ハリウッドはなぜ立ち上がったのか 歴史的なストライキを“AI”“ストリーミング”他キーワードをまとめて徹底解説(1/2 ページ)

ハリウッドの組合とは? ストの目的は? 脚本家が勝ち取ったものは? そして今後は?

» 2023年10月18日 12時00分 公開
[Yuki Machidaねとらぼ]

 2023年、米映画・テレビ界では1960年以来初めて、脚本家と俳優の組合が同時にストライキを行う事態となり、両組織の会員計17万人以上が活動を中止し、さまざまな作品やスタッフを含む業界全体が影響を受けています。こうした中、現地時間9月27日にはついに、5月初旬から約150日間続いた脚本家組合のストが終結し、ハリウッドが再開の動きを見せ始めました。

 このまま俳優組合のストも終結に向かえば、通常運転に戻る……かと思いきや、今度はマーベルやディズニーで夢を生み出す視覚効果技術者たちが労働組合加入の兆しを見せていて、映像芸術の根幹を巡る闘いはまだ続きそうです。2023年をハリウッド史に刻むであろう、歴史的なストライキについて解説します。

米俳優組合のストライキの様子 米俳優組合のストライキの様子(画像は米俳優組合 公式Instagramから)

そもそもハリウッドの組合って? 夢の世界を守る立役者

 ハリウッドには米映画・テレビ作品を生み出すフィルムメイカーやクリエイター、技術者たちが属する組合が複数存在します。特に有名なのは、米監督組合(DGA)米脚本家組合(WGA)米俳優組合(SAG・AFTRA)の3つで、各会員数は1万8000人、1万1500人、16万人規模。米国で製作される映像作品の多くは、こうした組合の会員たちによって作られています。

 組合の主な役割は、雇用主であるスタジオ側と交渉して会員の最低賃金や就労時間、安全管理などを含む労働条件を定めること、クリエイティブ面で会員の権利を守ることで、近年はハラスメント防止やダイバーシティー推進にも積極的に動いています。また、組合に属する“先輩”監督や脚本家、俳優たちがメンターとなり、若い会員に成功・失敗体験を共有しながら、ともに高め合っていくコミュニティーでもあります。

ニコール・キッドマン、クイーン・ラティファらが組合の大切さについて語る動画

 毎年、アカデミー賞に向けた賞レースの後半では、これら組合賞の結果が注目されますが、それは米映画界を担う作り手が作り手を祝する機会であるため。フィルムメイカーにとっては、批評家や観客が選ぶ賞とは異なる、特別な意味を持つのです。2020年のSAGアワード授賞式では、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で助演男優賞に輝いたブラッド・ピットが、俳優仲間への感謝とリスペクトにあふれるスピーチで会場を沸かせた様子が印象的でした。

2020年のSAGアワード授賞式で、会場をあたたかい笑いの渦に包んだブラッド・ピット

今回のストライキの目的は? キーワードは雇用条件、配信、そしてAI

 こうした組合の主な契約相手となるのが、映画スタジオやテレビ局、配信会社など350社以上からなる業界団体・Alliance of Motion Picture and Television Producers(AMPTP)。組合側とスタジオ側は、基本3年ごとに業界状況や社会情勢などを考慮しながら、契約内容を見直します。しかし2023年の契約交渉に際しては、組合側が求める条件とスタジオ側の条件が乖離(かいり)しており、歩み寄りが見られないまま、脚本家組合が5月2日に、俳優組合が7月14日にスト入りしました(監督組合はスタジオ側と合意したため、ストはなし)。

米俳優組合のピケットラインには俳優アニャ・テイラー=ジョイ 米俳優組合のピケットラインには俳優アニャ・テイラー=ジョイ(「クイーンズ・ギャンビット」「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」)の姿も(中央)(画像は米俳優組合 公式Instagramから)

 両組合の主張の詳細は異なりますが、主な争点はともに、雇用条件の改善(報酬アップ含む)、配信二次使用料、AI使用ルールの3点です。1つ目は、脚本家の場合、主にテレビ・配信シリーズにおいて、一定数の脚本家を一定期間、雇用することを求めるもの。これが認められない限り、脚本家の収入が安定することはなく、未来の脚本家を目指す次世代が少なくなると組合は主張していました。俳優組合も、経済情勢に応じた報酬アップを求めています。

 2つ目は、世界的な配信普及という業界の変化に応じて、作品の二次使用料支払いモデルの見直しを求めるもの。従来のテレビ放送では、再放送のたびに脚本家や俳優に再使用料が入りましたが、配信においては、視聴回数も視聴エリアも大幅に拡大されているものの、プラットフォームが視聴数を公開せず、作品の成功に応じた報酬が得られていない点がかねて問題視されていました。そのため、組合側は、視聴データの共有や再使用料支払いモデルの更新を求めています。

 3つ目は、AI使用ガイドラインの明確化。脚本家は、AI発達により、例えば脚本家が草稿したアイデアをAIに完成させる(またはその逆)ことも可能となる未来に向けて、AI使用ルールを設定すべきだと主張。俳優は、スタジオがシーン背景に出演する俳優たちの姿をスキャンし、その身体的特徴を永久的に使用できるAI技術も発達するなか、インフォームドコンセントの必要性、出演契約時にAI使用許可を強要することへの懸念などを訴えています。

 すでに音楽業界では、AIが人気ミュージシャンの声のみならず、曲調や歌詞までも生成して楽曲を発表し、再生数を稼ぐ事態になっており、AIにまつわる動きは脚本家・俳優たちにとっても死活問題。今、闘わなければ、自分たちも未来のクリエイターも苦労する(どころか、その職自体がなくなってしまう可能性すらある)という緊急性を使命感を伴うものなのです。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news028.jpg 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
  2. /nl/articles/2411/19/news126.jpg 元「おニャン子」内海和子、娘・ゆりあんぬの“胃の粘膜ぶっ壊す”食事に激怒! 有名飲食店に謝罪し「出禁にして」「違う星の人そんな気がしてなりません」
  3. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  4. /nl/articles/2411/19/news083.jpg 「恐ろしい」 北海道の道路標識 → “見落としたら絶望”のとんでもない表示に衝撃走る 「普通にホラーでは?」
  5. /nl/articles/2411/18/news019.jpg 優しそうな“おかっぱ頭”の男性→プロがカットしたら…… “別人級の仕上がり”が470万再生「えっ!? って声出た」「EXILEみたい」
  6. /nl/articles/2411/19/news114.jpg 平愛梨、“夫・長友佑都選手”に眠れなくてLINE送信→“まさかの返信”に「なんやねん」「もう寝るしかない」
  7. /nl/articles/2411/18/news025.jpg “無給餌”で育てたメダカが2年後、驚きの姿に→さらに半年後…… 放置しておいたビオトープで起きた“奇跡”に「ロマンを感じる」
  8. /nl/articles/2411/18/news120.jpg 「天才が現れた!」 森永が教える“秋らしい”お菓子の作り方→たこ焼き器を使ったアイデアに「すごいすごい可愛い」
  9. /nl/articles/2411/19/news009.jpg 固い着物をリメイクしてみたら…… 生まれ変わった“まさかのアイテム”に「しゅげー!」「凄い素敵です」
  10. /nl/articles/2411/19/news062.jpg 「上げ底の先」 その名に偽りなし、高専の文化祭に出現した「限界節約ホットドッグ」が本当に限界だった
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた