった煮の混沌としたものになっている。

advertisement

 他のプレイヤーのさまざまな意見を聞きたくなるゲームでもある。個人的には特にインターネットの悪意にさらされやすい女性ジェンダーであって、本作で描かれる「承認欲求」的なカルチャーの当事者の人が持つ感想をいろいろ聞いてみたくなった。知り合いや友人なんかといろんな意見や反応を話し合うことが楽しい作品だろうと思うし、だからこそゲーム実況配信を推奨するというやり方は本作と非常にマッチしている……というか、「実況されること」や「ネットで語られること」も本作の一部に含まれるような感じすらする。インターネットで何回も悪目立ちした経験がある僕にとっては身につまされる場面も多々あった。

NEEDY GIRL OVERDOSE レビュー

 「NEEDY GIRL OVERDOSE」にはともすれば露悪的と取れるような過激な表現や、暴力的なイメージを連想させうる場面が多々あり、トラウマ喚起的な側面もある。そういう作品を取り扱うにあたって、この記事にもそういった要素が入り込む可能性があるので読む人は注意してほしい。どんなときでも、自分を守るより重要なことなどないのだから(本作をプレイしてしみじみそう思った)。また、発売からちょっと時間がたってからのレビューということもあってそこそこ内容に踏み込むし、ネタバレ的なことも書くだろうから、「まっさらでプレイしたい」という人はその点も留意しておいてほしい。

 

※以下、作品の内容についてのネタバレを含みます

advertisement

 

ライター:文章書く彦

文章書く彦 プロフィール

主にビデオゲームを取り扱っているWebライター。非主流派のためのテキストサイト/コミュニティ「ALTSLUM」を運営中。ライター業の傍ら「ワニウエイブ」としてラッパー/作曲家としての活動も行う。参加するユニット「Ghostleg」で鋭意2ndアルバム製作中。最近はディズニー+でいたずらにマーヴェル映画を見ているらしい。Twitter:@waniwave

併せて読む:「NEEDY GIRL OVERDOSE」関連記事

 

超てんちゃんをのぞくとき、超てんちゃんもまたこちらをのぞいているのだ

NEEDY GIRL OVERDOSE レビュー

 僕なりにかみ砕いて説明すると、本作のジャンルはマルチエンド式の育成シミュレーションゲームだ。特色としては日本のサブカルチャー的なインターネット文化や、「配信」を取り扱っているということが挙げられる。主人公でありほぼ唯一の登場人物である「あめちゃん」の行動を彼女の「ピ」として選択し、ストレスや「やみ度」などのパラメーターを管理しながらゲームを進めていき、フォロワー数やパラメーター、選択や特殊な条件に応じて分岐するエンディングを収集していくことになる。なので必ずしも「フォロワーを増やすことが目的」とか「あめちゃんのストレスを溜めないことが目的」というわけではない。最初は行動とパラメーターの相関が分かりづらく、またパラメーターをどの程度にすればいいのかという指針が分からず難しいゲームだなと感じたが、任意の日付からすぐにやり直すことができるし、1周プレイするだけならゲーム未経験者でも恐らく楽しめるやさしいものとなっている。しかし、エンディングをいろいろ見ようとするとパラメーター管理がちょっと大変で、その場合は攻略サイトなどを頼るとよい(僕もかなりの部分頼らせてもらった)。

NEEDY GIRL OVERDOSE レビュー

 あめちゃんは薬をオーバードーズ(過剰摂取のことだ)したり、リストカットや自殺を連想させる発言をしたりなど、いわゆる「メンヘラ」的な気質を持っている。インターネットをどこか俯瞰してバカにしながらも、その中でしか生きられず、気分を過剰に上下させられ、ときには情緒不安定になってしまう「インターネットによくいる人」の集合体のようなキャラクターだ。

(一応補足として書いておくが「メンヘラ」という語は基本的に良くない言葉で、生きている人間に対して使うべきでないし、本当は自称すべきでもないと個人的には思う。が、「メンヘラ」という語が自称にも他称にもカジュアルに使われる文化圏は確かに存在するし、そこで自意識を削られることが破滅的な結果に至るというような様子を見たことがある人は多いだろう。本作で描かれるのはそういう文化圏における機微なので、「メンヘラ」という語は本作を説明するときに避けて通れない言葉であろうと思う)

 もちろんライターであるにゃるら氏(のTwitter)っぽくもある(なので最初はすごく作家主義的なゲームだなと感じた)。もちろん、インターネットのオタクである自分と重ねてしまう部分もある。僕らも彼女のことを俯瞰して操作して、しかしなんとか幸せになってほしいと思ってしまうからだ。

 余談ではあるがオーバードーズをする=絶望的なことになる、というようなよくある短絡性はなく、全ての選択にどこか諦観と優しさがある(と僕は思った)ところは本作の美点である。一部の破滅的なバッドエンドは起こることがあまりに過剰に描かれているな、とは感じたが。

NEEDY GIRL OVERDOSE レビュー

 さまざまなサブカルチャーの引用があることは前述の通りだが、僕は特に「トワイライトシンドローム」の引用に驚いた。「トワイライトシンドローム」は思春期の不安定な心の動きが心霊現象と並行するように語られるゲームで、本作とも共通点があると思う。「心の動きが不安定だと、世界の認知がゆがんでしまう」という点だ。「トワイライトシンドローム」では心霊現象として語られた「認知のゆがみ」は、本作では画面のエフェクトとして現れる。あめちゃんの精神状態によって画面の色が変わり、ゆがみ、傾いたりする。この画面効果の切り替わりの過剰さは本作のもっともキャッチーな魅力といえるだろう。ときおりショッキングなシーンもあるが、「過激」といってもホラーゲームほどではないのでちょっと苦手な人でもギリギリプレイできるレベルであろう。というか、演出やキャラクターのキャッチーさがないテキストだけだったとしたら、かなり私小説的で地味な作品になっていたんじゃなかろうか。

NEEDY GIRL OVERDOSE レビュー

 本作のゲームプレイを通して身につまされたり、居心地の悪い思いをしたのは僕だけじゃないだろう。あめちゃんの視点でゆがんだインターネットをみるとき、あめちゃんの視点で見返されているような気がしていた。それは「ゲームを批評的に遊ぼうとしている僕」みたいな立ち位置を脅かすような視点だと思う。誤解を恐れずにいうなら、あめちゃんは、ある側面では僕でもある。彼女はインターネットのいろいろなものの集合体だから、彼女に共感するという人はかなり多いだろう。

 しかし、あめちゃんもまた玉ねぎであって、いくつエンディングを見ても彼女が本当に何を考えているのかということはなかなか明かされない。このあたりは本作の仕掛けともなっているので、気になった方はぜひやり込んで、いろいろな隠し要素などを見てみてほしい。ただし急いで遊ぶと(僕はレビューのために急いで遊んだが)少々味わいがなくなってしまうところもあると感じたので、自分のペースでやった方がいい。さまざまなエンディングを見ることが重要なゲームだが、連続してさまざまなエンディングを見ようとすると飽きやすい作りになっているように感じられたので……。

 

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2503/26/news022.jpg 「日本人だけが感じる絶望」 職場に置かれたドーナツ → “抹茶味”かと思いきや…… “まさかの事実”に反響「怖くて泣いちゃった」「笑いました」
  2. /nl/articles/2503/25/news028.jpg 「これはうれしい」 引っ越しのあいさつでもらった手土産、開封したら…… “センス抜群の中身”に「参考にしたい」
  3. /nl/articles/2503/24/news034.jpg 「多分日本で1位、2位を争う」 3児のママが書いた“通園経路図”がすごい! 「えーめちゃ最高ですね」「中高生だったら溜まり場」
  4. /nl/articles/2503/22/news096.jpg 40歳女性、“ネットで買って失敗した服”→似合わせアイデアを募集したら…… 驚きの結果が720万再生 「すごい!」
  5. /nl/articles/2503/26/news030.jpg 「やばい髪形にされた」とショートが気に入らなかった女性→バッサリ切ったら…… 衝撃のビフォアフに「可愛い過ぎる」「半端ねぇな」と反響
  6. /nl/articles/2503/25/news050.jpg 初めて夫の実家に挨拶した妻、初々しかった表情が9年後…… “そうはならんやろ”な変わりっぷりが1150万再生
  7. /nl/articles/2503/23/news042.jpg ニットで口元が隠れた赤ちゃん、そっと脱がせてみると…… “想像を超える”表情が2300万再生「心に刺さった」「今まで見た中で1番!」【海外赤ちゃん記事3選】
  8. /nl/articles/2503/26/news110.jpg 「この値段は信じられない」 ワークマンの“2500円防水バッグ”に高評価殺到 「即買い」「使い勝手最高」
  9. /nl/articles/2503/25/news022.jpg これが駅前だって!? 世界最大級のデカすぎる重機が並ぶ景色が920万表示 「かっけぇぇぇ!」「どうやってここまで」
  10. /nl/articles/2503/25/news054.jpg 大学生娘、妊娠9カ月で赤ちゃんがいることに気付き…… “最悪だと思っていた”出来事を乗り越えた家族の現在に「本当にドラマみたいな凄い話」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「うそでしょ!?」 東京ディズニーランド、“老舗”レストランの閉店を発表 「とうとう来てしまったか」「いやだああああ」と悲しみの声
  2. Koki,、豪邸すぎる“木村家の一室”がウソみたいな広さ! 共演者も間違えてしまうほどの空間にスタジオビックリ「コレ自宅!?」「ちょっと見せて」
  3. 息子の小学校卒業で腕を組んだ34歳母→中学校で反抗期を迎えて…… 6年後の姿に反響 「本当に素敵!」「お母さん、変わってない!?」
  4. プロが本気で“アンパンマンの塗り絵”をしたら…… 衝撃の仕上がりが550万再生「凄すぎて笑うしかないw」「チーズが、、、」 話題になった作者に話を聞いた
  5. ディズニーランドがオープンした1983年当時、カップルだった2人→37年後…… 目頭が熱くなる現在の姿に感動
  6. ニットで口元が隠れた赤ちゃん、そっと脱がせてみると…… “想像を超える”表情が2300万再生「心に刺さった」「今まで見た中で1番!」【海外赤ちゃん記事3選】
  7. 水族館のイカに“指でハート”をしてみたら… “まさかのお返し”が190万表示「こ、こんなことあるのか」
  8. 「ひどすぎ」 東京ディズニーランドで“約100人のドジャースファン”が一斉に“迷惑行為” 「やめてほしい」と物議
  9. 19万8000円で購入した超高級魚を、4年間育てたら…… ド肝を抜く“大変化”に「どんどん色が」「すごい」
  10. 初めて夫の実家に挨拶した妻、初々しかった表情が9年後…… “そうはならんやろ”な変わりっぷりが1150万再生
先月の総合アクセスTOP10
  1. 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  2. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  3. パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  4. 和菓子屋で、バイトの子に難題“はさみ菊”を切らせてみたら……「将来有望」と大反響 その後どうなった?現在を聞いた
  5. 古いバスタオルをザクザク切って縫い付けると…… 目からウロコの再利用に「すてきなアイデア」【海外】
  6. 「14歳でレコ大受賞」 人気アイドルがセクシー女優に転身した理由明かす 家族、メンバー、ファンの“意外な反応”
  7. 希少性ガンで闘病中だったアイドル、死去 「言葉も発せないほどの痛み」母親が闘病生活を明かす
  8. “きれいな少年”が大人になったら→「なんでそうなったw」姿に驚がく 「イケメンの無駄遣い」「どっちも好きです!笑」
  9. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  10. 芸能界引退した「ショムニ」主演の江角マキコ、58歳の近影にネット衝撃「エグすぎた」 突然顔出しした娘とのやりとりも話題に