福山雅治が、どんな難事件も解決する天才物理学者でも、日本を夜明けに導く幕末の風雲児でもなく、等身大の銀行支店長を演じているTBS日曜劇場「集団左遷!!」(夜9時〜)。
第1回(レビュー)では、三友銀行蒲田支店に赴任した福山演じる片岡洋が、支店の統廃合を推し進める本部の常務取締役・横山輝生(三上博史)に対し、蒲田支店の廃店計画を翻させるべく真っ向から勝負を挑んだ。そのためには、半年で融資額プラス100億円という本部から課せられたノルマを達成せねばならない。もっとも、そもそも本部は廃店ありきで、こんなムチャなノルマを課したわけで、片岡の「とにかく頑張るんですよ!」の掛け声には、蒲田支店の誰もが冷ややかだった。
せっかくの融資話をまたしても横取りされる
先週4月28日放送の第2話(レビュー)の前半では、副支店長の真山徹(香川照之)が片岡に、もし廃店になってもその後の処遇に悪影響が出ないよう、本部にいまからでも謝ったほうがいいと説得する。そこへ部下のひとり横溝厚男(迫田孝也)が戻ってくる。「町田エネラル」という会社から5000万円もの融資の相談を受けたというのだ。片岡はさっそく横溝と一緒に、同社の社長・町田(市川猿之助)にあいさつに赴く。5000万の融資は、電子ブレーカー開発についてのものだったが、町田によれば、従来の取引銀行からも融資を持ちかけられたものの、もう少し金利を下げてもらいたいので、三友銀行とあわせて検討しているところだという。このとき、片岡は、町田が学生時代よりエコな技術の開発に興味を持ち、べつに大きな夢を持っているらしいと知る。
しかし、町田エネラルへの融資の話は、あっけなく同じ三友銀行の羽田支店に横取りされてしまう(前回、滝川晃司[神木隆之介]が担当していた町工場への融資と同じ展開だ)。蒲田支店を羽田に統合しようともくろむ横山が、どこで話を聞きつけたのか、裏で動いたらしい。この事態に片岡は、羽田支店から必ず融資を取り戻すと宣言。これに対し真山からは、もしそれができなければ本部に謝ると約束させられる。
横溝はショックのせいか、有給をとってしばらく休んでしまう。片岡は横溝のためにも、町田とあらためて会い、彼の本当の夢が、大規模なソーラー発電事業だと知ると、それに必要な広くて、しかもただ同然で借りられるような土地を探し始める。……って、まだ融資を求められたわけでもなく、銀行がそこまでやる必要あるの!? という展開だが。
片岡はまず、本部の土地担当者に問い合わせるも、ちゃんと対応してもらえない。そこで新宿支店にいる同期の稲葉(東根作寿英)に相談するが、最初こそ話に乗ってくれたものの、片岡がどうも本部ともめているらしいと知るや、手を引かれてしまう。一方では、部下の木田美恵子(中村アン)や花沢浩平(高橋和也)とともに、文字どおり地べたを這いずり回って土地を探し続ける。
やがて横溝も復帰する。横溝は片岡とともに、木田が目星をつけてくれた土地へ向かう。このとき、横溝は片岡に、じつは本部の人事部に異動願いを出していたことを打ち明ける。しかし本部から返ってきたのは、希望退職の案内だった。仮に蒲田支店が廃店になれば、自分には行く場所がない。そう悟ったのだろう、横溝は、廃店にならないよう奔走する片岡についていくと決め、「一緒に頑張らせてください」と申し出る。
肝心の土地は海に近く、ソーラー発電には向かないことがわかった。しかしそこでたまたま会った農家のおばあさんから、思いがけず、より適した土地の提供に応じてもらう。ちなみに、飄々としたおばあさんを演じていたのは松金よね子。名コメディエンヌとあって、一瞬の出演ながら、しっかり印象を残すのはさすがだ。
広大で、しかも3年間は使用料をただで待ってもらえる土地を見つけて、片岡たちはさっそく町田に報告に赴く。とはいえ、肝心の5000万円の融資は羽田支店から取り戻せずじまい。こうなったら真山との約束どおり、横山に謝ろうと決意したところへ、当の真山からすぐに支店に戻るよう電話が入る。支店で待っていたのは町田だった。彼は羽田からの融資を蒲田に切り替えると伝えに来たのだ。片岡と横溝の気持ちに打たれての申し出だった。蒲田支店にとっては願ってもいない話だが、真山は片岡に一本取られて複雑な表情。
案外、策士だった? 片岡
最初は空回りしていた片岡の「頑張ろう」という呼びかけだが、彼自身が実際に頑張ってみせることで、行員たちにも徐々に受け入れられていった。こうして見ると、片岡は一種の人たらしなのかもしれない。
若手社員の平正樹(井之脇海)もまた、食品会社から給与振込の契約をとりつけ、大喜びで戻ってきた。じつはこれも、片岡が岩盤浴でたまたま知り合った三嶋という食品会社の社長(赤井英和)に頼んで、平に花を持たせたものだった。前回は担当していた会社の支店長に逃げられて「死にたい」と繰り返すなど、平には打たれ弱いところがある。そんな彼にやる気を出させるべく、社長と組んで一芝居打った片岡は、じつはなかなかの策士でもあるのかも。
このように、ノルマ達成までにはまだまだほど遠いとはいえ、行員たちのあいだで頑張って何とか蒲田支店を存続させようという機運が高まっていく。だが、気になるのは、町田エネラルへの融資が決まりかけた直後、急に羽田支店に横取りされるなど、蒲田支店の情報がどこかで本部に漏れているらしいことだ。ひょっとすると支店のなかにスパイがいるのではないか。そんな疑惑が浮上したころ、真山が何やら怪しい動きを見せ、さらにそこへ突如として横山が現れる。その現場を、片岡のほか行員たちに見られてしまうのだが、なかには横山の顔を知らない者も。そんな“雲の上”の本部役員が、一体、支店に何の用があってやって来たのか? そして真山は本部のスパイなのか!? 今夜放送の第3話で確認したい。
土地探し中の中村アンの靴が気になった
第2話では、真山が毎日定時で帰る理由が、妻の有里(西田尚美)が入院していることだとあきらかになった。彼が、やる気を出す片岡に反発し、穏便に済ませようとしていたのは、こうした事情があったのだ。原作小説の一つ『集団左遷』とその映画版でも、やはり同じ境遇にある会社員が出てくるので、そこからとった設定だろう。そういえば、日曜劇場の前々作「下町ロケット」でも、徳重聡演じる問題社員がいつも定時で帰る理由がこれだった。
それにしても、「集団左遷!!」はおじさんたちの頑張りや争いがメインの作品とはいえ、最近のドラマにしては女性の登場がちょっと少ないような気がする。数少ない女性の描き方にも気になる点がちらほら。たとえば、中村アン演じる木田はソーラー発電の土地探しで片岡に同行した際、ヘルメットこそかぶっていたものの、足に履いていたのはかかとの高いパンプス。せめて動きやすい靴にすればいいのに。
梨園から猿之助と“中車”が共演、よっ澤瀉屋!
「集団左遷!!」では毎回のゲストも楽しみの一つだ。第2話では、市川猿之助が、いとこの香川照之(歌舞伎役者としての芸名は市川中車)と共演をはたした。クライマックスでようやく一緒の場面(蒲田支店に町田がやって来たところ)が出てきたときには、思わず、2人の屋号である「澤瀉屋(おもだかや)!」と掛け声を上げたくなった。
第2回ではまた、第1回の山田たかお(宅配便の配達員の役)に続き、不動産屋の役で三遊亭小遊三がゲスト出演していた。同じ日曜の「笑点」メンバーを出すことで、あっちの視聴者を取り込もうという作戦なんでしょうかね、これは。
今夜放送の第3話では、浅野ゆう子と高木渉が経営者夫婦の役でゲスト出演。NHKの大河ドラマ「真田丸」のファンとしては、高木渉と迫田孝也の久々の共演が楽しみでもある。
近藤正高
ライター。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)、『一故人』(スモール出版)など。ドラマの背景などを深読みするのが大好き。Twitter
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