商業的に見たプリキュア20年史 隆盛と苦戦を繰り返しながら歩み続けた玩具戦略サラリーマン、プリキュアを語る(3/3 ページ)

» 2023年02月23日 18時00分 公開
[kasumiねとらぼ]
前のページへ 1|2|3       

「スカーレットバイオリン」が復調のきっかけに

 そんな苦境の中、あるプリキュア玩具が発売されます。その名は「スカーレットバイオリン」。

 「Go!プリンセスプリキュア」の追加プリキュア「キュアスカーレット」専用のバイオリン型の武器アイテムです。

プリキュア プリキュア回復のキーとなった「Go!プリンセスプリキュア」のスカーレットバイオリン(出典:Amazon.co.jp

 この玩具が、大ヒットアイテムとなるのです。

 アニメ内での描写と玩具の連動がうまく作用し、キュアスカーレットのカッコよさとともに子ども人気へとつながりました。

 玩具業界誌では「久しく低迷していたプリキュアが、新キャラクター商品の健闘により復調基調に転じる」「スカーレットが登場して右肩上がりに回復」「年末商戦で前年比124%」などと久しぶりにプラスの評価がされるようになります。

夏休み商戦スペシャル
女児キャラクターは大きなシェアを持ちながら久しく低迷していたプリキュアが 新キャラクター商品の健闘により復調基調に転じたことで堅調な伸びとなった他、
『月刊トイジャーナル2015年9月号』P20

プリキュアに関しては夏以降、新キャラのスカーレットが登場して右肩上がりに伸び今回の年末商戦では前年比124%となりました。
『月刊トイジャーナル2016年2月号』P48〜49

 そしてこの「スカーレットバイオリン」を皮切りにプリキュアは勢いを回復、2度目の大復活を果たすことになっていくのです(もちろん市場の評価が数字として現れるのに半年は掛かることを思えば、この玩具一つの功績だけではないとは思われますが、きっかけとなったことも間違いはありません)。

未就学児キャラクターナンバーワンへ返り咲いた

 以降、2016年の「魔法つかいプリキュア!」では「おしゃべり変身!モフルン」がリードアイテムとなり、プリキュア市場の上昇トレンドを促進。玩具業界誌では「ここ数年苦戦が続いていたが、復活の兆しが見えている」と言及されます。

女児キャラクター市場で圧倒的な強さを誇る「プリキュア」シリーズは、ここ数年苦戦を強いられてきたが、2月にスタートした「魔法つかいプリキュア!」がTVアニメスタート直後に発売したメイン商品を中心に玩具の販売状況も好調で2、3月の売り上げは前年比で123%で推移、復活の兆しが見えている。
『月刊トイジャーナル2016年5月号』P45

プリキュア 「魔法つかいプリキュア!」では「おしゃべり変身!モフルン」(左)がリードアイテムに(全プリキュア展から。著者撮影)

 そして、2017年の「キラキラ☆プリキュアアラモード」で、ついにプリキュアは「未就学児キャラクターナンバーワンに返り咲いた」とまで言及されるにいたります。

一時期「妖怪ウォッチ」の影響もあり落ち込んでいた戦隊およびプリキュアであるが、ここ数年の上昇トレンドで確実に未就学児向けキャラクターナンバーワンに返り咲いた感もある。
『月刊トイジャーナル2017年3月号』P61

プリキュア 「キラキラ☆プリキュアアラモード」ではスイーツパクト(左)が市場をけん引しました(全プリキュア展から。著者撮影)

「肉弾戦の封印」は武器アイテムの苦戦に

 「明確なモチーフ」を提示し、分かりやすさを追求することにより売り上げを回復させたプリキュア。しかし、今度はそれが足かせとなる出来事が起きてしまいます。

 2017年の「キラキラ☆プリキュアアラモード」では、従来にない新しい試みとして「肉弾戦の封印」が行われました。パンチやキックで戦う描写を抑えたのです。

 しかしこれは「プリキュアの表現」を広げる、といった点では成功を収めましたが、「玩具売り上げ」の面では「武器アイテムが苦戦する」という事態を招いてしまいます。

「Go!プリンセスプリキュア」「魔法つかいプリキュア!」「キラキラ☆プリキュアアラモードのこれまで直近3年間のプリキュアは、世界観を分かりやすく伝えるためにプリンセス、魔法、動物&スイーツといったそれぞれ明確なモチーフを打ち出すことで、売り上げ人気ともに伸ばしてきた。
そしてその集大成となったのが前作の「キラキラ☆プリキュアアラモード」だった。
ただ分かりやすいテーマを打ち出した事で課題も残った。本来のなりきり遊びやヒロイズムといった要素が十分に伝えきれていなかったのである。
『月刊トイジャーナル2018年2月号』P9

前作「キラキラ☆プリキュアアラモード」では戦闘シーンを控えめにした結果、武器アイテムが苦戦したという過去がある。
『月刊トイジャーナル2018年5月号』P60

プリキュア 「キラキラ☆プリキュアアラモード」では肉弾戦を封印したことにより、武器アイテムが苦戦してしまいました(出典:Amazon.co.jp

 やはり「プリキュアがカッコよく肉弾戦で戦う姿」は、女の子のなりきり遊びを促進し売り上げにつながっていくようです。

 この結果を受け、女の子にとってのヒーローは「お母さん」であるという観点から「戦う女の子」「圧倒的ヒロイズム」を意識して作られたのが2018年の「HUGっと!プリキュア」です。

バンダイ・ガールズトイ事業部マーケティングチーム 西島翔太氏
こうした上昇基調の中で今回あえてチャレンジするのが「原点回帰」。プリキュア本来のコンセプトである「戦う女の子」、「圧倒的ヒロイズム」を描く。「プリキュア本来のカッコイイ戦闘シーンや変身シーンなど、ターゲットである3〜6歳の女児の憧れを喚起して、なりきり欲求を最大限引き出していく。
『月刊トイジャーナル2018年2月号』P9

プリキュア 大ヒットとなった「HUGっと!プリキュア」の玩具(全プリキュア展から。著者撮影)

 「HUGっと!プリキュア」は描かれるプリキュアたちのヒロイズムに加え、制作側のジェンダー感も反映した作風が世間で大きな話題となり、15周年記念作品という後押しもあってバンダイナムコのトイホビー売り上げも6年ぶりに100億円の大台を突破するなど、近年では最高の売り上げを達成することとなったのです。

「ヒーローの出番です!」

 しかし2020年以降は、新型コロナや不況、物価高などの影響もありプリキュア関連商品の売り上げは再び下降傾向となっていきます。2023年3Q時では残念ながら歴代でも最も低い数字となっています。

 今、バンダイナムコのプリキュア関連商品の売り上げは、数字だけを見ればかつて「次、失敗したら終わる」といわれていた時期よりも低くなっています。

 しかし、プリキュアの実績と信頼は玩具会社より「続けていくことが大事」とまで言及されるようにもなってきているのです。

バンダイ 取締役社長上野和典氏
女児キャラクターに関しても「プリキュアシリーズをいつまでやっていくのか」という議論になることもあるのですが、続ける事が重要なのです。
止めることを視野に入れながらでは企画の方向性が分散しますし、続ける事を前提にして内容をどうするかを考えれば、企画も商品もかなり厳選されていきます。
『月刊トイジャーナル2009年1月号』

プリキュア 20周年記念作品「ひろがるスカイ!プリキュア」では「ヒーロー」が描かれます(全プリキュア展から。著者撮影)

 そんな中、20周年記念作品「ひろがるスカイ!プリキュア」が始まりました。

 鷲尾さんがプロデューサーに復帰し、青色の主人公、男の子プリキュア、成人女子プリキュアなど新機軸を取り入れながらも、原点回帰ともいえる「ヒーロー」が描かれます。

 幾度も苦境を乗り越えてきたプリキュア。こんなときだからこそ「ヒーローの出番」なのです。

(C)ABC-A・東映アニメーション

関連キーワード

プリキュア | アニメ | 東映


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/22/news047.jpg 刺しゅう糸を20時間編んで、完成したのは…… ふんわり繊細な“芸術品”へ「ときめきやばい」「美しすぎる!」
  2. /nl/articles/2412/18/news207.jpg 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」【大谷翔平激動の2024年 現地では「プレー以外のふるまい」も話題に】
  3. /nl/articles/2412/21/news040.jpg 友達が描いた“すっぴんで麺啜ってる私の油絵"が1000万表示 普段とのギャップに「全力の悪意と全力の愛情を感じる」
  4. /nl/articles/2412/22/news034.jpg 後輩が入手した50円玉→よく見ると…… “衝撃価値”の不良品硬貨が1000万表示 「コインショップへ持っていけ!」
  5. /nl/articles/2412/21/news019.jpg 毛糸6色を使って、編んでいくと…… 初心者でも超簡単にできる“おしゃれアイテム”が「とっても可愛い」「どっぷりハマってしまいました」
  6. /nl/articles/2412/22/news036.jpg 「これは家宝級」 リサイクルショップで買った3000円家具→“まさかの企業”が作っていた「幻の品」で大仰天
  7. /nl/articles/2412/21/news023.jpg 「人のような寝方……」 “猫とは思えぬ姿”で和室に寝っ転がる姿が377万表示の人気 「見ろのヴィーナス」
  8. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  9. /nl/articles/2412/17/news042.jpg 山奥で数十年放置された“コケと泥だらけ”の水槽→丹念に掃除したら…… スッキリよみがえった姿に「いや〜凄い凄い」と210万再生
  10. /nl/articles/2412/22/news020.jpg 余りがちなクリアファイルをリメイクしたら…… 暮らしや旅先で必ず役に立つアイテムに大変身「目からウロコ」「使いやすそう!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」