「産休を取った人は2倍働け」実話漫画にあ然 弁護士に産休・育休で気をつけるポイントを聞いた(2/3 ページ)
ネガティブなことを言われる事例が典型的
――漫画は「本当にこのようなことが起きていたのか」と驚きを隠せない内容でしたが、産休・育休に関してどのようなハラスメントを把握されていますか。
松井弁護士:ハラスメントとまで言えるかどうかは事案によりますが、典型的なのは産休・育休を取得しようとしたときに「困る」「だから、女性を雇うのは嫌なんだ」など、ネガティブなことを言われる事例です。
産休を取ろうとしている人を解雇するケースもあり、ここ数年でもこのような事例は起きています。もちろん、正面を切って「産休を取ったので解雇する」という形ではなく、何かしら「能力不足」などの建前のもと解雇する事例が多いかと思います。
――この漫画ではハラスメントの被害に遭ったのは女性ですが、昨今男性の育休でも同じような被害は起きているのではないかと思います。
松井弁護士:「男が育休を取るなんて」など否定的なことを言われたり、育休がスムーズに取らせてもらえなかったりする事例は起きています。私が知る限りでは、男性が解雇された事例はありませんが、このように育休が取りづらい状況にさせるケースは、言わば一般的に起きていると思います。
――企業側はハラスメントなど労働者が不利にならないように、どのようなことを意識すべきでしょうか。
そもそも、産休は「労働基準法」に根拠があり、育休は「育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)」に根拠があります。また、産休は「産前」と「産後」に分かれており、例えば産前については「6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない」と書かれています。
しかし、産休にしろ育休にしろ、取得を理由に不利益な取り扱いをしてはいけないと法律上定められていることに違いはありません。解雇はもちろん、これまでとは異なる業務に何の合理的な理由もなく、辞めさせるように異動させたり、給料を下げたりなどはあってはならないことをあらためて認識するべきでしょう。
また、政府は「女性の社会進出」を積極的に推し進めるなかで、男性の育児休業の仕組みも手厚いものになるなど、産休・育休が充実したものになるように法律を定期的に改正しています。改正された内容をきちんと押さえておかないとついつい違法なことをしてしまう可能性があります。法律が頻繁に改定され続けているため、そこにアンテナを張っておくべきだと思います。
――逆に、従業員側が気をつけるべきことは何かありますか。
松井弁護士:法律上保障された権利なので、本来は気をつけるべきことは特にないはずです。ただ会社員としては、どうしても職場に負荷がかかる場合があるため、まわりの理解が得られるようにしたほうが良いとは思います。例えば、業務の引き継ぎをきちんとして、休業を取得した人がいなくなっても職場が回るように、他の従業員に配慮する必要はあるかもしれません。
――もし漫画で描かれたようなハラスメントに遭ってしまった場合はどう対応すればいいのか、何かアドバイスがあれば教えてください。
松井弁護士:漫画のような酷い状況の場合は、弁護士を入れて労働環境の改善を求めたり、場合によっては損害賠償で慰謝料を請求したりすることを考える必要があると思います。ただ、その職場で働き続けたいならば、実行に移すのかどうかは難しい問題でしょう。たとえ会社側が悪くとも、弁護士を入れて書面を送りつけた後、その職場で働き続けるのは精神的なハードルが高いのではないか、と考えられるからです。
一方で、まだそれほど酷くない状況の場合はかなり難しいことだと思いますが、例えば厚生労働省が産休・育休に関する分かりやすい資料を作っているので、それらの資料をもとに会社側にきちんと「産休・育休を取得することは間違っていない」と説明することが考えられます。また、会社の一部の従業員に理解がない場合は社内で訴えることで、会社側が従業員に説明したり処分をくだしたりすることはあり得ると思います。
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