君島憂樹のこれから 「蘭世惠翔としての自分は宝塚で卒業」本名で母・君島十和子の背中から学ぶ日々(2/2 ページ)
心から宝塚を楽しむには「もうちょっと時間がかかりそう」 元ジェンヌのマニアックな視点
―― 「徹子の部屋」出演時には、今になってあらためて公人としての十和子さんの存在の大きさを自覚したとお話しされていました。ご両親が有名だと良くも悪くもいろんな影響があるかと想像しますが、ご自身ではどう捉えられてますか?
君島 私にとっては本当にただの家族。母は母ですし、メディアに出ているから特別といった印象は全くなくて本当に普通のお母さんです。世の中の皆さまと変わらず“母親”としての一面の方が強いんです。
今は一緒にお仕事をしながら母が身をもってお手本を見せてくれるので、一社会人としてお仕事をする上で尊敬しています。家に帰ればお母さんに変わりはありません(笑)。
―― 憂樹さんのSNSを見て、十和子さんの別の一面を目にしたファンの方も多そうです。
君島 そうかもしれないですね。意識しなくても私から見た母のイメージと、皆さんが持ってくださるイメージは違うかもしれません。そういう風に新鮮に感じていただけたのかなと思います。
―― 身近に女性が多い環境で過ごすことが多かったようですが、ロールモデルはいますか? 十和子さん、宝塚歌劇団とすてきな女性がたくさん浮かびます。
君島 オードリー・ヘップバーンさんに憧れています。「ローマの休日」は何回も見ましたし、物心ついていない幼いころに初めて見た舞台が、大地真央さん主演の「ローマの休日」だったんです。そのころから映画やお話が大好きで、劇場で私が「お姫様はお城に帰りたくないのね」って言ったというエピソードを母から聞きました。お姫様が大好きだったみたいです。
―― 男役さんとはまた違うヘップバーンカットも似合いそうですね。
君島 外見が美しいのはもちろんのこと、名言もたくさんあるじゃないですか。在団中にそれをまとめた本に目を通すことがあり、娘役に変わったとき、よく参考にさせていただいたのがオードリー・ヘップバーンさんでした。
―― 今も観劇や宝塚はお好きですか?
君島 もちろんもちろん! 一緒に頑張ってきた組の方や、他の組には同期もまだたくさんいます。女性だけ、しかも110年の歴史がある劇団なんてそうはありません。唯一無二の存在です。
―― もう宝塚を観客として楽しめそうでしょうか?
君島 観客として楽しむ……のはもう少し時間がかかりそうです。どうしても細かなことに反応してしまったり、今はまだ見方が演者側の視点になりそう。例えば娘役のアクセサリーとかカツラ、ヘアスタイル、「あの人の衣装のさばき方きれいだな」とか、コアなファンの方よりもさらにマニアックな見方になってしまいます。心から楽しむとなると、もう少し時間がかかるかもしれませんね(笑)。それだけ宝塚愛が深いということなんです。
―― 10年ほど前は娘役の方はアクセサリーを手作りしているとお聞きしたのですが、今でも?
君島 そうですね、私も何個か作りました。次の公演ではそれを解体してまた部品を違う公演で使ったり、役やお衣装に合わせて手作りしていました。
―― それは気になっちゃいそう。宝塚では守られていたとおっしゃっていましたが、退団後に何でもやっていい環境になったことで良かったなと思うことと、反対にまだ慣れないことはありますか?
君島 慣れないことの方が正直多いですね。SNSもですが、こうして取材いただくことも今までほとんどなかったので、お仕事をいただけることがすごくありがたくてまだまだ勉強することばかりです。毎回お仕事のたびに自分が写っている写真や映像を見て「こういうことが足りないな」と反省しています。近くで見ている分、「母はこういうふうに見せているんだ」と学ぶことも多いです。
良かった面では……うーん、そうですね。忍耐力は鍛えられたので、まだまだそんなにないですけども長時間のお仕事でも楽しんでさせていただけるように頑張ります!
―― 宝塚ならではの習慣がついてしまって抜けない癖とか、やめられないことなどはどうでしょう。
君島 ちょっとマニアックなお話になりますが、お着物の撮影でありました。宝塚の衿の合わせ方と、一般的に美しい衿の合わせ方や着方は違うんです。私たちは踊っても歌っても着崩れないようにしていたので、帯の締め方も選ぶお着物も、補正の仕方も特殊かも? 「宝塚ではこういう風にしていたけど、一般的にお着物を着るときはこういう感じなんだ」と気付いたり、「それは宝塚流だよ」とアドバイスをいただきました。
―― メイクとかはどうでしょう?
君島 公演後に雑誌撮影やファンの皆さまとの交流会があると、つい眉毛を濃く描きすぎちゃう、アイラインがこめかみまで入りそうとかは“宝塚あるある”です(笑)。
舞台ではつけまつ毛もして、一番後ろの席のお客さまからも表情が見えるようにお化粧する習慣がありました。ついつい「舞台メイクっぽいよね」といわれるときは今でもたまにありますし、母にも「ちょっと濃くない?」と突っ込まれることもあります(笑)。
―― 時間がたつにつれ、発見が増えそうです。
君島 そうですね。共演させていただく方は芸能界での先輩の方々ばかりなんですが、私からすると、ついつい宝塚出身の方でなくても“上級生の方”というスタンスになってしまうので、ちょっと固いかもしれないですね。
「宝塚の男役みたいな人いますかね?」 男役も娘役も経験した上での美学
―― 宝塚音楽学校は受験倍率が毎年話題になり、憂樹さんも26.7倍の狭き門をくぐり抜けての入団です(※102期生)。10代の早い段階で大きな成功体験を得られたことで、今でもポジティブな影響はあると考えていますか?
君島 おっしゃっていただいたように、夢をつかんだ瞬間でした。それまでは普通の高校生だったのが専門的なお勉強をして、親元を離れてと全然違う生活になったので、もう本当に人生が180度変わったというか。
音楽学校は中学卒業から高校卒業までの4回受験できるのですが、私は2回目で合格したんです。なぜ2回目で合格できたかについては、高校生活を1年経験したことがすごく大きいと思います。進学したことで視野がすごく広がったんです。
もちろん義務教育を終えてすぐの早い段階で入った方が学べることも多いですし、それを否定するわけではありません。ただ私にとっては、高校に1年通っていろいろ経験できたことが大きかった。とても充実した1年でしたので。
―― 同期といっても年齢に幅があり、進学した方もしない方もいる、そういう環境ですね。
君島 大学受験を経験した人もいますし、本当にさまざまです。楽しかったので、私はたった1年間でも高校に行けてよかったと思います。女子校で、体育会系で行事がすごく熱くてみんな全力で取り組むイメージがすごく残っています。
―― 音楽学校で学んだことはもちろん一般の学生生活も経験したことで、いいところ総取りみたいな。今後の活動に生かせそうですね。
君島 そうですね。本当にいろんな経験を10代のときにさせていただいたなと思います。
―― これはかなり主観に基づく質問ですが、宝塚の男役さんといえば女性にとって理想の男性を具現化したような存在だと思うんです。そういった役を演じられていて、また娘役として相手役までされていたことで、実生活でつい見る目が厳しくなってしまう、そんな現象はないのでしょうか?
君島 そうですね(笑)。宝塚は私からすると……アニメや漫画に恋するみたいな疑似恋愛の世界で、お客さまの夢を壊さないことが第一です。男役を演じているときは役を演じるよりも前に、“男性を演じる”と捉えていました。
「男役は10年から」という言葉がありますが、上級生になって年数を重ねれば重ねるほど貫禄も色気も出てくるものです。私の場合は実年齢も幼かったので、未完成な状態で男役は終わってしまったんですけども、夢を壊さないということは演じる上で大切にしてました。
娘役に変わってからは、結婚して旦那さんがいる役や恋人の役もあり、「相手役の方にかわいいと思ってもらえるにはどうしたらいいかな」と考えていました。組む方によっても全然違いますし、お相手になる男役の方のファンの皆さんのお気持ちも壊さないようにとも意識していました。
やはり現実とは違うかもしれないですね。「この役みたいな男性がいい」とかはあんまり思わないかも。きれいな方を見るのは好きですけども、宝塚の男役みたいな人いますかね? いるのかな?
君島憂樹の夢 「母の姿こそ私の理想です」
―― 憂樹さんと同じように、新しい環境で頑張ろうと一歩踏み出そうとしている方へエールを送るとしたらどんな言葉をかけますか?
君島 やらない後悔よりやって後悔。踏み出さないことには何も始まりません。結局やるのは自分。私も踏み出せずに「あのときやっておけばよかった」と小さな後悔がいまだにあります。あとから思えばやっていた方がよかったなってことの方が多い気がします。
一般企業の方だったら結果や数字に現れると思うんですけども、宝塚には何か“ゴール”があったわけではない。だから自分で一つ一つ「昨日の自分に勝つ」と目標を定めて、乗り越えていくことが大切でした。
宝塚に在籍中も、退団してからも支えてくださる方がたくさんいらっしゃることを痛感しています。恥ずかしくて今はなかなか親に面と向かって「ありがとう」とは伝えづらいんですけども、LINEなら言えたりする。ツールをうまく活用して、周囲の方への感謝とか、思ったことは伝える方がいいとはすごく思います。自分が思ったことはとことん突き詰めて、周りの方に感謝を忘れないようにしたいと思います。
―― 大事ですね。感謝の気持ち。
君島 「本当に感謝だな、当たり前ってないな」とすごく思います。宝塚にいるときは、1年先のお仕事をいただけるのが当たり前になってしまっていたんですけど、外の世界では当たり前ではありません。お仕事がいただけるなんてありがたいと感じますし、全てのことに感謝です。
―― ありがとうございます。具体的にというわけではなく、未来の自分はどうなっていたいか、大きな夢を教えていただけますか?
君島 あらためて考えてみたんですが、母の姿こそ私の理想だと思います。母として、一社会人として、お仕事をさせていただく身として、個人としてもやっていきたいことは「あ、もうすでに母がやっていることだ」と気付くことが多い。いずれ結婚できたら自分が出会う旦那さん、まだ分からないですけども子どもに恵まれることがあれば、生まれてくる子には自分がしてもらったことはしてあげたいと思っています。私は親元を10年間離れていたので、辞める直前になって、あらためてそう強く感じるようになりました。
―― ご自身と十和子さんが似ているといろいろなインタビューでお話しされていたのを拝見したんですけど、「かなわないな」と感じるのはどんな部分でしょう?
君島 もう全部ですね。かなうところなんて……若さくらい? 本当にそれだけです。知識量も、経験も何もかも全然違いますし、お仕事をしながら妹と私を育ててくれましたので、今の私にかなうところなんて何もない、というのは一緒にお仕事をしてみてあらためて痛感しました。
―― 同じ立場になって実感したというか?
君島 宝塚にいるときは、公演後にアドバイスをくれても「じゃあママがやってみて〜」とか言ってたんです(笑)。ですが今は、同じようなお仕事をさせていただいてるので「あっ! なるほど」と母から学ぶことが多いです。今はひたすら背中を追っています。
―― 十和子さんの背中を追いながら、ご自身ならではの強みが見つかることはあったのでしょうか。
君島 宝塚にいたことは私にとって財産です。性格も私は体育会系な感じですね。サバサバしていて男らしいっていうのは母もそうなんですけども(笑)。
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