「“正解の音”を初めて知った」 駅の音や放送を可視化する「エキマトペ」、耳の聞こえない当事者の体験描く漫画が話題 作者に話を聞いた(1/3 ページ)

作者のうさささんに詳しい話を聞きました。

» 2022年09月12日 19時30分 公開
[沓澤真二ねとらぼ]

 駅に流れる環境音やアナウンスを可視化する装置「エキマトペ」のおかげで、聞こえてくる音の正体を初めて認識できた――。耳が聞こえない漫画家であるうささ(@usasa21)さんが、自身の体験を描いた漫画がTwitterで12万いいねを獲得し、「すてきな話」と話題を呼んでいます。

アイキャッチ それまで認識できなかった音が、ディスプレーの表示により、電車が入ってくるときの「ヒューン」だと知った瞬間
漫画をまとめて読む

 うさささんは普段、補聴器を通して周囲の音を聞いていますが、それが何の音でどこから来ているのか、何と言っているのかまでは認識できません。相手が人であれば、口の動きや状況から「あいさつかな?」などと予測できますが、環境音や施設のアナウンスとなると、それが何を意味するのか全く分からないのだそうです。

1P

 だからオノマトペについての認識は、漫画などから得た「車はブロロロロと走るもの」といった情報のみ。駅などに行くと、聞こえてくる音が何に起因するもののか、「“正解”を知らない」とつづります。

2P

 そんなある日、うさささんはエキマトペに出会いました。これは富士通とJR東日本、大日本印刷の共同プロジェクトで、上野駅の1・2番線(京浜東北線と山手線)にて12月14日まで実証実験が行われている装置。ホームに流れるアナウンスや電車の発着音、ドアの開閉音などをリアルタイムに文字や手話へ変換し、専用のディスプレーに表示する仕組みです。

3P
4P

 「ビュウウウウウ」「まもなく1番線に快速の電車がまいります」――次々と現れる音の情報に、うさささんは「そんなこと言っていたの?」と驚くばかり。「この音『ヒューン』だったのか」「ホームでも『ご乗車ありがとうございます』と言ってくれていたのか」などと、初めて知った“正解の音”に感激します。

5P

 「あぁ私は、聴者にとても近い形で、今ここに立っているのだな」と、感慨にふけるうさささん。聞こえなくても全ての音をその場で知ることができる――そんな日がいつかやってくるかもしれないと、未来への期待を抱いて帰路につくのでした。

 この漫画には、「音が聞こえる幸せに気付いた」「誰かのためにこんな技術を作れる研究者になりたいと思った」「これが当たり前の世界になるとよいですね」など、感銘を受ける声が多数寄せられました。エキマトペの開発に携わった人も、「お役に立てていてうれしい」と反応しています。

 編集部はうさささんに詳しい話を聞きました。

―― あらためて、エキマトペに出会ったときの気持ちをお聞かせください

うさささん 音に関するもの全て、予測して判断するしかない世界で生きている私にとって、“正しい音”を知るってとても大事なことなんです。正しい音をエキマトペが教えてくれて、ホームでの世界が一気に変わりました。予測しなくともよく、ごく自然な形でホームにあふれる音を知ることができる――私は聴者にとても近い形であの場に立てたんだと感動しました。

―― エキマトペのような取り組みが、ほかの駅や業態でも普及してほしいと思いますか?

うさささん 導入費用や、余計な音を拾う可能性、緊急時の案内ができるかどうか……と、いろいろと課題はあると思うのですが、もしもいろんな所でそのような装置が見られるようになったらとてもすばらしいことだと思います。この装置は聴覚障害者だけでなく、聴覚過敏の方や外国人にも優しく寄り添ってくれると思うんです。

―― 漫画で駅のアナウンスの音を知ったとありますが、ほかの場面でもそういったことはありますか?

うさささん 音を知る手段としては音声認識アプリもありますが、音源地に近い上に騒がしくない環境でないと、正確に音を拾うことができませんし、オノマトペを拾うこともありません。テレビの字幕でも、オノマトペの箇所は「(怯える音)」「(騒がしい音)」と表示されるので、正しい描写を知る機会は漫画しかないかと思います。

―― 最後に、漫画への反響についてご感想をお願いします

うさささん 「エキマトペは必要なのかな? と思っていた。でもこの漫画を読んで考え方が変わった」「補聴器を着けていれば聴者と同じように聞こえると思っていた」「自分も人を助けるものを開発したい・障壁なく楽しませるものを考えたい」という旨の意見が多く寄せられました。自分が描いた漫画が皆さんの考え方を変えるきっかけになり、何よりもうれしく思っています。今後も聴覚障害に関する漫画を描き、いろんな人の気付きにつながるものをどんどん発信していけたらと思っています。


 うさささんは、この漫画の他にも、自身の「聞こえないこと」に関する漫画を執筆し、Twitter各種サイトで公開しています。

作品提供:うささ(@usasa21)さん

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた