米版VOGUE誌の2017年3月号で、アメリカ人モデルのカーリー・クロスが日本人の格好で撮影した写真が「文化的横取り」と批判されています。クロスはTwitter上で「これらの写真は私とは関係ない文化を横取りしたものであり、文化的に敏感ではない撮影に参加して申し訳なく思っています。私の目標はずっと、女性たちに力を与えインスパイアすること。今後、撮影や企画ではこの使命を守っていきます」と謝罪しています。
日本で撮影されたという写真では、クロスがおしろいや赤い口紅でメークされ、黒髪にかんざし、着物をイメージしたような衣装をまとった姿に。同誌の過去作品をオマージュしたもので、日本の伝統的な文化が欧米の感覚で解釈された作品という印象です。
クロスは謝罪しましたが、日本では「何が問題なのか分からない」ととらえる意見も多くみられます。日本版VOGUE誌の2014年11月号でモデルのミランダ・カーが芸者を思わせる格好で表紙を飾り、さまざまな日本の文化を取り入れたスタイルを披露した際も、日本では特に問題とならず、海外メディアで「文化的横取りでは」と議論されました。このときオーストラリア版The Conversation誌ではその問題点を、「見えない白人の特権で、差別を感じることもなくほかの人種になりきって遊ぶ」「文化の神聖さを消し去り単なるファッションやアクセサリーにしてしまう」などと指摘しています。
クロスの参加した撮影が批判されたのは、1つはこれがハリウッドでしばしばみられるホワイトウォッシング(主に白人以外の役柄に白人が起用されることを指すことが多い)ではないかというもの。最近では2017年3月に全米で公開される実写版「攻殻機動隊」で草薙素子役にスカーレット・ヨハンソン(関連記事)が起用されたことで議論がわき起こりました。今回は、ハリウッド同様アジア人にチャンスの少ないファッション業界で、アジア人のルックスが求められた企画に白人のモデルが起用されたこと、またVOGUE誌はこの3月号で現代女性の「多様性」を打ち出すとしていながら日本文化をイメージした撮影にアジア人を起用しなかったことが批判の的になっています。
さらに大きな問題となったのは偏ったイメージによってアジア人の「扮装(ふんそう)」をする“イエローフェース”。以前もフランス版VOGUEが、オランダ人モデル、ララ・ストーンの肌を黒塗りにして撮影し批判を受けたことがありました。ブラックフェースは、かつて白人が顔を黒く塗り侮辱的に黒人をまねたミンストレルショーという背景があるため、現代では広い文化圏でタブーとされています。VOGUEによる今回の“イエローフェース”と過去の“ブラックフェース”を並べ、このように肌色を塗ったり文化を安易にまねることを「白人の遊び」と表現する海外メディアも幾つかみられました。
日本は黄色人種の割合が圧倒的に多いため、こうしたことをさほど意識することもなく、今回の出来事を不快と感じる人もあまりいないようですが、海外では日本人も黄色人種として意識せざるを得ないさまざまな差別に遭い、それらを見過ごすことの危険性も実感することになります。だからこそ今回のように、当の日本人には過敏に思えても海外で大きな声があがるといったことが起るのかもしれません。
また、「多様性」をテーマにしているこの表紙を飾る、7人のモデルのうちアジア人は向かって左端の中国人モデル、リウ・ウェンのみ。さらに向かって右から2、3番目に黒人モデル、残り4人のうち1人はオーバーサイズのモデルとしてふくよかな体形が人気のアシュリー・グラハムが務めていますが、彼女だけが腕をだらりと垂らしています。これに対し「彼女だけほかのモデルと同じように太ももを細くみせるためにそうさせている」と批判するコメントや、グラハムの腰にかかるジジ・ハディットの指が長すぎると画像の修正を疑うコメント、2人の黒人モデルは意図的にかなり肌の色が薄い人を選んでいるとしたり、ラテン系のモデルがいないと指摘するコメントも。「全然多様じゃない」「人種差別の表紙。グッジョブ」「カーリーは謝ったけど、あなたたちはまだだね。待ってるよ」と厳しい意見が並んでいます。
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23日に公開され、半日で停止してしまいました。