福山雅治の顔芸&アクション炸裂「集団左遷!!」 トム・クルーズばりの熱血コミカル第1回を徹底検証
「平成最後の下剋上」ドラマ、28日今夜が平成最後の75分スペシャル。
1991年、福山雅治演じる主人公・片岡洋が、メガバンク・三友銀行に入行した。驚いた。「日曜劇場」では異色の軽いキャラクターだ。TBS系の日曜劇場「集団左遷!!」(夜9時〜)が先週4月21日からついにスタート。
トム・クルーズばりの福山雅治
第1回で、常務の横山輝生(三上博史)の口から語られていたように、当時はバブル崩壊の直前、まだ銀行にとってぎりぎりいい時代だった。
その片岡は冒頭、都内の支店のリニューアルオープンの場面で、刑事気取りで建物をチェックして回ったかと思うと、同僚たちと無線で連絡を取り合い、タイミングを見計らったところでセレモニーを始める合図を送る。その姿に、バブルぎりぎり入行組ゆえか、どこか“軽さ”を感じさせた。このあとも、蒲田支店の支店長となり、初めて出勤するときも何だかノリノリだったし、支店に来てさっそく、大口の融資先の社長が、預金をすべて引き出して逃亡するというトラブルが発生するや、またしても刑事気取りで追跡し、突きとめる。この間、逃げる社長の車にトム・クルーズばりにしがみつく場面もあった。このあたり、やっぱり軽い。
この軽さは、日曜劇場の主人公としてはちょっと異色な感じがする。これまでの同枠の歴代の作品を振り返れば、主人公たちは目的遂行にあたり、たいてい何らかのモチベーションを持ち、それが物語の原動力となっていた。「半沢直樹」なら、町工場の父親が銀行から融資をストップされて自殺に追い込まれたことから、主人公は復讐を果たすべく銀行に入る。「下町ロケット」では、開発していたロケットの打ち上げ失敗の責任をとって宇宙科学開発機構を辞職した主人公が、父親の遺した町工場を継いで、今度はロケットエンジンの主要部品の開発により宇宙をめざした。
これに対し、「集団左遷!!」の片岡には、蒲田支店に赴任するまで、これといったモチベーションなく来たような感じである。あるとすれば、「映画やドラマの主人公になったつもりで楽しむ」といったことぐらいか。もちろん、第1回の終盤のせりふからあきらかになったように、片岡にも、28年間の銀行員生活のなかでそれなりにつらいこともあったらしい。しかし、おそらく彼はそのたびに、何かしら楽しむすべを見つけることで乗り切ってきたのではないか。
若手行員の奮闘に触発される片岡
そんな片岡も、支店長になってようやくモチベーションらしきものが芽生える。そのきっかけをつくってくれたのは、支店に勤務する行員たちだった。とくに第1回では、営業課に勤める平正樹(井之脇海)と滝川晃司(神木隆之介)の奮闘ぶりに触発されたところが大きい。先述の逃亡社長は平の担当だった。一方の滝川は、担当する小さな町工場が融資の返済を延滞していることを、臨店(本部が支店の融資状況をチェックし、間違いの指導などを行うための検査)により指摘され、融資の全額回収を命じられる。滝川は、その事実を隠すため、臨店の前に返済の延滞報告書を抜き取っていたが、結局バレてしまったのだ。それでも彼は、全額回収すれば確実にその会社はつぶれると、本部の担当者に反論する。
ここで片岡は、町工場に向かった滝川を追いかける。返済が滞った原因は、経営不振ではなく、社長のケガにより、ほんの一時的に仕事がストップしてしまったためだった。滝川がこの町工場にこだわるのは、彼にとって本部から蒲田に飛ばされてから、初めて担当したのがここであり、それで救われるところがあったからだという。これを聞いて片岡は、本部の支店統括部に知り合いがいるから、明日掛け合ってみると、つい安請け合いしてしまう。
支店長就任にあたって片岡は、蒲田支店の廃店を含むリストラ策を推し進める常務の横山から、「頑張らなくていい」「何もするな」と釘を刺されていた。そうして何事もなくやりすごし、廃店にできたら、本部にまた戻してやるというのだ。滝川の一件を引き受けてからそれを思い出し、片岡は慌てるのだが、すでに遅し。翌日、本部統括部の部長・宿利(酒向芳)に掛け合うも、やはり対応はにべもなかった。
その夜、帰宅して「上と下とどっちを大事にすべきか」とぼやく片岡に、妻のかおり(八木亜希子)は「それは下でしょう」と助言する。「それが難しい」と答えながらも、彼はそれに何か気づいたようだ。
本部の横山に対し、支店のため猛然と反撃を開始!
次の日、再び張り切って出勤したものの、副支店長の真山徹(香川照之)にせっつかれ、それまで伝えそびれていた、支店の半期業務目標をついに明かすことになる。片岡が支店の各課長や主任に配った書類には「純増100億円」という、実現困難なノルマが掲げられていた。
少しでもノルマに近づくためにも、やはり頑張ってる滝川を応援してやりたいという片岡だが、「頑張っていいんですか」と真山が切り出す。真山は、蒲田支店が廃店候補になっていることをすでに把握しており、本部には下手にさからわないほうがいいと訴える。ここで真山が片岡に向かって口にしたのが、横山と同じ「頑張らなくていい」のせりふだった。真山いわく、片岡が頑張るのは本部に戻ってから、仮に蒲田支店が廃店になった場合、従業員たちが少しでもいいところに出向できるよう、そのときにこそ頑張ってフォローしてほしいというのだ。
上(本部)と下(支店)の板挟みになった片岡は悩む。そこへ来て、横山常務と各支店長の集まる食事会に来るよう宿利から連絡が入る。一方、滝川の担当の町工場には、隣りの羽田支店(蒲田支店の統合先の候補となっていた)が融資することが、片岡の知らないうちに本部で決定されていた。彼は食事会の席でその事実を、滝川からの電話で知らされ、愕然(がくぜん)とする。
これも横山の指示と気づくや、片岡はその場で猛然と反撃を開始する。「よその支店にわざわざ横取りさせるようなことをしなくてもいいんじゃないでしょうか!」「臨店だってそうです、損失を狙い澄まして来なくてもいいんじゃないでしょうか!」「何も聞いてなくて支店で頑張ってる行員に、決めつけた廃店とかリストラとか失礼じゃないでしょうか!」。畳み掛けるように訴える片岡に、横山も黙ってはいない。三友銀行全体のためにも廃店は遂行しなくてはならないと、説き伏せようとする。
あくまで企業の論理を押し通す横山に、それでも納得のいかない片岡は「私に頑張らせていただけませんか。もし、もしノルマを達成することができたら、蒲田支店を廃店にしないでいただけないでしょうかっ」と、頭を下げて懇願するのだった。
片岡「銀行員最後の日にきょうという日を振り返ったときに、後悔だけはしたくないんですっ」
横山「そこまで言うならどうぞ、好きにしてください。ただしっ、ノルマ不達成のときには君の保証もできませんよ」
片岡「わかってます。その代わり、もしノルマ達成したら廃店にしないでいただけますよね。だったら、廃店にしたくない店にするまでです」
若い行員の奮闘のためにも、支店存続に向けて片岡が本部に真っ向から勝負を挑んだ瞬間だった。これまで福山がドラマで演じてきた人物のなかでも、かなり泥臭い役どころである。今後、あくまでクールな三上博史演じる横山、また初回では得意の「顔相撲」も抑え気味だった香川照之演じる真山は、片岡の行動に対しどんなリアクションを見せるのだろうか。そういえば、平成もいよいよ今週火曜に終わってしまうので、このドラマにとって今夜が改元前の最後の放送となる。「平成最後の下剋上」というキャッチフレーズを掲げているからには、やはり何らかの展開があるのか!? 第2話(75分スペシャル)も見逃せない。
近藤正高
ライター。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)、『一故人』(スモール出版)など。ドラマの背景などを深読みするのが大好き。Twitter
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