古田新太が女装家の教師を快演。土10「俺のスカート、どこ行った?」はジェンダーバイアスを恐れない傑作の予感

バイアスがあるのはしょうがない、だけど、変えていこう、そのたびごとに考えていこうという意志。

» 2019年04月27日 12時20分 公開

 ドラマ「俺のスカート、どこ行った?」(日テレ土曜日よる10時)、略称「俺スカ」の評判がいい。ゲイで女装家の教師:原田のぶおを、古田新太が演じる学園ドラマだ。視聴率10.9%で好スタート。


俺のスカート、どこ行った? ゲイで女装家の教師を演じるのは古田新太 イラスト/たけだあや

ゲイで女装家の教師

 ゲイで女装家の教師という設定は、10年前だったら「もしも」力が強くて、奇想天外な思弁的ドラマになっていただろう。だが、いまや、起こり得る。いや、すでに起こっている。そういったリアリティを要するタイミングで、「俺のスカート、どこ行った?」は、ちゃんとしたドラマになっていただろうか?

 なっていた。

 第1話、素晴らしかった。しかも、破天荒でありながら、ちゃんとしているという絶妙なバランスを貫いた。

ゲイは性の向き。女装は表現の形

 「おっさんが女のかっこうしてたらキモいってのが常識だろ?」という生徒・東条正義(道枝駿佑)に、

 「はぁ? 知らねえのにおまえ程度のちんけな常識でキモいとか決めるのやめてくんない? いつかその決めつけがおまえを大人になってから苦しめるぞ」

 と原田のぶお先生。

 黒板に「LGBT」と書き、「Lはレズビアン。女性の同性愛者のこと。これはゲイのG。男性の同性愛者のこと。Bはバイセクシャル。男性も女性も好きになれる人。Tは……」

 「トランスジェンダー。心と体の性別が違う人のことですよね?」

 「心の性別って何よ? あえて言えば、社会が割り当てた性別とは別の性別で生きる人」と解説。信頼できる脚本だということがガンガンに伝わってくる。

 「ねっ? 私はG、ゲイ。そして女装もしている。ゲイは性の向き。女装は表現の形」

損してるヤツも見ろ

 名言も続出である。

 「ヤバイおじさん! セクハラしないでくださいねぇ」という野次に対して、壇上から降りて進み、男子生徒の前に行って原田のぶおが言うせりふ。

 「やばいおじさんよりやばい、かなりやばいおじさんなんだよ。下品な言葉叫んでるヤツとはランクが違うんだよ。恋してやろうか、この野郎」

 廊下を走る原田のぶお、「私が走ればこの廊下はパリコレになる!」

 顔で損しているという生徒に「得してるヤツばっか見るな。損してるヤツも見ろ」

 校長の言葉。「私たちが当たり前に設定していた常識は、原田先生からすると非常識なんでしょう。それはただただ私たちにとってのみ都合のいい常識だったのかもしれません」

バイアスは悪じゃない

 説教くさいドラマではない。ぐいぐい惹き込まれて楽しめるエンターテインメント作品だ。5分前に閉まっている校門をショベルカーでぶっ壊すという「こち亀」的な大暴れシーンもある。原田先生が、聖人君子ではなく、ダメな部分もみせる。

 「あんた しばらく人肌に触れてないでしょ? 私 分かるの そういうの」と、決めつけて、長井あゆみ先生(松下奈緒)に言い放つ。生徒の名前を覚えず、「おまえ」呼ばわりする。ろくに話も聞かずに、生徒がつけているマスクを取るように言う。

 ジェンダーバイアスどころか、あらゆるバイアスを使って、ズケズケと、人の気持ちに入り込んでくるキャラクターだ。だが、それが差別的にならないのは、原田のぶおが変わることを恐れてないからだ。バイアス滅びよと視野狭窄に陥ることなく、バイアスがあるのはしょうがない、だけど、変えていこう、そのたびごとに考えていこうという意志がある。

 飛び降りようとする生徒のところにいって、とにかく話し合う。まさか飛び降りないと思われてる生徒に飛び降りるように鼓舞し、人は変われることを示そうとする。コミュニケーションすることで、人が変わることを実現していく。決めつけを持続させず、すぐに変えていく。

 自らも、名前なんて覚えないと言っていたにもかかわらず、最後には覚えた生徒の名前を呼ぶ。「人は、時間さえあれば変われるんだ」ということを生徒に伝えようとしている。それを演じる古田新太の自然なふるまい、キャラクターの強さ。


俺のスカート、どこ行った? 屋上に立ち尽くす生徒を止めるのではなく、逆に飛び降りるように鼓舞する。人は変われることを示そうとする イラスト/たけだあや

出演陣のすごさ

 さらに、取り巻く先生たち。安定の抜けっぷり荒川良々、生活指導役の松下奈緒、「ぽこちんは どうしてるんですか?」の白石麻衣、保健体育の先生役をやらせると日本一の大倉孝二、「今日から俺は!!」でも先生役だったシソンヌのじろう。

 ばっちりの布陣。

 校長先生いとうせいこうが「ダイバーシティ、本当の意味で多種多様であること」と語るのもピッタリ。そして、明智秀一(永瀬廉:King&Prince)、東条正義(道枝駿佑;なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、若林優馬(長尾謙杜;なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、今泉茜(竹内愛紗)など、27人のフレッシュな2年3組のメンバーもいい。

画がカッコいい

 そして、なにしろ、画がカッコいい。

 オープニング、逃げる痴漢野郎を原田のぶおがジャンプキックするシーン。カット割りでごまかさずに、バッチリ一枚の画としてみせた。それと呼応するラストの生徒ジャンプ・シーン。ここでも、ジャンプする画をスローモーションでしっかりとみせて、飛びながらのピースの絶妙な角度で、「おおおおー!」と感動させた。

 脚本は加藤拓也。『博士の愛した数式』の舞台化、King&Princeの高橋海人、神宮寺勇太、岩橋玄樹のトリプル主演「部活、好きじゃなきゃダメですか?」の脚本などを手がける。音楽は、「トクサツガガガ」「ブラック・スキャンダル」「映画 怪物くん」の井筒昭雄。原田のぶおキャラクター監修は、女装パフォーマーのブルボンヌと、ゲイであり日本テレビ報道局社会部記者でもある白川大介。チーフプロデューサー池田健司、プロデューサー大倉寛子。演出、狩山俊輔・水野格。

 バカバカしくも破天荒でありながら、われわれの今を受け止めた名作ドラマになりそうな予感である。第2話、楽しみだ。

米光一成

ゲーム作家、デジタルハリウッド大学教授。代表作「ぷよぷよ」「はぁって言うゲーム」「はっきよいゲーム」等

Twitter

たけだあや

イラスト、粘土。京都府出身。

Twitter

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/18/news202.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの行動”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」【大谷翔平激動の2024年 「家族愛」にも集まった注目】
  2. /nl/articles/2412/20/news023.jpg 60代女性「15年通った美容師に文句を言われ……」 悩める依頼者をプロが大変身させた結末に驚きと称賛「めっちゃ若返って見える!」
  3. /nl/articles/2403/21/news088.jpg 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
  4. /nl/articles/2412/21/news038.jpg 皇后さま、「菊のティアラ」に注目集まる 天皇陛下のネクタイと合わせたコーデも……【宮内庁インスタ振り返り】
  5. /nl/articles/2412/21/news056.jpg 真っ黒な“極太毛糸”をダイナミックに編み続けたら…… 予想外の完成品に驚きの声【スコットランド】
  6. /nl/articles/2412/21/news088.jpg 71歳母「若いころは沢山の男性の誘いを断った」 信じられない娘だったけど…… 当時の姿に仰天「マジで美しい」【フィリピン】
  7. /nl/articles/2412/20/news096.jpg 新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
  8. /nl/articles/2412/18/news015.jpg 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  9. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  10. /nl/articles/2412/17/news195.jpg 「ほぼ全員、父親が大物芸能人」 奇跡的な“若手俳優の集合写真”が「すごいメンツ」と再び話題 「今や全員主役級」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」