「SF映画の使命は未来を守ること」ジェームズ・キャメロンが抱く危機感 「アバター」13年ぶり続編で伝えるメッセージ(2/2 ページ)

» 2022年12月16日 18時00分 公開
[小西菜穂ねとらぼ]
前のページへ 1|2       

映画館を未来に残せるのか、いまがその分岐点 興収No.1監督が感じる危機

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」 13年ぶりの続編「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」

ーー 前作公開から13年。これだけの時間を要したことで、時代に合わせて変更したことはありますか?

JC 傲慢(ごうまん)に聞こえるかもしれませんが、1作目と同じような成功を収められるか悩みました。でも思い返せばアバターファミリーとの時間は本当に楽しいもので、続編に取り組むという考えは正しいと思えたし、「ロード・オブ・ザ・リング」のような3部作を作るか、「スター・ウォーズ」ような壮大な物語の一部と捉えるかと考えました。

 それには途方もない量の準備が必要で、脚本だけでなく、全てのキャラクターと生き物、環境をデザインし、同時に水中での撮影技術を向上させるため、新しいテクノロジーの研究と開発を行い、パフォーマンスキャプチャー技術をより良いものにする必要がありました。

 2017年9月に制作を開始しましたが、パンデミックのため6カ月間はストップしていたので、実質4年半がこの映画を作るため費やした時間。これだけの間、私の心に何か変化はあったかという質問でしたね。「全くない」というのが答えです。

 この物語は、家族についてという普遍的なテーマを扱っています。全ての文化、歴史に家族が存在し、この先の人類も変わらないでしょう。一方でサステイナビリティと自然破壊に関する問題は、1作目以来悪化していると感じるので、私たちがこの映画を作る意味の重要性はさらに増しました。映画制作は壮大な旅路で、多くを撮影し、山ほどのアイデアを試し、編集プロセスに入ると崩壊と精錬を繰り返し、不必要ものを削り取りながら伝えたいことを磨き上げるその様は、まるで彫刻のようです。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」 撮影中の様子、右は主演のサム・ワーシントン

ーー 前作は3D映画トレンドの波に乗り大いにヒットしましたが、今回も視聴にお勧めの環境は?

JC 第一に劇場で。ディスク化やストリーミング(配信)を待たないで。ストリーミングはいつでも映画を見ることができるし便利なものですが、この映画は劇場の大画面で見られるように作られた作品です。劇場でこの作品を見ると、きっともう一度見たいと強い欲求を感じるはず。「魚に気を取られているうちに話が進んでしまった」と何か見逃したように感じたり、「話は気になるけれどいまいましいことにやはり魚が……」となったりね。

 3Dが好きなら絶対に3Dで、3Dが苦手な方は2Dでご覧ください。これはさほど大きな問題ではなくただの好みで、3Dで見ないのならストリーミングを待つべきという話ではありません。個人的にはドルビービジョン、またはIMAXで見るのがお勧めです。

 またこうした設備の整った劇場が最も長く上映してくれると予測します。1作目は10週間連続ランキングトップでリピーターが増え、より良い設備を備えた劇場ほど長く上映していました。マーケットは予測不可能なものですが、長く楽しんでいただけるとうれしいですね。

ーー 「劇場の大画面で」ということですが、絵作りにはどんなこだわりがあったのでしょうか?

JC 非常に複雑で説明するには何時間もかかるのですが、要するにパフォーマンスキャプチャーを行う理由としては、特殊メイクはうまくいかず、ひどい見た目になってしまうから。登場人物をリアルに感じさせるためには、皮肉なことに、肌に青いペンキを塗ったリアルな俳優より、リアルではないCGの方がよかった。

 ナヴィの目はヒトと比べてはるかに大きく、パーツの配置も違う。また、メイクは基本的に足すものなので俳優の身体より大きくなってしまいますが、ナヴィはジャコメッティの彫刻のように背が高くてすらっとしている。身体的にCGでしか実現できない違いがたくさんあり、夢で見たようなルックスを実現させるにはCGがベストだった。リアルなようでリアルではない。ただし、観客は彼らを見ているとき、こうした外見の差を認識していません。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」 海に住むメトカイナ族、ジェイクやネイティリら森の住人とは造形がかなり異なっています

ーー 理想の映像を作るために技術を追い付かせるのがキャメロン流。シリーズは今後3作の公開を残し、全5作での完結を予定していますが、これから開発したいものはありますか?

JC もちろん、制作過程を改善するために開発したいものはたくさんあります。例えばスピンオフ映画を作って「アバター」の世界をより広げ、マーベルやスター・ウォーズのようにユニバースを作る可能性もあります。そのためには制作期間を短縮し、必要な人数も少なくて済み、かつ簡単でコストを下げられるような方法が望ましい。AIやディープラーニングを使用する必要があります。

ーー 最後にキャメロン監督が映画の未来について思うことを教えてください。

JC 映画に携わる世界中の関係者が同様の問題を抱えていると思います。 ストリーミングプラットフォーム用に作品を作るのか、劇場上映用に作品を作りその後ストリーミングで公開するのか。業界にとってとても大きな決断です。もともと私はテレビと映画は別と考えています。

 私たちはまだ映画館を手放したくないのか、ちょうど分岐点にいると考えています。映画館の存続を望むのなら、腹をくくってそのために戦わなければなりません。パンデミックの間、多くの運営会社が廃業し、劇場が閉鎖されました。今、劇場は再開し観客が戻ってきているので、まだ希望があります。

 特に北米映画産業はストリーミングで興行収入を上げることに執心しすぎるばかりに、劇場運営を維持するための努力をおろそかにし、むしろ傷つけてきました。結局のところビジネスですからね。だから一般の視聴者、映画ファンは映画館に行かなければなりません。映画館に行くことで、映画を作る人、映画を配給する人に“劇場は大切だ”というメッセージを伝えなくてはならない。そうでなければ劇場文化は滅ぶでしょう。「アバター」のような映画、あるいは「トップガン マーヴェリック」、またはマーベル映画でなければ経済的に成り立たないのか。私たちは本当にまさに危機にひんしています。

ジェームズ・キャメロン監督 10年8カ月ぶりの来日

 今後の映画産業がどうなっていくのか、私には分かりません。この映画がヒットせず、「アバター3」「アバター4」「アバター5」と作るべき理由がなくなるかもしれない。パンデミック以来、世界は変わりました。収縮してしまった劇場市場を私たちは克服できるのか。そうであってほしいと思います。

 私はもはや恐竜といっていい。映画館向けの映画を作るのが好きです。監督として雇われればまだまだやれると思います。ストリーミングがストーリーテラーとして居続けるための唯一の選択肢というなら受けるでしょうが、それは私が愛する映画ではありません。私が初めて恋に落ちた映画とは別のものなのです。

(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』特別映像「パンドラは待っていた」編 12月16日(金)劇場公開

12月16日(金)全国劇場公開

■監督・製作・脚本:ジェームズ・キャメロン

■製作:ジョン・ランドー

■出演:サム・ワーシントン/ゾーイ・サルダナ/シガーニー・ウィーバー他


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/21/news189.jpg 「大物すぎ」「うそだろ」 活動中だった“美少女新人VTuber”の「衝撃的な正体」が判明 「想像の斜め上を行く正体」
  2. /nl/articles/2411/22/news014.jpg 川で拾った普通の石ころ→磨いたら……? まさかの“正体”にびっくり「間違いなく価値がある」「別の惑星を見ているよう」【米】
  3. /nl/articles/2411/22/news114.jpg 中村雅俊と五十嵐淳子の三女・里砂、2年間乗る“ピッカピカな愛車”との2ショを初公開 2023年には小型船舶免許1級を取得
  4. /nl/articles/2411/22/news032.jpg 「壊れてんじゃね?」 ハードオフで買った110円のジャンク品→家で試したら…… “まさかの結果”に思わず仰天
  5. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  6. /nl/articles/2411/22/news018.jpg 猫だと思って保護→2年後…… すっかり“別の生き物”に成長した元ボス猫に「フォルムが本当に可愛い」「抱きしめたい」
  7. /nl/articles/2411/20/news027.jpg 「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
  8. /nl/articles/2411/17/news066.jpg 「ヤバすぎwwww」 ハードオフに1万8700円で売っていた“衝撃の商品”が690万表示 「とんでもねぇもん見つけた」
  9. /nl/articles/2411/21/news186.jpg 「円形脱毛の域超えてない?」 44歳・遠野なぎこ、“閲覧注意”な頭部公開「笑えないレベルになってるよね」 受診を勧める声も
  10. /nl/articles/2411/22/news171.jpg なんと「身長差152センチ」 “世界一背が低い”30歳俳優&“世界一背が高い”27歳女性が奇跡の初対面<海外>
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた