内村航平、現役引退から1年――“世界トップ”の秘訣と体操の“これから”「ぶっ壊す感覚じゃないと変わらない」:私の人生が動いた瞬間(2/2 ページ)
体操のこれから
――現在は体操の普及に携わる活動をされているとのことですが、今のポジションになってよかったなと思えることはなんでしょうか?
内村 自由にやらせていただいてるところですかね。やはり、プロになるという選択肢を選ばなかったらこのような活動はできていなかったですし、すごく幅が広がってやりがいを感じています。今はもっと自分にしかできないことをやっていきたいですね。
――現在の夢のステージはありますか?
内村 野球のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)があったじゃないですか。いろんな子どもたちが、「大谷(翔平)選手のホームランやばくなかった?」って話をしていると思うんですよ。最終的には、体操でもそういう現象が起きてほしいです。
(子どもたちの間で)「内村の着地やばくなかった?」とは、4年に1回でも絶対にならないと思うんですよ。そういった現象が起きたら、野球やサッカーのような影響力が体操にも出るんじゃないかなという気はしていますが、あと何年かかるか……。
――より多くの人に体操を知ってもらうアクションを内村さんが仕掛けていくことになるのでしょうか?
内村 見てくださいと言って見てもらえる時代ではないと思うので、まずは見てもらえるための仕掛けを準備している段階です。今は、あと何年準備しなきゃいけないんだっていうぐらいの準備が必要ですね。
――最終的なビジョンというのは見えているのですか?
内村 まだ見えていないです。今そういう仕掛けをしても、あまりうまくいかない気がします。たぶん、誰も見に来なくてただの自己満足になってしまう気がするので、ちゃんと見てもらえる環境を作ってから、仕掛けていかないといけない。
そのためには、僕らのように普及する人、そして、結果を残してくれる現役選手もいないと成り立たない。結果の部分は、日本の体操は強いので、どのようにお客さんを呼べるかという部分にかかってくると思います。ただ実際僕が今、体操の試合を見に行ってもあまり面白いと思わないので、そこが問題なんです。
――内村さんが面白くないと感じるポイントはなんなのでしょうか?
内村 もともと、僕は試合に出る方が好きなので、見る方は好きじゃないっていうのもあります(笑)。試合は2時間半ぐらいありますが、テレビで見ている方が見やすいと思いますし、テレビで1人の選手にだけフォーカスされてしまうことも課題だと感じています。
体操や柔道、水泳はお家芸と言われていますが、めちゃくちゃ人気かというと全然人気ではないです。やはり、4年に1回しか見てもらえない。特に水泳や体操は子どものころに体操教室や水泳教室といったきっかけはあるのに、競技は見てもらえない現状があります。可能性の芽はあったのに、お家芸という地位に少し頼りすぎてしまったのかな、と思うので、ぶっ壊すくらいの感覚でいかないと体操を巡る環境は変わらないと思います。
ただ、一気に壊すともう積み上がらないと思うので、少しずつ崩して、伝統も守りつつ、新しいことも取り入れていきたいと思っています。
――現役を引退されて、また別のフィールドで活躍されている内村さんですが、アスリートやスポーツ選手の引退後のキャリアについて悩まれる方も多いと思います。一般的に、セカンドキャリアという考え方も広まる中で、そうした岐路に立つ人へエールを送るとしたらどのような言葉を送られますか?
内村 アスリートやスポーツ選手は、ほとんどの方がその競技に関わることを続けていると思うんです。それはなぜかと言うと、「好きだから」という気持ちが根底にあると思っていて、好きなのであれば、関わることをやめないでほしいです。僕もまだ体操に関わる仕事をしていますし、今も身体を動かしています。
もちろん、身体が動かないといった理由で続けられない方もいますが、やれるうちは身体を動かすことがアスリートならではの見せ方なのかなと。身体を動かしていく中で、僕も新しいステージが見えたような気がしますし、動かすことをやめなくてよかったと思っています。引退して、選手としては一区切りするかもしれませんが、他に何かやりたいことが見つかっていない人は続けてほしいです。
『やり続ける力 天才じゃない僕が夢をつかむプロセス30』
著者:内村航平
発売日:2023年2月2日
価格:1650円
仕様:四六判並製・264P
発行:株式会社KADOKAWA
内村航平さんコメント
僕が体操から学んできたことは、別の分野で頑張っている人たちにも生かしてもらえるところがあるのではないかと考えるようになりました。
どうすれば、ひとつのことを長く続けられるのか。組織やチームで結果を残すにはどうすればいいのか。苦境に立たされたときにはどのように乗り越えていくのか。そういう部分に関して僕なりに考えてきたことをうまく伝えられたならいいな、と思ってこの本をまとめてみました。
この本が、みなさんが自身の目標や夢に向かっていく日々の助けに少しでもなれば嬉しいです。
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