志尊淳×りりあ。が語るアニメ「バブル」 「生きるエネルギーをいただけた」の真意とは?(1/2 ページ)
2人の視点で見た「バブル」についてインタビュー!
アニメ「進撃の巨人」などで評価を確かなものにした荒木哲郎監督によるオリジナルアニメ「バブル」が、Netflixでの全世界配信(4月28日から)に続き、5月13日から劇場公開されました。
物語は、突如世界に降り注いだ泡(バブル)で重力が壊れた東京が舞台。荒廃したビルからビルに駆け回るパルクールのチームバトルが繰り広げられる中、とあるチームのエース・ヒビキが謎の少女・ウタと出会い、運命の歯車が動き出すボーイミーツガールものです。
「DEATH NOTE」「バクマン。」などで知られる小畑健さん原案のキャラクターデザイン、アニメ「進撃の巨人」「甲鉄城のカバネリ」などを手掛けたWIT STUDIOの強みといえる美麗な作画や“グラビティ・アクション”とうたう縦横無尽のカメラワークなど見どころもありますが、Netflixでの配信を見たファンからは少なからず厳しい声も。
劇場で試写を見た記者も、スクリーン映えする映像であることに疑いはありませんが、一方で、原作のないオリジナルのアニメーションであることも手伝ってか、物語そのものに没入させる掘り下げは少なく、ドライブ感の強い「考えるな感じろ」を地で行くような作品という印象です。
梶裕貴さん、宮野真守さん、畠中祐さんらこれまで荒木監督作品に出演してきた“荒木組”といえる声優を脇に、ヒビキ役でメインを張るのは俳優の志尊淳さん。そして、ヒロイン・ウタ役には、SNSで披露したエモーショナルな歌声と豊かな表現力が一躍話題となったシンガー・ソングライターのりりあ。さんが起用されています。
荒木監督が「既存の芝居にはない新鮮さ」「作品に奥行きを与えてくれる存在」と高く称する志尊さんと、2019年秋頃からTikTokやYouTubeで顔出しなしの弾き語り投稿を始め話題となり、今や総SNSフォロワー数170万人を超える存在となったりりあ。さん。以下では、2人へのインタビューを通して、作品への理解を深めます。
「演じなくていい」と言われた声優初挑戦のりりあ。さん
―― お2人がこうして顔を合わせるのは、先日実施された作品のプロモーション稼働以来2回目だそうですね。初対面での印象や、今作を通じて印象的なやりとりがあれば教えてください。
りりあ。 普段、たくさんの方々に囲まれる機会が少ないので、前回のプロモーションのときはとても緊張していましたが、志尊さんに「こんなに囲まれたら緊張するよね」と声をかけていただいて緊張がほぐれ、すごくやりやすかったです。
志尊さんは、声が入る前のヒビキのイメージと全く同じで、ヒビキのキャラクターにぴったりな声だと最初に思いました。私が今回芝居で一番難しいと感じたのはせりふそのものではなく息遣いですが、志尊さんはそれがすごく上手でさすがだなと。
志尊 僕はお会いするまでりりあ。さんの容姿も分からなかったのでそこまで印象もなかったのですが、会ってミステリアスさが増しましたね。歌声と普段の声も違うし、どう曲を作っているのかも、どういう生活しているのかも謎に包まれてる感じ。だけど、等身大の女性の感じでもあり、そのつかめなさが、ウタとリンクする部分はあるように思います。
―― りりあ。さんが演じるヒロイン・ウタは純潔さが際立っています。りりあ。さんは当初、エンディングテーマで今作に参加予定だったそうですが、歌だけでなく芝居をすることにはどんな思いで臨まれましたか?
りりあ。 エンディングテーマのお話をいただいたときはまだあまり作品の内容も知らされていない状態で、こんな大作だと思っていなかったので不安と喜びがまずありました。
芝居については、これまでやったことがなかったですし、歌唱とは全然違うスキルが必要なので難しかったです。ただ、荒木監督らからは「普段のりりあ。ちゃんのままで。演じなくていい」と言われていたので、その面ではすごくやりやすかったです。
ウタは何も知らない赤ちゃんのような状態から始まり、少しずつ知能が進化してくるキャラクターですが、私自身もまだまだ知らないこともたくさんあり、少しずつ知っていくという面では、似ているところはあると思います。これを“演じて”いたら私は多分うまくできなかった。だから、声優さんは本当すごいなと思いましたね。
志尊 初めてのお芝居で、しかもウタのような役柄をどうつかんだらよいかなんて分からないじゃないですか。だから(それがやれている)りりあ。さんはすごいなって。
現場によって求められることが違うので僕も毎回初めてな感じです。例えばピクサー作品の口の動きと、こういうアニメーションの口の動きは違うし、吹き替えもやったことがありますが、それぞれ求められるテクニックが違う。毎回その現場の状況に呼応して調整するのに必死です。
―― ちなみに、お二人が劇中で気に入っているシーンは?
りりあ。 (広瀬アリスさん演じる)マコトに呼ばれるシーン。もう行かなきゃいけないウタの複雑な気持ちの部分は台本を読んだときから感動しました。
志尊 僕が印象的だったのは、ヒビキがウタと顔を近づけるシーン。(梶さん演じる)カイとヒビキの関係性とヒビキとウタの関係性が全然違うので、顔を近づけるそのシーンだけでも見え方が大きく違う。あの瞬間がすごく好きです。
テクニカル的なことをやろうと思っていなかった――志尊淳が明かす今作でのテーマ
―― 志尊さんは今作で大変、あるいは苦労した部分はありますか?
志尊 全てです。コンテも出来上がっていない状態で声を入れたので、見えない部分をどう膨らませていくかだったり、距離感や全体像を自分でつかまないといけなかったりと考えることが多く、休憩時間もずっと頭の中がぐるぐるしていて、アフレコ中のことはあまり覚えていないです。一言一言必死で本当に余裕がなくて。
ただ、すごくいい記憶として残っているのは、(芝居の)細かい部分を指摘してもらえたこと。僕の体感になりますが、芝居の現場だと、時間との戦いという側面もあるので、ある程度の芝居で許容される部分もありますが、今作は細かいところを指摘してもらえ、いいものを時間をかけて作ろうとする妥協しない感じが印象的でした。
数日間で全部とり終わった後、数カ月時間を空けて、また気になる部分をとる時間をいただいたりしたので、長期間とっていました。それは愛がないとできないことで、そこにこだわってもらえたのは幸せでした。
ヒビキの役柄を自分の中で起こすことは、1人の人物を捉えるという意味では普段の役者の現場と変わりません。先に話したのは主に表現の仕方の問題で、普段の役者の現場だと表現の仕方よりも感情の違いについて指摘が多いのですが、今回は表現の仕方を指摘いただけた。声で巧みに表現を変化させられる声優さんは本当にすごいなとあらためて思いました。
―― この作品で志尊さんに求められていたのはどんな要素でしたか? 何かテーマを持って取り組まれたのでしょうか。
志尊 僕はこの作品で、テクニカル的なことをやろうと思っていませんでした。僕に求められているのはそこじゃないと。
役の作り方は自分の体で演じるときと一緒。だけど、自分の体に負荷をかけずにそのシーンを表現するので、負荷をどれだけ自分の中で体現できるかがテーマでした。それさえできていれば気持ちはできている――と思っていましたが、それでも「(気持ちが)少ない」と言われて。だから普段とは違う表現を模索しました。それが今後の仕事にどんな影響を及ぼすかは主観的には分かりませんが、そうしたものが積み重なって今の自分が形成されているので、これもまた間違いなくそうなるでしょう。
―― アフレコが行われたのは2021年かと思います。志尊さんは2021年に体調を大きく崩された時期がありましたが、それを乗り越え、今作に出たことがどんな意味を持つかをあらためて考えるといかがでしょうか。
志尊 アフレコ時期が復帰してから間もなかったので、まだ無理もできないし、本当に自分でいいのか製作陣に確認すると、「絶対にむちゃはさせないし、それでもいい」ということで、ならば自分にできる最大限のことをやろうと。それだけでした。
―― 荒木監督は、志尊さんの声であれば自分事としてイメージできる、という話をされていました。既存の芝居にはない新鮮さがあるとも称されています。
志尊 先ほどの話につながりますが、このお話をいただいてお受けする前に一度、荒木さんと(プロデューサーの)川村元気さんとお話する場を設けていただきました。この大作アニメの主役を本当に僕が務めていいのかと尋ねると、荒木さんがすごく熱量を持って僕である理由を説明くださったんです。
そこまで願われることは役者冥利(みょうり)に尽きますし、ここまで仕事をやってきてよかったと思えることだったので、どんな姿でもさらけ出して乗り越えようと思いました。結果的にも乗り越えられた感覚があります。何を乗り越えたか具体的な言葉にしづらいですが、「これでまた戻れるんだ」という前向きな気持ちになれました。
―― お2人にとって今作は直感的にどんなところが面白い、あるいは刺激的だったかを最後にお聞かせください。
りりあ。 音楽です。映像ももちろんきれいですけど、目でも耳でも飽きない。私は普段あまりアニメを見ないのですが、ずっと飽きずに見られました。自分が声をやっていることもあるのでしょうけど、アニメをあまり見ない方でも面白い作品だなと。
志尊 音楽や映像美、あとはこういう切り口で捉える斬新さもありますが、僕は作品を見て、“生きる活力”とでもいうべきエネルギーが沸いてくるのを感じました。
この作品のお話を初めて聞いたときは、こんなに緊迫した世界情勢になるとは思わず、非現実的なファンタジー、という捉え方でした。でも今は、このような世界が来ないとは思えない自分がいる。そんな状況になっても諦めてはいけないという気持ちが自分の中で確かに芽生えています。
今も本当にいろいろなことが起きている状況下ですが、生きる上で必要なものは変わっていないという点で、抽象的にはなりますが生きるエネルギーをいただけた感じです。
(C)2022「バブル」製作委員会
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