徹底考察「名探偵コナン 黒鉄の魚影」 コナンファンが語り尽くす5つのポイント【ネタバレあり】:赤いシャムネコ・将来の終わりが語る(6/7 ページ)
シャム ……夢を見てるのかと思った。いまだに自分が見たものをちゃんと処理しきれていない。最初見たときは脳が認識できなくて、いやいやそんな、これは……なんだ? 目の錯覚? とまず疑った。いや、でもどう見ても今キスしてたよな……と思ったら、哀ちゃんの心の声で「私たち、キスしちゃったんだよ」とダメ押しされる。その瞬間、そんなことある!? と。
終わり 気を失いそうになりましたよね。
シャム そう、感情が一気に高まりすぎてよく分からなくなってしまった。ぼうぜんとしすぎてApple Watchを映画館に落としてきたし、夜には知恵熱が出ました。改めて2回目を見に行って、そうか、やっぱり夢じゃなかったのか……と思いました。もちろん「14番目の標的(ターゲット)」を踏まえての展開だって、理性ではわかってるんですけど。
終わり うんうん。「14番目の標的」のクライマックス、水中施設に爆弾が仕掛けられて、蘭がピンチに陥る。それを助けにいったコナンが空気を蘭に運びに行くけど、トラブルが起こって今度はコナンが息ができなくなってしまう。それを見た蘭が迷わず水中でキスをして空気を分け与えてコナンを助ける……という名シーン。
シャム 本作では、地上で助けられたあとの展開と最後のセリフが本当にいいですよね。灰原が蘭にキスしてからの、「返したわよ、あなたの唇」ですよ!! しかもそのキスシーンも、そのセリフを心の中で語るシーンも、青山原画なわけじゃないですか。青山原画はどの映画でも重要なシーンに使われているわけで、先生にとってあそこが描くべきシーンだったということがすごく大事だと僕は思いました。
終わり 灰原と蘭って、原作31巻「網にかかった謎」のシーンがすごくいいんですよね。ラストに「私の名前は灰原哀… よろしくね…」。
シャム その歩み寄りエピソードで象徴的なのが、哀ちゃんが蘭を重ねて言う「イルカは海の人気者」というシーン。今回の映画、エンディング映像で、イルカの置き物にピントが合うんですよね。意識しているんじゃないかなとちょっと思って、よかったです。
終わり 声優陣ですら「新一は蘭と、コナンは哀ちゃんとカップルになってほしい」という趣旨の発言をするように、コナンと灰原の組み合わせの人気は強い。夢オチとはいえ、コナンと灰原が元の姿に戻れずそのまま成長してしまう「10年後の異邦人」というOVAストーリーも度々話題になります。とはいえ、青山先生の中では、新一=コナンであって、彼の一番大事な人は蘭以外ではありえないというのはずっと揺るがなくて、原作でも新一と蘭は晴れて恋人同士になりました。
シャム だから灰原哀は、ここ数年来、いわゆるラブコメ的な展開からは完全に退いていたんですよね。灰原ファンとしてはちょっと悲しいポイントでもあった。今回灰原にフィーチャーが当たることになって、コナンのパートナーとしての灰原が書かれるであろうことは確信していたんですよ。でもまさかラブ要素が出てくるとはちょっと思っていなくて、すごく意表を突かれたし、最高の形で見せてくれた。
終わり 踏み込んだな! と思いつつ、長年シリーズを追いかけているファンにとっても、納得できる形で出してくれたなって。ここまでやるんだったら、この形にするしかない、というものの中で、最高のものを出してくれました。天才的落としどころ。
シャム うまいよね〜〜〜〜。蘭を絡めているのがめちゃくちゃうまい。しかもそのままエンディング曲に突入するじゃないですか。コナン映画史上3本の指に入るスタッフロール入りだったと思います。ただ、今回のクライマックスは、決着がついている三角関係であるがゆえにというのも感じました。
終わり そうでなければ、哀ちゃんから「返したわよ、あなたの唇」は出ないからね。そこをもう広げる気はないよ、ということなんでしょう。
シャム 関連インタビューをいろいろ読んでいくと、「脚本のクライマックスにはもともとラブコメ要素はなくて、立川監督から提案があり、青山先生がフィードバックした」という流れのように読める。どの段階からそれが「水中キス」になっていったのかははっきりはしませんが、「キス」までいくと、青山先生以外が提案できるんだろうか? 青山先生のアイデアなんじゃないかなあ……と思うところです。
来年はついに……
終わり 本作は過去作のオマージュがめちゃくちゃ入ってますよね。「ああ……!」となるシーンがいくつもありました。
シャム めちゃくちゃ入ってた! 最後にベルモットが「なぜシェリーを助けたか?」をコナンに心中で問いかけて終わるのは、「世紀末の魔術師」のキッドを彷彿とさせる。「天国へのカウントダウン」オマージュはいろんなところで感じて、最初に富士(八丈富士)から始まるのもオマージュに感じたし、そもそも「天国」では、10年後の姿がAIで作られて……というところからはじまるので、実質老若認証システムでしょう。水中でコナンが危機に合うという意味なら、「業火の向日葵」もありました。必ずしも全てがオマージュではなくて、ファンの深読みのところもあるかもしれませんけど。
終わり 立川監督での前作「ゼロの執行人」のクライマックスにも、それこそ直球の「カウントダウン」だったカーアクションや、安室さんが窓ガラスを割りながらビルに飛び込むシーンなど、「天国」を感じさせるものがありました。本作も最後のコナン君の「いっけぇー!」キック、これかなり分かりづらかったと思うんですが、減圧症になった灰原に降りかかろうとする潜水艦爆破による波を、ブイを蹴った衝撃波で消し飛ばしているシーンです。そういう意味でも「天国」のラストを感じさせなくもない。
ちなみに「水中キス」を実現した小型酸素ボンベは博士の発明で、「紺碧の棺(ジョリーロジャー)」が初出です。思わず本当に久しぶりに見返してしまいましたよ……よかった……ジョリーロジャーがあったから灰原は救われたんだ……。
シャム 犯人の性別周りのトリックは、「ベイカー街の亡霊」を思い出した。水中での魚雷バトルは、「絶海の探偵(プライベートアイ)」でイージス艦を爆破するわけにはいかなかった櫻井さんのリベンジというか、セルフオマージュかなと。花火ボールが赤井の狙撃の助けになるのは、「異次元の狙撃手」「純黒の悪夢」で、個人的には「何度目だ!」と思わなくもない(笑)。
終わり 花火ボールはアクション映えしますからね。4DXとの相性もいい。
シャム そうなんだけどね! さっき挙げた「業火の向日葵」でも水中で花火ボールを蹴ってるけど、あんなに水中を明るく照らしていなかった。阿笠博士の発明スキルがさらに上がってるんでしょう(笑)。
終わり そして繰り返しになりますが「14番目の標的」……! 何十年も追っているシリーズのいろんな要素が込められているのは、本当にうれしかったです。
シャム こんなに過去作をいい意味で感じる作りだったのには驚きました。どれくらい立川監督のアイデアで、どれくらい櫻井さんのアイデアなのかは分からないところですが。インタビューを読んでいくと、立川監督は今回最初から打ち合わせに参加していて、前回担当作の「ゼロの執行人」以上に物語部分にアイデアや意見を投入しているようなんですよね。灰原とコナンのラストシーンに関しても、監督のアイデアがかなり採用されているそうで。だからオマージュ部分も、意図されているものが多いんじゃないかなと感じます。
終わり そろそろ来年の話もしておきますか。ついに怪盗キッド対服部平次です。コナン映画の物語の1つのパターンとして、原作のエピソードのグレードアップというものがあります。キッドと服部も96巻で対決していて、予告の「キス」はおそらくそれを踏まえてなんですが、まさかあれを劇場版スケールで膨らませるのか?正気か?とワクワクしています。
シャム 怪盗キッドにフィーチャーした“キッドもの”は4〜5年のペースで回ってくる。オリンピックみたいなものですね。前回のキッドものが2019年、園子の彼氏・京極真と対決させた「紺青の拳(フィスト)」なので、そろそろだろうなとは予想してました。でも平次と組み合わせるとは僕の中で盲点でした。
終わり 黒ずくめの組織ものも4〜5年に1回ですよね。平次にも周期ってありましたっけ。
シャム 平次には実は周期といえるようなものはなくて、7作目「迷宮の十字路」と21作目「から紅の恋歌」。8作目「銀翼の魔術師」の前半でコナン&平次がキッドと対決するという展開はあったんですけど、残念ながら途中で退場してしまっているので、平次ものとはいいにくい。10作目「探偵たちの鎮魂歌」でもコナンとともに謎を解いていますが、あまり平次にフィーチャーされている感じはしない。なのでやっぱり平次ものというとこれまでで2作だったように思います。
個人的に、コナン映画の予告は「街の形に注目する」がポイントだと思っていて。例えば「紺青の拳」の予告はシンガポールが、「緋色の弾丸」の予告は名古屋がそれぞれ写っていて、1年前から次の映画の舞台が示されていることが多いんです。今回の街の形は、僕は函館だと思いました。函館は言わずもがな夜景の美しい街。キッドは夜の街での空中アクションが本当に映えるから、来年もアクションが楽しみです。脚本は新しい方の参加がなければ、「から紅」「紺青」でラブコメを爆発させてくれた大倉崇裕さんの担当でしょうね。
終わり 来年は楽しいお祭映画になりそう。ここ数年、コンテクストの多い――つまりキャラクターに関する予習が必要な雰囲気のある作品が続いていたので、特にそういうことが必要ない大暴れ映画を期待しています。ここ数年「ちょっとむずかしいな」と思った人は、来年は楽しく見れるかもしれません。温度差で風邪を引くかもしれないが……。でも、来年も楽しみだし、毎年毎年「来年は何かな〜」と考えられるのが幸せですね。
シャム 本当にね! 小学館側のプロデューサーである近藤秀峰さんによると、コナン映画は既に30作目まで製作が決まっているそうなんです。
終わり 今年が26作目だから……少なくともあと4本はこんな楽しい思いができるわけですね! お互い、あと4年は身体に気をつけましょう。
(取材:青柳美帆子、福田瑠千代/構成:青柳美帆子)
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