ハリウッドはなぜ立ち上がったのか 歴史的なストライキを“AI”“ストリーミング”他キーワードをまとめて徹底解説(2/2 ページ)
日本にも及んだ、ハリウッド内外でのストの影響
ストライキ中、米映画・テレビ界では、組合との契約に基づいて製作されている作品は、基本的に全て中断。組合に属する脚本家は、スタジオやプロデューサーとの企画における執筆もミーティングも禁止となり、俳優は撮影はもちろん、公開作のプロモーションや映画祭参加も許されず、各所で影響が出ました。
ハリウッドから遠く離れた日本も例外ではなく、「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」のトム・クルーズ、「バービー」のマーゴット・ロビーのPR来日がキャンセルに。英ロンドンでも、「オッペンハイマー(原題)」のプレミアでレッドカーペットを歩いたエミリー・ブラントやフローレンス・ピューらが、米国で俳優組合がスト入りすると、団結の姿勢を示すべく、プレミア会場を退出する様子が報じられました。
米テレビの夜の風物詩である深夜トーク番組も、5月初旬以来、新エピソードの放送がなく、再放送や特別編集番組でしのぐ形に。こうした中、番組を支える多くのスタッフが失業状態に陥ったことを懸念し、スティーヴン・コルベア、ジミー・ファロン、ジミー・キンメル、セス・マイヤーズ、ジョン・オリバーら各局で番組を持つ名物司会者たちが局の壁を越えて団結し、5人総出演のポッドキャスト・シリーズ「ストライク・フォース・ファイブ」をローンチ、収益を全て、番組スタッフの経済支援にあてる動きもありました。彼ら司会者・コメディアンたちは、自身も脚本家組合に属しているケースが多く、「ライターなしにコメディは生まれない」という団結力を見せたのです。
一方で、組合の連帯を乱したとして批判を受けたケースも。「チャーリーズ・エンジェル」シリーズで有名な俳優ドリュー・バリモアが各界の著名人と赤裸々なトークを繰り広げるトーク番組「ドリュー・バリモア・ショー」は、脚本家組合のスト中に、組合ライターなしで新シーズンを放送すると発表し、非難されました。
バリモアの決断は、今回のストで長期失業に陥っている脚本家・俳優以外のクルーをサポートする意図があったと思われますが、身を削ってストを続けている会員たちにとっては許しがたい行為として受け止められ、結局バリモアは新シーズン延期を決定。歌手・俳優のジェニファー・ハドソン、名コメディアンのビル・マーら、カリスマ司会者たちのトーク番組も、スト終結まで新シーズンを見送ることとなりました(バリモアはその後、脚本家スト終結を受けて、10月下旬の新シーズン開始を発表)。
他業界&他国にも広がったサポートの輪
猛暑やハリケーンも乗り越えて、米国主要都市やスタジオ前でストを続けた両組合会員たち。その姿に、映像界の同僚はもちろん、スポーツ界、政界、海外でもサポートの輪が広がりました。
俳優組合の著名会員は、おのおのの形で同僚たちをサポート。ジョージ・クルーニーやメリル・ストリープ、レオナルド・ディカプリオ、ニコール・キッドマン、ジュリア・ロバーツらのビッグネームは続々とスト中の会員に向けた緊急財政支援プログラムに100万ドル(約1億5000万円)ずつ寄付。アダム・サンドラー、クリス・パイン、ジャック・ブラックらは、ストのピケットラインに参加する様子が報じられました。ショーン・ペンは組合の交渉人たちとともに記者会見で存在感を示し、ケイト・ブランシェットら多くの俳優は、自身が参加予定だった映画祭欠席という形でハリウッドの実情を広めました。
政界にも支援の動きは波及し、ジョー・バイデン大統領が自ら、米国の象徴的で重要な映像産業を支えるすべての人々に早急で公平な条件が認められるよう呼びかけました。スポーツ界では、野球、アメリカンフットボール、サッカー、バスケットボール、アイスホッケーの選手たち数千人を代表する8つのプロスポーツ組合の連合が、「脚本家は、創造性を発揮するために必要な労働条件を保障されるべき」とし、連帯の姿勢を見せました。このほか世界各地でも、米脚本家・俳優との連帯を表明する集まりが続きました。
脚本家たちが勝ち取った内容 新時代に順応を試みるハリウッド
こうした中、脚本家組合は9月24日にスタジオ側と暫定合意し、約150日間に渡ったストが終結。主な争点の1つであった雇用条件については、テレビ・配信ドラマシリーズの話数や脚本家の経験値に応じた最低雇用人数・期間・報酬などにおいて、おおむね組合側の求める条件が認められました。
2つ目の配信二次使用料については、サブスクリプション制のプラットフォームによる組合側への視聴データ共有、配信用に製作された高予算(ほとんどのオリジナル作品が該当)の映画・テレビ番組における成功報酬が認められました。例えば、主要プラットフォームでの配信開始後90日間で、米国内会員の20%以上が視聴した配信用作品については、テレビ番組ならエピソードごとの尺、長編映画なら製作予算に応じて算出されたボーナスを受け取ることができるといったものです。同モデルは2024年元旦より適用され、米国外においても、配信二次使用料の支払い額が増加する見込みです。
3つ目のAIについては、クリエイティブ・プロセスにおけるAI使用のガイドラインを獲得。AIが脚本素材の執筆や書き直しをできず、AI生成された作品は元素材とはみなされないことなどが合意されました。また、脚本家は、会社規定に沿っている限り、執筆作業中にAIを使えるものの、会社側が脚本家にChatGPTのようなAIソフトウェア使用を強要できないこと、会社側は、脚本家に渡した素材が一部でもAI生成されたものである場合は、脚本家にその旨を知らせるべきであることなども確認されました。また、AI育成のために、許可なしに脚本家の素材が利用されることも基本的に禁じられます。
俳優組合の交渉はまとまらず ストの波はゲーム業界へ
一時は年末まで続く可能性もあるとされていたストが、まずは脚本家組合だけでも終結したことで、製作が中断していた米ドラマや映画には再開の動きが見えています。また悪いことばかりではなく、スト中に思わぬ“オフ時間”ができた脚本家たちが、長く温めていたアイデアや企画を突き詰められたことで、今後、よりよい作品が多く生まれるという希望の兆しもありそうです。
一方、脚本家組合のスト終結によってまだ続行中の俳優組合とスタジオ側の交渉成立を後押しすることが期待されますが、今度は俳優組合がビデオゲーム制作者側との交渉においてもスト入りする可能性が報じられています。
さらにハリウッドでは、新たに視覚効果技術者たちが労働組合へ加入する動きも出ています。9月にはマーベル、10月にはウォルトディズニー映画のVFXアーティストたちが、公平な支払いや安全でサステナブルな労働環境を求めて、映画やテレビ作品の美術、撮影、音響、編集、ヘアメイクなどに携わるクルー16万8000人の労働組合であるIATSE(国際舞台演劇・映画従事者同盟)への加入意向を示しました。
人気ショーランナー/脚本家のライアン・マーフィ(「glee/グリー」「アメリカン・ホラー・ストーリー」)は、スト中のスタッフ支援のための救済基金を発足した際に、「これまで紡がれてきた物語、命を吹き込まれたキャラクター、そして構築されたセットのすべてに、コラボレーションの魂が通っています」と、映像作品を支えるすべてのスタッフが欠かせないことを強調していました。ハリウッドで各々の立場に誇りをもって仕事をする人々の闘いはまだ続きそうです。
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全館が臨時閉館。
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