『ルリドラゴン』連載再開記念レビュー 「ゆるい」多様性とコミュニケーションの素晴らしさ(1/2 ページ)
大切なのはバランスなのかもしれない。
漫画『ルリドラゴン』が約1年半ぶりに連載を再開した。満を持しての復活に、SNSでは毎週歓喜の声が多数投稿されている。
『ルリドラゴン』は『週刊少年ジャンプ』誌上で2022年6月に連載スタート。その後、第6話までが掲載されたタイミングで、作者・眞藤雅興の体調不良により余儀なく休載に。連載開始から間もなくのストップだったものの、「このマンガがすごい!2024」オトコ編第9位にランクインするなど、休載期間中も異例とも言える存在感を放ち続けていた作品だ。
現在は紙とデジタル版の『週刊少年ジャンプ』誌上で連載中で、4月22日からはデジタル版『週刊少年ジャンプ』および「少年ジャンプ+」での隔号連載に移行予定となっている。
どこかのんびりしている、いい意味で“ゆるい”作風が大きな魅力となっている本作。そして、その“ゆるさ”により、多様性の素晴らしさを押し付けがましくなく示す、今の時代に必要な作品でもあると感じる。単行本1巻の内容に触れる形で、その理由を記していこう。
※以下、『ルリドラゴン』単行本1巻の内容に触れています。
見た目以外でも自身の性質を気にしてしまう心情
高校1年生の青木ルリは、朝起きるといきなりツノが生えていて、母親から龍と人間のミックスだと明かされる。すっとんきょうな事実に戸惑いつつも「いやでもツノはえただけだしな…」と学校へと向かうと、クラスメイトからすぐに気付かれて、クラスの注目のまとになる。
そのルリのツノを見た先生のリアクションは「えー…マジで生えたの? 大丈夫なの? じゃあいいけど。まー後で詳しく聞かせて。何かあったらすぐに言ってください」以上、であった。
「この先生本当にゆるいなー」と思いつつ(後に先生はルリの母親から話を聞いていたことも判明する)、普通に授業を受けるルリ。ところが、ルリはその後くしゃみの勢いで火を吐いて、前の席の男子の髪を燃やしてしまい、さらには自身の口の中が血だらけになってしまう。
不可抗力で火を吐いてしまうという、他人に危害を加えかねない自身の性質。ルリは火炎の暴発を防ぐため河原で練習に励みながらも、めちゃくちゃ学校に行きたくなくなってしまう。こうした、「ちょっと嫌なこと」があって学校に行きたくなくなる心情は、誰でも理解しやすいものだろう。
面白がられることに対しての気持ちや対応のバランス
そんなルリは、作中で描かれる“ゆるさ”(のある多様性の肯定)に救われる。休学明けに先生が、「火吐いたくらい気にすることないよ。世の中いろんな人がいるもんです」「みんなもいろいろ思うところあるかもしれませんが、まあ仲良くやっていきましょう」と言ってくれるのは、その筆頭だ。
さらに、ルリは帰宅後、たこ焼きを食べながら「なんかわたし(学校で)生物兵器って言われてた。1週間わたしの正体考察大会だったんだって。なんかみんなあんま気にしないんだね。…いや気にはしているのかな。でも割とみんな面白がっててさ」と言い、母親から「嫌だった?」と問われると、「ううん、嫌じゃない」と答える。
一方でルリは学校で、ほうぼうから「ドラゴン」とあいさつされることに対して「ドラゴンて呼ぶな」とツッコミを入れ、「おはドラゴン〜」と言われた時には、「せめて略すな! お前らいじりすぎ」と言い返したりしていた。
他人の特徴について興味を持つことも、その実態を知らないまま面白がるのも、ある意味自然なことだ。そこで大切なのは、バランスなのだろう。「いじりすぎ」という一線を超えそうなものには釘を刺し、不快に思うことはちゃんと言う。ルリの立ち振る舞いは共感できると共に、社会生活における理想形と思えるほどだ。
ルリ自身が持っていた偏見への気付き
そんなふうに、学校での他者からの見られ方を受け入れつつあるルリだが、実は彼女のほうが他人への偏見まみれだったことにもスポットが当たるようになる。
例えば、ルリは隣の席の神代さんのことを「陽キャっぽくて怖い」と言い放つ。ところが、実際の神代さんは1週間休んだぶんの勉強を分かりやすく教えてくれるし、「あたしもルリちゃんのこと(第一印象で決めるとことか)苦手だよ」とはっきり言いつつ、ルリ本人とツノのことをかわいいと、裏表なく話してくれる好人物だった。
そして、神代さんの「話してみて苦手がとれたらそれでいいし、苦手なままでも仲良くなりさえすれば敵にはならないじゃん」という言葉に、ルリも「なるほど」と納得する。
今まで接していなかった誰かとコミュニケーションを取ろうとするとき、「まずは本音で話してみる」のはひとつの手段かもしれないし、それにより苦手意識や偏見がやわらぐこともある。『ルリドラゴン』では多様なキャラクターを単に登場させるだけでなく、良い意味で“ゆるい”コミュニケーションが、より良い人間関係につながるのを描いていると言っていいだろう。
簡単に分かり合えない人もいる
そうした“ゆるさ”による人間関係の変化を描く中で、「全ての人が簡単に分かり合えて万事解決」とならないのも誠実だ。
例えばお昼の時間に、ルリはクラスメイトから「あの…他で食べるよ。ごめん」と同席を避けられることもあった。連載中の単行本1巻以降の内容を読むと、今後さらなる波乱も予想される。
それでも、母親からの「意外とさ、今感じていることって、普通の人間も常に感じ続けていることだったりするんじゃない? 人間の悩みってあんま変わんないよ。たとえ半分龍でも。いいんだよルリはルリで」という言葉は、現実でさまざまなコンプレックスを抱える人や、自身の特徴から差別や偏見の目で見られた経験がある人にとっても、その個性をやさしく肯定して勇気付けてくれるものだ。
少しずつ、“ゆるく”変わっていく(だけど時にきびしい)、ルリのかわいらしく楽しい周囲との関係性を、これからも追い続けたくなるし、それは身近な誰かとのコミュニケーションにもフィードバックできるかもしれない。連載再開にあたり本作を読み返して、それが『ルリドラゴン』の大きな魅力だと改めてわかったのだ。
逆『ルリドラゴン』のような中編実写映画もある。
最後に、『ルリドラゴン』とは正反対の性質を持つ、だからこそ真摯に題材に向き合っていると心から思えた、日本の実写映画も紹介しておこう。現在はレンタルで配信中の「カランコエの花」だ。
あらすじは、高校のクラスで唐突に「LGBT(Q+)について」の授業が行われ、クラス内に「当事者がいるのではないか?」というウワサが広まるというもの。「当事者ではなく周囲の人の視点」で進行し、その「過剰な配慮」が波及し暴走した先にあった結末は、「現実のどこかにある」と思えるものだった。
39分間と短めの上映時間だが、さまざまな伏線が周到に積み立てられており、見終わってすぐにもう一度見たくなる構成も巧み。そして、悲しくつらい話であるからこそ、「こうならないためにはどうすればいいか」を反面教師的に学べるという点で、理想的な関係性の変化が見られる『ルリドラゴン』とは好対象な内容というわけだ。ぜひ併せて見てみてほしい。
(ヒナタカ)
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