日本の新年度はどうして「4月1日」から始まるの?→きっかけは明治時代の財政政策だった(1/2 ページ)
諸事情ありまして。
1年の始まりは1月1日なのに、年度始めはなぜ4月1日なのか――気分も新たに新生活がスタートするこの時期、気になる雑学情報を調べてみました。
参考文献
国立公文書館デジタルアーカイブ『公文類聚』第8編・明治17年(2023年3月22日閲覧)
攝津斉彦・Jean-Pascal Bassino・深尾京司著「明治期経済成長の再検討―産業構造,労働生産性と地域間格差―」(一橋大学経済研究所編『経済研究』第67巻3号 岩波書店 2016年7月)
柏崎敏義著「会計年度と財政立憲主義の可能性―松方正義の決断―」(明治大学法律研究所編『法律論叢』第83巻2・3合併号 明治大学法律研究所 2011年2月)
きっかけは“明治時代の財政政策”
一般に、日本の年度が4月始まりになったきっかけとしては、明治時代の財政難、及びその解消のための会計年度の調整が挙げられます。今では考えづらいことですが、当時の日本政府の会計年度はその時々の都合によって変化していました。
例えば、明治5年(1872年)には、翌6年が旧暦で13カ月ある年(つまり役人に13回月給を払わなければいけない年)であることを見越して新暦を導入し、会計年度も1月始まり12月終わりに変更。これにより、明治6年度の月給の支払いは12回に抑えられました。また、この際、旧暦の明治5年12月3日が新暦の明治6年1月1日となったため、明治5年の12月は2日しかないからとやはり月給の支給を免れました。官吏の実質的な労働時間はあまり変わっていないとはいえ、この方法が許容されたという事実に驚きます。
その後も一度の変更を経て、明治17年、再び危機が訪れました。折からの富国強兵策で軍事費が増大し、赤字補填の必要が生じたのです。このとき一計を案じたのが、後に内閣総理大臣も務めた松方正義。
松方は、明治18年度分の酒造税を明治17年度の収入扱いにすることを決め、明治17年度分の赤字を解消します。さらに、当時の会計年度は7月始まり6月終わりでしたが、松方はこれを、明治19年度以降4月始まり3月終わりに変えることにしました。
少し複雑ですが、明治19年度から会計年度が4月始まりになるということは、明治18年度は7月から翌3月までの9カ月に縮まるということ。年度が通常より3カ月短いので、酒造税分の財源が減っても持ちこたえられるわけです。こうして、明治政府は明治17年度・18年度の破綻を免れた上で明治19年度をスタート。こんなパズルチックな解決法でよいのだろうか……。
財政上の都合から“文化”へ
こうした経緯から生まれた4月始まり3月終わりの会計年度は、明治22年の旧会計法の制定により、現代まで定着しています。学校などもこれに足並みをそろえた結果、日本で新年度といえば4月から、というイメージができ上がりました。
ちなみに、4月始まり3月終わりの会計年度は、一説には納税面でも便利だったといわれます。当時の日本は農業国で、労働人口の6〜7割が第一次産業に従事していました。米を現金化して納税するためには、収穫した後売れるまでの時間が必要です。そのため、収穫から約半年後にあたる4月始まりの年度が好都合だったのだそうです。
いずれにしても、日本の新年度が4月1日始まりとなった背景には、財政との関係があるといえるでしょう。昔の人の都合が1つの文化にまで成長するとは、面白いものですね。
近藤仁美(こんどう・ひとみ)
クイズ作家。国際クイズ連盟日本支部長。日本テレビ系「高校生クイズ」「クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?」など、各種媒体に問題を提供する。クイズの世界大会「World Quizzing Championships」では、日本人初・唯一の問題作成者を務める。
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