「会ったことあるだけで友達とはいいません」 画廊のギャラリーストーカーへの注意喚起に業界内外から反響(1/2 ページ)
注意喚起内容が具体的でわかりやすいと話題に。
主に若い女性の美術作家へ向けて、ハラスメント行為や上から目線の批評、執拗(しつよう)な付きまといなど迷惑行為をする「ギャラリーストーカー」。美術業界を中心に問題になっているものの、被害が表面化しにくくなかなか無くならない現状を受け、ある画廊がSNSで発信した「お願いと注意事項」が話題になっています。画廊の運営者に詳しい話を聞きました。
その名の通り、ギャラリーなどで催される展示会などをきっかけに、作家につきまとうギャラリーストーカー。その問題行為は、初対面にもかかわらず作家を呼び捨てにしてなれなれしく話し掛ける、プライベートのことや連絡先を尋ねる、作家のSNS投稿に粘着するなど、多岐に渡ります。
展示会などの場では特に、作家は純粋なファンである可能性がある相手や、将来的なクライアントになるかもしれない相手を無下にできません。こうしたことから、ギャラリーストーカーの被害にあっても、創作活動を続けるため、また自身の作品を守るために、作家は相手への警告や拒絶を表明しにくく、被害が深刻化しやすいのです。
対策強化の意思表示をした画廊がTwitterで話題に
こうした現状の中、大阪・梅田の「芝田町画廊」は、1月20日に具体的な迷惑行為を挙げた「お願いと注意事項」をTwitterと公式サイトで発表しました。
【お願いと注意事項】
お客様や出展者を守り、気持ちよくご覧いただくために、「暴言、暴力、セクハラ、ストーカー行為とみなされる言動」などの迷惑行為があった場合、強制退去命令や警察への通報などを行うことがあります。
※以下の行為はお止めください。
家族、友人でもないのに作家を呼び捨て、又はちゃん付けで呼ぶ。(ギャラリーで会ったことあるだけで友人とはいいません)
長時間作家を独占して話し込む。
作家のプライベートや連絡先などを聞く。
作家とギャラリー以外で会うことを要求する。
SNS等でも作家に対する上記の行為はお止めください。
ギャラリーストーカーの問題行動を分かりやすく提示したこの投稿は注目を集め、「ギャラリーさんのきっぱりとした表明は作家さんたちの安心になります」「こういう具体的な例を挙げて禁止することは非常に重要で効果的だと思う」と好意的な反響が多数寄せられました。
「基準をはっきり示すことで注意をしやすく」
この「お願いと注意事項」を作成したのは、芝田町画廊を運営する吉田隆博さん。吉田さんによると、「お願いと注意事項」の最初に記載している「迷惑行為があった場合、強制退去命令や警察への通報などを行うことがあります」 という文章は、以前から公式サイトに掲載していたものだといいます。これまで実際に警告したことはないものの、芝田町画廊でも、初対面や2~3度会ったことがあるだけの作家に非常に近い距離感でなれなれしくしたり、若い作家の作品の批判や酷評をしたりする、「説教おじさん」が現れることがあったそうです。
また、画廊を運営する上で、作家や他のギャラリーから「こういう人がいる」「あの人は注意した方がいい」といった情報提供を受け、ギャラリーストーカーの被害を知ることも。こうしたことから、吉田さんはギャラリーストーカーへ向けた禁止行為の明文化に踏み切ったといいます。
自覚なく迷惑行為をする人へ「気付いてもらえたら」
今回「お願いと注意事項」を公開したのは、法に触れるほどの行為ではなくても作家が迷惑に感じる行為を抑止すること、基準をはっきり示すことで注意をしやすくすることが目的だという吉田さん。これまで行ってきた対策に加え、基準を決め、具体的な禁止事項を挙げることで、迷惑にあたる行動を多くの人により分かりやすく伝えています。
ギャラリーストーカーの大きな問題は、自分が迷惑行為をしていることを認識していない可能性が極めて高いことです。「作家や作品へ善意でアドバイスをしているだけ」「作品を購入するためにコミュニケーションを取っているだけ」など、相手との距離感を間違えている自覚がないことが、作家への迷惑行為につながることが少なくありません。吉田さんは「ギャラリーで会ったことあるだけで友人とはいいません」など注意事項の内容を具体的にすることで、「自分が無意識にギャラリーストーカーになっている可能性があることに気付いてもらいたい」といいます。
作家を支援するための取り組みは?
作家だけでなく、画廊やギャラリーが協力することが大きな力となるギャラリーストーカー対策。吉田さんは、「何かあっても自分ひとりで抱え込んで悩んでる作家さんが多い」としたうえで、ギャラリーに相談しやすいような環境を作っていきたいと言います。
芝田町画廊では、こうしたギャラリーストーカー対策の他、作家を支援する方法とし1口1000円から可能な作家支援・ドネーションや、常設の作品の閲覧と購入ができる常設ONLINEのページを公式サイトに掲載するなどで、作家への支援を行っています。
業界外からも賛同の声
Twitterへの投稿をきっかけに寄せられた多くの意見を受け、「アート業界以外のところからの賛同の声が多かったのが印象的です。客と接するところではどこでもあるあるで、みな困っているんだと感じました」という吉田さん。実際に、投稿には「これ、コスプレ写真レイヤーサークルにも当てはまります!」「クラシック音楽界でもこういう迷惑な人見掛けます」など、さまざまな場所での同様の被害を訴える声が寄せられています。
気に入った作家や作品に出合い、その素晴らしさに心が震えるのは素晴らしいこと。しかし作家とのかかわり方を誤ってしまうと、相手に不快感や恐怖心を与えかねないことを忘れてはいけません。「ギャラリーストーカー」にならないためには、適切な距離感で相手と接することが不可欠です。「客」と「売り手」、「年長者」と「若者」などの構図に飲み込まれることなく、作品と向き合う人が増えることを願うばかりです。
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