米倉涼子が演じる、かっこよくもきれいでもない等身大の“おばちゃん” 国際霊柩送還士の活動描く「エンジェルフライト」インタビュー(1/2 ページ)
「ぜひ世界中の方に字幕で見てもらいたい」
米倉涼子さん主演ドラマ「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」がPrime Videoで3月17日から世界168の国と地域で配信開始。国境を越え、遺体を遺族の元へ送り届ける“国際霊柩送還士”の仕事ぶりを描いています。
原作は佐々涼子さんがまとめた、第10回開高健ノンフィクション賞受賞作『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』。米倉さんは国際霊柩送還士たちが働くエンジェルハースの社長・伊沢那美役を演じています。
ねとらぼでは那美役の米倉さんにインタビュー。役作りから、パンデミックで多くの人の死生観に変化が生まれたこの時期に作品を配信する意義を聞きました。
かっこよくきれいは目指さない 米倉涼子が学んだ“国際霊柩送還士”という仕事
“死”にまつわるネガティブなイメージから、もしかしたら敬遠されたり誤解されたりするかもしれない国際霊柩送還士という仕事。劇中では突然愛する人を亡くした遺族から悲しみや怒りをぶつけられる場面が多々登場し、画面越しにやるせない思いが伝わってきます。
しかし彼らはなんとなく国際霊柩送還士になったわけではなく、誇りを持って一生懸命この仕事に取り組んでいるとドラマでは繰り返し伝えられます。それは米倉さん自身が撮影を通じて学んだことで、「エンジェルフライト」というドラマが持つメッセージだといいます。
米倉涼子(以下、米倉) この3年間は、世界中の人たちが思いもしなかった事態に巻き込まれ、深い穴に落ち込んだというか、台風の暴風圏に入ってしまったような感じですよね。このドラマでも毎話、予期していなかったことが起こり得るんだという描き方をしています。例えば旅行や出稼ぎ、勉強をしに海外へ行くときは誰も死と隣り合わせを覚悟して旅には出ないんですよね。“起きるはずがない”と思っていたことが、もしかしたら私にも当たり前のように起きるのかもしれません。
死を扱うこのドラマを通して私が感じたのは、まさに劇中のせりふにある通り「死を扱うってことは生を扱うってこと」なんだということ。国際霊柩送還士という仕事は亡くなった人を通して、生きている人とも関わります。残された人たちが亡くなった人とちゃんとお別れができて、悲しみを乗り越えて……とまではいかずとも、故人とのいい思い出を頭の片隅に残して自分たちの生を充実させていく。そのために彼らがいる。とにかく生きることを大切にしなくてはいけないんです。
聞きなじみのない職業ですが、ドラマで描かれる彼らの仕事内容は単にご遺体を運ぶだけではなく、現地の事情を鑑みながら国際間の交渉や事務手続き、海外でのご遺族のケア、また傷ついたご遺体の修復まで多岐にわたります。日本へご遺体を送り届けるだけでなく、日本で亡くなった外国人のご遺体を海外へ搬送することもあり、重要なのはご遺族がきちんとお別れできる状態にご遺体を整えること。これは「力仕事」としての側面も強いと苦労を教えてくれました。
米倉 原作を読んだのは10年くらい前ですが、何でもすぐ忘れちゃう私が今でもしっかり覚えているくらい印象深かった。例えば私が脱力したら実際の体重以上にものすごく重く感じるはずですよね。そんな状態の、私より倍もあるような人たちのご遺体も扱うのがこの仕事。事務手続きや海外とのコンタクトもあるけれど、本当に力仕事が多いんですよね。お洋服を着せるにしたって、腕1本だって私の体重ならだいたい5、6キロはする。頭だって10キロあるから数人がかりで。だから初めて読んだときはまず、女性がこんな仕事をやっていることにびっくりしました。
米倉さん演じる伊沢那美のモデルになっているのは、国際霊柩送還士の木村利惠さん。羽田空港を拠点に、20年以上この仕事に関わり続けています。
米倉さんにとってもはや代名詞となった「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」で演じる天才外科医とは全く異なる人物像を持ち、那美は時に泣いたりわめいたり理屈より感情に訴えることもあり、ずっと人間くさい特別な能力を持たない女性です。
米倉さんいわく“とめどなく流れ落ちる滝のようにずっと感情があふれっぱなし”という役柄は、これまでの当たり役との差別化という意識より「利惠さんが100%の気持ちで受け負ってるお仕事を、私もお芝居では100%、それ以上の気持ちでやりたい」というアプローチの結果、生まれたものといいます。
米倉 プレッシャーはどんな役でもあります。今回、オペはしないけれど、マスクをしてスクラブみたいな衣装を着るシーンはあったので、もしかしたら視聴者の方が「ドクターX」を思い起こす可能性は考えました。だからマスクの選び方や髪形とまずは視覚から、物理的に遠ざけるよう工夫はしています。
ただ、演じているのは同じ人間ですから、動きのクセは完全に変えられない。利き腕も共通して右で、しゃべっている声も同じです。意識しているのはモデルのご本人がいて、その方が全力で仕事に向き合っていく気持ちを受け継ぐということ。かっこよくとかきれいとか、そういう意識は全く持たずに“髪を振り乱しているおばちゃん”を目指しました。
モデルの利惠さん自身は、ファッションにもこだわりがあってすてきな方。撮影にはお弁当を作ってきてくださるような優しい人です。すごくパワフルで一見するとちょっと怖そうですけど全然そんなことなくてフレンドリー。本当は臆病で気が小さい面もあるのかもしれないけど、ひるむところなんて絶対見せません。何でも聞けば答えてくださるしフィルターがかかっていない。全てに100%でぶつかりたい、向かっていきたいっていうような人なんでしょうね。
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