いま午後三時です。(太宰治『斜陽』)――小説の一節を引用して時間を伝える時計「小説時計」が注目を集めています。
真っ白な画面に、時刻を描写した小説の一節と、その著者・作品名という文字のみが表示されるWebサイト。分単位ではなく時単位なのでかなりざっくりとした時計ですが、小説ならではの「五時が鳴った。」(ヴィクトル・ユゴー『レ・ミゼラブル』)という表現や、「ときに何時だなと時計を見ると、もう十一時過ぎである。」(夏目漱石『草枕』)といったセリフ調の内容は、短いながらも風情を感じさせます。
普段の短針・長針や数字だけで見る時計とは違った意味でより“時間”というものを感じ、また表示されている一節の場面や物語に思いを馳せたりと、シンプルながら文学好きにはたまらないものとなっています。知っている作品ならば余計に「よく寝たものだ」などと、つい口に出して言いたくなるかも。
作者は、さまざまなアイデアとプロダクトを生み出している、いなにわ(@inaniwa3)さん。今回の小説時計を作ったきっかけは、ピチカート・ファイブの曲「東京は夜の七時」を時計にできないか、という発想を入り口に生まれたもので、それから10日間ほどで制作したそうです。最初の着眼点がステキ過ぎた……。
小説の一節から“時間”を探すのは苦労しなかったそうですが、ただ「五時」で検索して出てきた文章が“朝の5時”なのか“夕方の5時”なのかは読まないとわからない場合があり、その点は苦労したとのこと。ちなみにオススメの一節(時間)は、「時計を見るとちょうど六時でした。」(宮沢賢治『ポラーノの広場』)。こちらも、どちらの6時かは、内容を知っている方なら情景とともに浮かんできそうです。
なお、表示された時刻の描写で知らないものが出てきても、著者・作品名をタップ(クリック)すると「青空文庫」の作品ページに飛んでくれるので、気になった作品はそのまま読むことができます。
小説時計について今後の展開などを聞くと、「壁掛け時計にするつもりで作ったので、気が向いたらやりたいです」といなにわさん。時刻を知る用途としての時計が徐々に不要になりつつある中で、こういった遊び心のある“時計”は面白くも一定の需要がありそうです。
Twitterではその発想に驚く声から、「ときめいた」「好き」「オシャレすぎる」と称賛の声を集める人気となっています。
画像提供:いなにわ(@inaniwa3)さん
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