越後製菓のCMかと思いきや…… まさかの「ウマ娘」CM その舞台裏をスタッフに聞いてみた(1/3 ページ)
こだわりがパンパンに詰まったCMでした。
昨年(2022年)の年末に、「あまりにも越後製菓すぎる」と話題になったゲーム「ウマ娘 プリティーダービー(以下、ウマ娘)」のゆく年くる年キャンペーンCM。あのCMが昨年SNSで話題になったことから、職人的なこだわりによって、ほぼ越後製菓そのもののCMが制作されました。
「ウマ娘」新CMでは、どこか聞き覚えのある効果音と共ににんじんハンバーグが登場。と思ったら、高橋英樹さん演じる「馬娘侍(※馬の点は2つ)」がにんじんハンバーグ型ボタンを連打! 「正解は!」「ウマ娘!」と正解しまくり、パワフルにドヤ顔をキメます。最後は馬娘侍がキタサンブラックとサトノダイヤモンドと一緒にポーズを決めてくれるので「ウマ娘のCMである」と分かりますが、それ以外はどこからどう見ても越後製菓です。いいのか、これ。
CMは、12月24日(日)に放送された「M-1グランプリ2023」内でオンエアされるや、「まさか高橋英樹さんご本人が出演するとは!」「越後製菓コラボじゃん!」などすでにSNSで大きな話題を呼んでいますが、「ウマ娘」を展開するサイゲームスのプレスリリースによると、 制作に携わったのは実際に越後製菓のCMに関わっているスタッフであるとのこと。それって一体どういうこと……? というわけで、今回は越後製菓CMの監督を務める高屋敷誠さん、クリエイティブディレクターである博報堂の白石さん、さらにサイゲームスと越後製菓の広報担当者に、このCMにまつわる裏話をお聞きしました。
SNSでのつながりから始まった、越後製菓風「ウマ娘」CMプロジェクト
――まず、今回のCMはどういった経緯で制作が決まったんでしょうか?
越後製菓広報 昨年、「ウマ娘」のCMを当社のX(旧Twitter)のアカウントからリポストしたところ、たくさん反響をいただきました。その後、サイゲームスのご担当者様からご連絡をもらったときはただただ驚きましたが、今回のCMのお話をいただいたことで当社の広告代理店である新潟博報堂さんへも連携させてもらって、サイゲームスのご担当者様と新潟博報堂さんとで進めていただきました。
――なるほど。越後製菓さんがサイゲームスさんと実際の制作スタッフをつないだ形なわけですね。越後製菓さん的には、昨年のCMをご覧になられていかがでしたか?
越後製菓広報 面白いCMだなと思いました! 越後製菓のCMといえばお正月というイメージもあってか、Xでも「越後製菓っぽい」と話題になっていると他の社員に教えてもらいました。「越後製菓を思い出した」という方も多く見受けられたので、思いもしない所ではありましたが、そういう部分で話題にしていただいてとてもありがたかったです。
――Xでの反響も、越後製菓さん的には歓迎ムードだったんですね。
越後製菓広報 Xで反響があったことは社内でも話題になりましたし、それがきっかけで「ウマ娘」を始めた社員もいたと聞いています。実は私もその一人でして、以前から「ウマ娘」をプレイしていた社員と共通の話題が増えたので、意外なところでのコミュニケーションも生まれました(笑)。
――他の皆さんは、昨年の「ウマ娘」のCMをご覧になっていたんでしょうか?
白石クリエイティブディレクター(以下、白石) 実は、僕はこのCMを全然知りませんでした。今回このお話をいただいてから初めて見せてもらったくらいでして(笑)。
高屋敷誠監督(以下、高屋敷) 自分もオンエアでは見てなかったんですが、SNSで話題になっていたのを見て「どんなものかな?」とチェックしました。厳密に言えば、越後製菓のCMでは”問題”を言ってないんですよね。でも「ウマ娘」のCMではクイズ大会ということではっきりと問題を言っていたので、そこはちょっと違うんですが、ボタンをたたくポーズだけで越後製菓のCMっぽいと捉えられたのかなと。
――今まで漫然と越後侍の回答シーンを見ていたので今言われて初めて気がついたんですが、確かに問題抜きで回答してますね、越後侍……。
高屋敷 「問題を言っていないのに『越後製菓!』と回答している」というのはあのCMの吹っ切れているポイントなんです。「ウマ娘」のCMではちゃんと問題を言っているにもかかわらず、ボタンをたたくポーズで越後製菓のCMとの関連を見出してくれたということは、視聴者の方々にはあのポーズがずいぶん記憶に残ってくれていたんだな……と、ありがたく思いました。
「全力で過去のCMを再現する」作業を支えた、高橋英樹さんのポテンシャル
――そうして今回は、越後製菓のCMにそっくりな「ウマ娘」のCMを制作することになったわけですね。
白石 今回のCMは「なるべく再現しよう」というのをテーマにしてやってます。監督には過去のCMと見比べてもらい、尺やフレーム数なども含めて再現できる部分はかなり厳密に似せました。高橋英樹さんが着る衣装も寄せているんですが、越後侍の着物には「越」の字が書いてあるのが今回は「馬(※点は2つ)」になっていたりして、部分的に「ウマ娘」仕様になっています。
――たたくボタンもにんじんハンバーグになっていましたね。
白石 そういった細かいポイントごとに「ウマ娘」仕様にはなっているんですよ。後ろのライトの真ん中の文字も「馬」になってるし。あのライトは作るのが大変でした……!
高屋敷 自分のキャリアの中でも、「過去に作った映像と同じものをもう一度再現する」というのは初めてだったかもしれませんね。オリジナルの越後製菓CMを撮影した当時は今と違ってカメラもフィルムだったんですよ。今はデジタルのカメラですが、そうなるとレンズを通した画面の見え方も違ったりするんです。だから「最新の機材を使いつつ、映り方は昔の映像に合わせる」ということになるんですが、これにはカメラマンもこだわっていました。
白石 「同じものをもう1回撮る」と分かっていれば、いろいろと撮影時のデータを保存しておくじゃないですか。カメラにしても、アングルやレンズを全部記録しておけば再現するのも楽なのですが、われわれはそんなことをもちろん考えもしてなかったんですよね。だからひたすら昔のCMを見まくって、それに寄せるという作業を続けて似せていった感じです。
高屋敷 高橋さんのアクションにしても、元になる映像が特にないなら「かっこいいのが撮れたからOK!」っていうことになるんですが、同じタイミングで同じような動作でボタンがたたけていないとOKにならない。これは普段と全然違うところでした。もともとあのボタンをたたくポーズは「カッコよくボタンをたたくとこんな感じかな」と僕が考えて、たたいたまま腕を振り抜く様子をコンテに描いてたんです。それを英樹さんがバシッとキメていただいたことで、あのアクションが出来上がりました。
白石 あとはあの正解した後のキメ顔ですね。何にほくそ笑んでるかわかんないですよね。
高屋敷 問題すら出されてないのに、ひたすら「越後製菓!」って言ってドヤ顔をするという(笑)。あの顔を最初に英樹さんに説明した時のことは今でも覚えてて、「"してやったり"の顔でお願いします!」って頼んだんですよ。そしたら英樹さんが「わかった、したり顔ね!」って即座にやってくれて、いきなり完成したんです。
――高橋英樹さんのポテンシャル、ハンパないですね……! ところで、そもそも高橋さんって「ウマ娘」はご存知だったんでしょうか?
白石 ご存知でしたよ! 厳密に細かいところまで知っているわけではなかったですが、「競馬を題材にした、女の子のキャラクターが走るゲーム」といった基本はご存知でした。今回のCMのオファーも面白がってくれて、ノリノリでやっていただきましたね。
高屋敷 先ほど「アクションも似せないといけない」という話がありましたが、英樹さんはやっぱり勘がいいんですよね。どのカットも、多くて5テイクくらいで撮り終わりました。もう何回もやっているからか、染みついたリズムがあるというか。どのカットも、過去の映像を1〜2回見て「はい、わかりました」という感じで、すぐ再現してもらえました。実は越後製菓のCMにはけっこうバージョン違いがあったのですが、ボタンをたたくアクションだけは何回もやっていたんです。だからかもしれません。
白石 染みついてますね、英樹さんには。非常にノリよく元気よくやっていただいて、現場も楽しかったです。あと、最後のカットではCGのキャラクターと共演しているんですが、あのカットはそこにキャラクターがいる体で芝居しなくちゃいけない。本来なら難しいはずなんですが、あそこもそんなにテイクを撮ってないんですよ。さすがに勘所がすごいなと思いました。
高屋敷 あれはすごかったですね。尺感とか間の取り方がバッチリで。
白石 他のシーンは前のCMに合わせればよかったのですが、CGとの共演は一番難しいんじゃないかという話を事前にしていたんです。でも英樹さんのおかげで、あんまり苦労せずに終わりました。
――越後製菓さん的には、完成したCMをご覧になっていかがでしたか?
越後製菓広報 完成度が高く、完全に一致でした。すごくいい出来だと思います。昨年の「ウマ娘」のCMの際にコラボを期待する声が多くあったので、一年越しで本当にコラボが実現できたことがとてもうれしいです!
新規収録された「越後侍の歌」にも注目!
サイゲームス広報 あと、越後製菓さんのCMで最後に流れる「にこにこにっこり、越後さん〜」という歌があるんですが、それも今回キタサンブラック役の矢野妃菜喜さんとサトノダイヤモンド役の立花日菜さんのオリジナル音声で再収録しました。越後製菓さんバージョン、替え歌の「ウマ娘」バージョン、両方を作らせていただいたんです。
――CMの最後の方でBGMとして流れている歌ですね。
サイゲームス広報 今回越後製菓さんにご協力いただいて、元の譜面を見せていただきました。譜面を見るまではわれわれも知らなかったんですが、あの歌って「人を斬らずに餅をつく〜」という歌詞が後ろに続いていて、もっと長い曲だったんです。こういう曲だったんだ……という驚きもありました。音源の収録には、高屋敷さんにも立ち会っていただきました。
高屋敷 かわいい曲になりましたね〜! 「にこにこにっこり、越後さん〜」のオリジナルの歌詞の方も歌っていただいたんですが、めちゃくちゃかわいかったです。オリジナルの曲はもともと最後まできっちり作ってあったわけじゃなくて、使い尺分までしかなかったんです。今回はその最後の部分も含めて収録したのですが、ちゃんと聴ける、いいものになったと思います。
年一の放送でも印象に残る、越後製菓CMの凄み
白石 あの歌詞、当時の越後製菓の社長が自ら考えられたんですよ。素敵なアイデアマンで、ノリノリで……。越後侍のインパクトが強くて目立たないかもしれませんが、そういう曲の部分も含めて意外といろいろやっているCMではあるんですよ。越後侍が目立っているのも、とにかく越後製菓さんは見た人の印象に強く残ることを大事にされていたからです。だったら、割と乱暴な内容の方が印象に残るよね、ということでプランを考えたCMが越後侍シリーズなんですね。
――問題なしでいきなり回答してるんだから、確かにちょっと乱暴と言えば乱暴かもしれませんね。
白石 お餅、それもお正月のお鏡餅などが主力商品の企業さんなので、CMを流す時期が年末年始に集中するんですよね。一年中流れるものではないから、じゃあ毎年ガラッと内容を変えるというよりは、「正解は?」「越後製菓!」っていうアクション込みで1つのフレームを固めて、それを定期的に年末年始に流すという戦略をとったんです。
――確かに、年末以外のタイミングで流しづらいCMですよね。
白石 結果的に今でも「あれが流れると年末がきた気がする」とSNSに書いてくださる方もいるような、ある種の風物詩みたいな感じになりましたし、「正解は!?」って聞かれたら「越後製菓!」ってつい答えちゃうくらい浸透している。これは越後製菓さんの戦略がすごくよかったなと思います。いろいろなコマーシャルを次々に流して鮮度をあげるやり方もありますけど、定期的に同じものを流して認知を上げて、見た人の印象に残す戦略をとったということですね。
高屋敷 自分含め、今回の「ウマ娘」のCMで改めてそういった越後製菓のコマーシャルのエッセンスを確認したところがありました。同時に「継続は力なり」ではないですが、長く続けたことでみなさんの中にあのCMが残っていたことをありがたく感じましたね。
白石 あと、今回のCMに関してはやっぱり、サイゲームスさんがゲーム会社として面白いことにすごく貪欲だったのも大変良かったと思います。テレビで1回しか流れないCMにここまで熱量をかけることは普通やらないと思うんです。
――え、1回しか流れないんですか?
サイゲームス広報 そうなんです。ですがCM自体は再度見ていただけるように、「ウマ娘」公式YouTubeチャンネル「ぱかチューブっ!」にアップしていますので、ぜひそちらでご覧ください。
白石 そういう、「面白いからいいじゃん」で企画を通すノリや考え方が素晴らしい。ゲーム会社としてそこはすごく大事なことだと思うし、また感謝もしています。あとはこれからも「正解は!?」と聞かれたら「越後製菓!」と皆様に答えていただければ、こんなにありがたいことはないですね。
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